亀田一家は日本スポーツ史上最悪の悪役、ヒールでした。

ヒールの法則、それはまず憎たらしいほど強いことが前提条件のはずでした。弱いヒールなんて、ヒールではない、そのはずでした。

亀田はCheater、ずるい奴、という意味合いが強烈な点で特殊なヒールです。

江川卓や桑田真澄なども〝ずるい奴〟という色彩を帯びたヒールでしたが、彼らには圧倒的な実力、つまりヒールの大前提がまずありきでした。

「亀田」の場合は多くの人の神経を逆撫でする下劣な言動を繰り返す一方で、強豪を回避しながら「弱い相手を選んで王者になる」「世界王者になったらええんやろ」という、日本ボクシング界では常套手段でもあったアプローチを、露骨にやってしまい〝弱くてずるい奴〟というなんとも滑稽なヒールになったのでした。

度重なる反則行為はヒールであろうが言語道断。毎度毎度のKO宣言も、喜劇的なウソで嘲られる対象になってしまいました。

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井上尚弥はプロボクシングへの印象について「弱い相手を選んで試合をする。それがテレビに流れちゃうっていう時代だったんで」と、明らかに亀田一家に向けた嫌悪感を露わにしていました。

多くのボクシングファンが「亀田」に抱いた思いも同じだったでしょう。

激しいバッシングに、興毅が「5階級制覇したら文句ないやろ!」と啖呵を切ったとき、やはり彼らは何もわかっていないと呆れ果てました。

今の時代、簡単に世界王者になれるのです。もし、サッカーやラグビーのW杯を統括・主催する団体が4つあれば、日本代表はすでに何度か優勝しているかもしれません。あるいは17階級あれば、何階級も制覇しているでしょう。

PFPがあれば日本は、ブラジルもニュージーランドも凌駕する最強と評価されているかもしれません。

4団体17階級時代だからこそ「誰に勝ったのか?」は、このスポーツにおいて最も重要な評価基準になっているのです。

もちろん、井上も強豪ばかりと戦ってきたわけではありません。

ただし、強くはないけどベルトを持っているジェイミー・マクドネルやポール・バトラー、マーロン・タパレスのような階級最弱王者の烙印を捺された相手や、そいつしか手を挙げなかったという挑戦者というケースで、能動的に弱い相手は選んでいません。

「亀田」は明らかに「世界王者になればいい」と能動的に穴王者を選ぶスタンスでした。

「弱いくせに」「ズルい」。その二つが掛け合わされて、世間の反感を増幅させてしまったのです。

数多くのペナルティや事件を〝懲役〟のように耐えた「亀田」でしたが、時間が経っても彼らのリング内でのイメージは改善されることはありませんでした。

その世間からの激しい非難は亀田史郎と〝a champion〟の座に就いた三兄弟にとって、心の奥底にこびりついて消して消えることのない腫瘍であり続けたでしょうが、彼らは謝罪とその態度を見せること、頭を下げることしかできませんでした。

そんな時期に日本のリングを駆け上がったのが井上でした。

自分たちとは真逆の善玉、井上を倒せば全てがひっくり返る。そう考えるのは当然で、信じられないほど頭の悪い愚行を繰り返してきた彼らにでもわかる、忌々しい腫瘍を除去する唯一無二の方法でした。



和毅はこの1〜2年、「今の自分の最大のモチベーションは井上チャンピオンを倒すことです」と繰り返してきました。

「ここで躓いたら、一族が贖罪できるチャンスは消えてしまう」。その思いもあったはずですが…。その意識が感じられない試合だったのは残念です。まあ、そういうスタイルなんです、そもそもが。

ただ、ボクシング界はいつだって魑魅魍魎。

WBOジュニアバンタム級王者の井上に、直近の試合で敗退していた銀行員アントニオ・ニエベスが挑戦したように、和毅にも訳のわからないオファーが舞い込む可能性はゼロではありません。

那須川天心が孵化するかどうかわからない現状で、井上のキャリアで亀田和毅が最大のビジネスパートナーであることは間違いありません。

ジュニアフェザーに落とす覚悟があるなら、ジョンリール・カシメロやルイス・ネリとの〝挑戦者決定戦〟だってありでしょう。