英国は大番狂せを起こすよりも、起こされる国です。

それは、英国には過大評価されるボクサーが多い、ということの裏返しです。

最近でも、10日にジョシュ・ウォリントンがルイス・アルベルト・ロペスに敗れてIBFタイトルを手放しました。

'The Leeds Warrior'は昨年のマウリシオ・ララ戦に続く、メキシカンへの〝金星献上〟。

英国の人気者が過大評価だったことだけでなく、ロペスにしろ、ララにしろ、彼らが完全アウエーの敵地に強烈なモチベーションを胸いっぱいに秘めて乗り込んだことも、番狂せの引き金になりました。

2019年、用意周到に全米デビューを図ったアンソニー・ジョシュアは、安全牌のジャーレル・ミラーの代役アンディ・ルイスJr.にまさかのストップ負け。「ヘビー級最強」と目されていたジョシュアのイメージは瓦解してしまいました。

ヘビー級では2001年にレノックス・ルイスもハシム・ラクマンの拳に大番狂せで沈められています。

過大評価されたボクサーが、圧倒的有利の予想の中で、最強にモチベーションを膨らませた挑戦者を迎えるーーー番狂せが起きる典型的なパターンです。

 


もちろん、英国が大番狂せを起こしたケースもあります。

すぐに思い浮かぶのは、2014年のケル・ブルックがカリフォルニアでショーン・ポーターを2−0で競り落とした一戦に、1986年にアトランティックシティでロイド・ハニーガンがドン・カリーを破壊して、ウェルター級のベルトを英国に持ち帰った2試合。

米国の人気階級でビッグネームの王者に勝利した大金星は英国の一般メディアでもトップニュースで報じるなどハニーガンとブルックは一躍ヒーローになりました。

 

今回のバトラーはヘビー級でもウェルター級でもない、母国でも注目度が高いとは口が裂けても言えないバンタム級で番狂せを狙います。

しかし、ハニーガンやブルックのように、大番狂せを渇望して、バンタム級が人気の敵地に降り立ったことは間違いありません。

ドネアが井上との初戦でそうだったように、海外の軽量級選手は大会場の大観衆を経験したことがありません。「何万人もの観客が大声をあげて盛り上がっていた。あんな経験は初めて、夢のようだった。アドレナリンがでっぱなしだった」というように、バトラーのモチベーションもその大舞台に上がるとさらに燃え上がるでしょう。

圧倒的不利のオッズと予想を考えると、大番狂せの可能性はウェルター級の2試合よりもさらに厳しいでしょうが、バトラーが過去最高の心身でリングに上がるのは間違いありません。

一方の井上に、ウォリントンやジョシュアが陥った番狂せの穴はないのでしょうか?

PFP1位など評価先行の面は否めないものの、日本のモンスターがPFPファイターであることに異論がある人は極めて少数派でしょう。

そして、バトラーは「井上の弱点はクロスレンジでの防御」と見抜いていますが、ルイスJr.やララ、ロペスのように王者の穴を突く武器は何一つ持ち合わせていません。

世界基準では誰と戦ってもアンダードッグの雑魚王者バトラーと、誰と戦っても圧倒的有利と見られる井上では、戦力が違いすぎます。

例えば、ルイスJr.は接近戦でのパンチのパワーと回転力という王者を凌駕するカードを持っていましたが、バトラーはそんなカードを一枚も持っていません。

Anything Could Happen 


リングの上では何が起きても不思議ではありません。 

大番狂せが起きる可能性は完全にゼロではありません。何かしらの事故が起きた場合は、井上が敗北するでしょう。

しかし、起きるとしたら、ルイスJr.がジョシュアを倒したような、日本代表がドイツとスペインを撃破したような、そんな裏付けや理屈が存在しない大番狂せです。

階級最強王者と、全階級通じても最弱王者のバトラー。10回戦えば10回圧勝できる、それでも言い表せないほど両者の戦力差は大きいものがあります。