「アルファベット団体の暫定王座戦」と書くと、最も価値の低い世界選手権の一つになってしまいますが、ここに「ヘビー級」「アジア人」というスパイスを振りかけると、アジアにとってはあらゆるスポーツの中で最も羨望・渇望し続けた頂点に早変わりします。

日本時間の明日、WBOヘビー級暫定王者・ヂャン・ヂレイ(張志磊)が、前王者ジョー・ジョイスとのダイレクトマッチのリングに上がります。

ウィリアム・ヒルの掛け率は張の勝利が8/11(1.27倍)に対して、ジョイスは11/10(2.1倍)。

ベルトもオッズも、初戦から完全に入れ替わりました。

そして、前日計量では、両者とも前回から増量。

張は278ポンド(126.1㎏)→287.25ポンド(130.3㎏)と9ポンド(4.08㎏)アップ。

そしてジョイスは256ポンド(116.1㎏)→281.25ポンド(127.6㎏)、なんと25.25ポンド(11.5㎏)も増量してきました。

両者の体重差は初戦の10㎏から2.7㎏と一気に縮まりました。



マニー・パッキャオとフロイド・メイウェザーを変態として除くと、他の階級ではあり得ない「対戦相手や戦略によって自らの体重をデザインする」のがヘビー級です。

他の階級では「より弱い相手と戦うために自分も弱体化する」減量が付きものですが、「自分が一番強い体重」を求めて体を作るのがヘビー級です。

今回、両者とも体重を上乗せしてきた意図が「パワー>>>スピード」にあるのは明らか。

張は前回の成功体験をより強調する狙いで、そしてジョイスは前回の敗北を「体重差で負けた」と痛感しての大増量です。

ジョイスがジョセフ・パーカーをストップしてWBO暫定王者決定戦を制したときの前日計量は271.25ポンド(123.0㎏)。巨漢の中国人を相手の初戦をスピード勝負で勝ち切ろうとした戦略が間違っていたという分析ですが…。

ヘビー級以外の選手が増量して階級を上げる場合、パッキャオや井上尚弥を見るまでもなくスピードとスタミナも持ち込むことは可能です。

しかし、パッキャオですら25.25ポンド(11.5㎏)なんて重量を一気に上げたことはなく、井上らは最大でも4ポンドの増量を時間をかけて慎重に行なってきただけ。

今回のジョイスは相当な重量をわずかな期間で増やしました。これは、パワーを獲得する代わりにスピードとスタミナを捨てるトレードオフ、賭けです。

舞台はまたしても英国、ロンドンのウィンブリー・アリーナ。ヘビー級の張がのし上がっていくには、敵地で戦うしかありません。だから、ヘビー級はアジアにとって羨望の階級なのです。

もし、アジア人がアルファベット団体の暫定ストラップの一つではなく、世界ヘビー級の完全統一王者になるなら、アジア視点では「大谷翔平のMLB本塁打王」にも並ぶ大偉業と言い切っても良いかも知れません。 

日本はおろか、母国の中国ですらほとんど関心が払われていない張志磊ですが「ジョイスを撃破したら次は(英国の総大将)タイソン・フューリーか、オレクサンデル・ウシク」と息巻いています。

見せてもらいましょう、アジアの馬鹿力というやつを。