バンデージ巻き(ハンド・ラッパー)にカットマン、トレーナーが兼ねることもあるリングサイドの職人たち。

熟練の技術はもちろん、彼らに求められる絶対条件はファイターとの信頼関係です。

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一番大切な二つの拳にバンデージを幾重にも巻く繊細な作業,吹き出した血が目に入り視界が塞がれる、いつドクターチェックが入るかわからない不安…。

もし、違和感を覚えるようなバンデージや、止血の不安が解消されなければファイターが対戦相手に集中することは不可能です。

「焦っているファイターと一緒になって、カットマンまでジタバタしては絶対にいけない」(ルディ・エルナンデス)。

「ファイターを安心させてやることだ。少なくとも次の3分間は大丈夫だと、ゆっくりと説き伏せるように止血してやるんだ。といってもインタバルは60秒しかない、とにかく無駄を削ぎ落として何をするのか、何を話すのかを研ぎ澄まさなければならない」。


英国の重鎮ケリー・ケイエスは語ります。

「カットマンがミスを犯せば、試合を落とす。一つの敗北が優秀なボクサーのキャリアを崩壊させる可能性もあるのがボクシングだ」と自戒します。

「ファイターという生き物は、表面上はどんなに冷静を装っていても興奮状態でコーナーに戻ってくる。もし彼がカットしていたら、さらに興奮してパニックになっているのが普通だ。『傷の深さは?長さは?』『止まるのか?酷くなるのか?』『次のラウンドでスパートをかけるべきか?』『出血が酷くなってもタオルを投げないと約束してくれ』…インタバルの60秒で答えられるわけもないことを聞きたくて彼の頭はパンクしているのだ」。

「それは良くないことだ。選手は目の前の相手だけに集中すべきで、自分の傷の状態を気にしてはいけない」。

「たった60秒足らずで、出来れば試合終了まで、最低でも次の3分間は出血が酷くならないように処置しなければならない。傷の状態はもちろん、選手と相手のスタイル、その日の試合展開によって処置のやり方は無限に変化する」。

数え切れない試合でカットマンをつとめてきたケイエスは、非常に思い出深い選手としてリッキー・ハットンの名前を挙げています。

「ハットンは気性が激しく、わかりやすい分、まぁ厄介なヤツだった。対戦相手だけでなく、カットマンとも戦おうとするファイターだった。ただ、ああいう男は一旦信用するととことん信用してくれる」。

コンビを組んだ当初、ハットンはカットしてコーナーに戻ると、大したカットでなくても「深さは?」「長さは?」「血は止まるのか、止まらないのか?」「次のラウンドで決めに行かなきゃダメか?」「出血がひどくなっても絶対にタオルを投げないと、今ここで誓え!」…矢継ぎ早にまくし立てたそうです。

それが、ケイエスを信頼するようになると、インタバルの口数はどんどん減っていったといいます。

「インタバルでは、黙ってカットマンに処置を任せる。こちらが何も言わなければ何も聞いてこない、つまりカットマンが何も言わなければ『次のラウンドは大丈夫、無理に行く必要はない』ということを理解しているということ」。

「そこまで選手との信頼関係を築くことをが出来たら、第一段階は完了だ。出血はカットマンが止める。選手は普段通りに戦うだけだ」。

ケイエスの言葉には重みがあります。 

「傷口は絶対に強く拭いてはいけない。絶妙の手加減で抑えるんだ。出血させないことと同じくらいに大切なのは、腫れさせないことだ」。
 
「強く抑えたために内出血して腫れてしまい、瞼がシャッターを下ろしてしまう…良く見る光景だが、あれはカットマンが未熟だから。カットマンは外科医ではない。試合中の長くて20分の間だけ、出血と腫れを抑えることが仕事だ」。



ーーー続きます。