「ノニト・ドネアとは何者なのか?」。
アメリカとパッキャオに憧れたフィリピーノ。
それなのに、軽量級のアジア人であるがゆえにアメリカにホームは作れず、パッキャオにもなれなかった39歳。それでも、ノニト・ドネアが歴史的に傑出したボクサーであることは明らかです。
WBSSの決勝戦が始まるまで、井上尚弥の前に「レベルの高いフェザー級から逃げ戻ったロートル」が立ち塞がるなんて誰も想像していませんでした。
バンタム出戻り後のドネアはノルディーヌ・ウバーリ戦までの4試合(ライアン・バーネット/ゾラニ・テテ※/井上尚弥/ウバーリ)を圧倒的不利の予想でリングに上がるアンダードッグでした(※テテは怪我を理由に離脱、代打出場のステフォン・ヤングには有利予想)。
井上戦で大番狂わせを起こしかける大健闘を見せてもウバーリ戦で不利予想を立てられたのは、専門家もブックメーカーも「バーネットらに勝ったり、井上を苦しめたのは幸運だっただけ」と見られていたからです。
しかし、そのウバーリとレイマート・ガバリョを残酷なまでに破壊した勝ち方を目撃した私たちの誰もが、もう「運が良いだけ」とは口にしなくなりました。
バンタム最強は井上かドネア。誰もがそれを認めるようになったのです。
さて、フィリピーノ・フラッシュのキャリアを振り返って行こうと思います…その前に2021年5月29日、ウバーリを粉砕したとき、ドネアはエントリー資格があまりにも厳格なため歴史上5人しかいなかったエリート倶楽部への入会が許されました。
「3つのディケイドで世界王者」倶楽部です。
西暦など所詮は人間が勝手に区切ったもので「2つのディケイド」なら運が良ければ誰でも達成できます。しかし、それが「3つ」となると、話は全く違ってきます。
【4つのディケイド〜史上たった一人だけ】
■マニー・パッキャオ(90年代、00年代、10年年代、20年代)=フライ・ジュニアフェザー・フェザー・ジュニアライト・ライト・ジュニアウェルター・ウェルター・ジュニアミドル=
【3つのディケイド〜ドネアは史上5人目】
■バージル・ヒル(80年代、90年代、00年代)=ライトヘビー・クルーザー=
■イベンダー・ホリフィールド(80年代、90年代、00年代)=クルーザー・ヘビー=
■バーナード・ホプキンス(90年代、00年代、10年代)=ミドル・ライトヘビー=
■フロイド・メイウェザーJr.(90年代、00年代、10年代)=ジュニアライト・ライト・ジュニアウェルター・ウェルター・ジュニアミドル=
■ノニト・ドネア(00年代、10年代、20年代)=フライ・バンタム・ジュニアフェザー・フェザー=
※参考※【カエル跳びの2つのディケイド】
■ジョージ・フォアマン(70年代、90年代)=ヘビー=
▶︎パッキャオはあまりにも特別ですが「3つのディケイドで世界王者」も極めて特別な才能です。
そして、パッキャオとメイウェザーを除くと軽量級で世界王者になったボクサーはドネアだけです。
メイウェザーの「ジュニアライト」級は欧米直訳では「小型軽量級」ですが、パッキャオとドネアはフライ級、日本基準でも世界のどこでも「文句無し・問答無用の軽量級」です。
「重量級ほど選手寿命が長い」のは常識です。
しかも、ドネアはこの6人の中で唯一の出戻り、しかも2階級も出戻りです。
パックメイはジュニアミドルまでちょっかいを出しましたが、あの二人は超弩級の変態です。ドネアの出戻り方は、パックメイのようなふざけた〝つまみ食い〟ではありません。
もちろん、意地悪な言い方をすると、レベルの高いフェザー級で通用しなかったから、レベルの低いバンタムに逃げ戻っただけ、という見方も出来ます。
実際に、今のドネアの強さにはその要素も多分に含まれているでしょう。
「欧米でバンタムよりもずぅと大きな試合が期待出来るフェザーに再挑戦してやる!」という自信があるなら「ジュニアバンタムでも下げられる」なんて口にしません。自信がないから「下」に沈降するのです。
そして、その〝ツッコミどころ〟は聡明なドネアならわかっているはずです。
かつて、ロイ・ジョーンズは「ヘビー級タイトルを〝空き巣で盗んで〟ライトヘビーに逃げ帰った」と非難され、そのことが心の中で引っかかっていた、重荷になっていた、と告白しています。
「ライトヘビーでは絶対に負けられない」と。
ドネアとジョーンズは身体能力に依存した引き出しの少ないスタイルのファイターで、よく共通点を検証されてきました。
ジョーンズを見ていると、一度大きくした肉体を再び萎縮させる…それはボクサーの肉体を病的に蝕むだけでなく、精神もやはり病的に蝕むものかもしれません。
ところが、ドネアにはそんな後ろめたさは全く感じられません。
もちろん、ジョーンズのヘビー級と比べたら、ドネアのフェザー級なんて全く注目されていない不人気階級です。「人気階級から逃げた」なんて誰も騒ぎません。
しかし、ドネアとジョーンズの違いは、おそらく、そこだけではありません。
ジョーンズは「どうせ最強」と見られていた〝出戻り階級〟で何度も番狂わせを起こされ、凄惨なKO負けを重ねてしまいました。
一方のドネアは「出戻っても無駄」とWBSSでも大穴と見られる中で、番狂わせで勝ち進みました。その充実感は、大きいはずです。
そして、井上との試合は、米国ではたったの一度も経験できなかった大会場フルハウスのメインイベントを張れたという点でもプロボクサーとしての喜びを噛み締めたはずです。
ジョーンズの場合は「人気階級から逃げて出戻った」という以外では、あらゆる面でドネアの逆でした。
ジョーンズは「時計の針」も「階級」も逆回しすることに大失敗してしまいましたが、ドネアはそのMission impossibleを軽量級にもかかわらず見事に遂行しているのです。
それだけでも、特異ですがTime Bandits=時間泥棒と呼ばれる息の長いボクサーによく見られる特徴が「優れたスタイルチェンジャー」であることにも思いを至らせると、22年48試合にも及ぶキャリアで左フックを振り回すファイターであり続けているドネアは驚くべきサンプルです。
超弩級の変態に見えるパックメイや、50歳までトップ戦線に踏みとどまった妖怪ホプキンスは、極めて巧妙にスタイルチェンジを行ったという点で、実は理にかなったTime Banditsでした。
パッキャオの左や、メイとホプの右は一撃必殺のパンチでしたが、年齢を重ねた彼らはそれをフィニッシュブローではなく〝見せ球〟〝カウント球〟として多く使うようになります。
しかし、ドネアの左は22年経っても〝決め球〟 です。
井上だけでなく誰もが「あの左だけはもらわない」と研究し、厳戒態勢を敷く中で、やすやすとその対策網を破ってきたフィリピーノ・フラッシュ。
先日、BoxRecのデータでも紹介したドネアの左。あの命中率の低さが表しているのは、ドネアが下手くそというわけではありません。
照準を合わせるための空振り、そして巧妙に撒く餌としての捨てパンチが多いからです。
井上もウバーリも、ドネアの左を食ったボクサーは、昔っから必ず同じセリフを吐きます。警戒心が最も高いはずの序盤で被弾したにもかかわらず、彼らはこう言うのです。
「調子が良かったから油断した」「(油断したから)あのパンチだけが見えなかった」。
6月7日のさいたまスーパーアリーナ。ドネアが急激な衰えを露呈しない限り、井上が余程の対策を講じない限り、井上はあの左を封じることは出来ないでしょう。
アメリカとパッキャオに憧れたフィリピーノ。
それなのに、軽量級のアジア人であるがゆえにアメリカにホームは作れず、パッキャオにもなれなかった39歳。それでも、ノニト・ドネアが歴史的に傑出したボクサーであることは明らかです。
リング誌6月号「強打者100年100傑」で49位に選ばれたフィリピーノ・フラッシュ。
WBSSの決勝戦が始まるまで、井上尚弥の前に「レベルの高いフェザー級から逃げ戻ったロートル」が立ち塞がるなんて誰も想像していませんでした。
バンタム出戻り後のドネアはノルディーヌ・ウバーリ戦までの4試合(ライアン・バーネット/ゾラニ・テテ※/井上尚弥/ウバーリ)を圧倒的不利の予想でリングに上がるアンダードッグでした(※テテは怪我を理由に離脱、代打出場のステフォン・ヤングには有利予想)。
井上戦で大番狂わせを起こしかける大健闘を見せてもウバーリ戦で不利予想を立てられたのは、専門家もブックメーカーも「バーネットらに勝ったり、井上を苦しめたのは幸運だっただけ」と見られていたからです。
しかし、そのウバーリとレイマート・ガバリョを残酷なまでに破壊した勝ち方を目撃した私たちの誰もが、もう「運が良いだけ」とは口にしなくなりました。
バンタム最強は井上かドネア。誰もがそれを認めるようになったのです。
さて、フィリピーノ・フラッシュのキャリアを振り返って行こうと思います…その前に2021年5月29日、ウバーリを粉砕したとき、ドネアはエントリー資格があまりにも厳格なため歴史上5人しかいなかったエリート倶楽部への入会が許されました。
「3つのディケイドで世界王者」倶楽部です。
西暦など所詮は人間が勝手に区切ったもので「2つのディケイド」なら運が良ければ誰でも達成できます。しかし、それが「3つ」となると、話は全く違ってきます。
◉3つ以上のディケイドを飛び越えて世界王者として君臨する◉
【4つのディケイド〜史上たった一人だけ】
■マニー・パッキャオ(90年代、00年代、10年年代、20年代)=フライ・ジュニアフェザー・フェザー・ジュニアライト・ライト・ジュニアウェルター・ウェルター・ジュニアミドル=
【3つのディケイド〜ドネアは史上5人目】
■バージル・ヒル(80年代、90年代、00年代)=ライトヘビー・クルーザー=
■イベンダー・ホリフィールド(80年代、90年代、00年代)=クルーザー・ヘビー=
■バーナード・ホプキンス(90年代、00年代、10年代)=ミドル・ライトヘビー=
■フロイド・メイウェザーJr.(90年代、00年代、10年代)=ジュニアライト・ライト・ジュニアウェルター・ウェルター・ジュニアミドル=
■ノニト・ドネア(00年代、10年代、20年代)=フライ・バンタム・ジュニアフェザー・フェザー=
※参考※【カエル跳びの2つのディケイド】
■ジョージ・フォアマン(70年代、90年代)=ヘビー=
▶︎パッキャオはあまりにも特別ですが「3つのディケイドで世界王者」も極めて特別な才能です。
そして、パッキャオとメイウェザーを除くと軽量級で世界王者になったボクサーはドネアだけです。
メイウェザーの「ジュニアライト」級は欧米直訳では「小型軽量級」ですが、パッキャオとドネアはフライ級、日本基準でも世界のどこでも「文句無し・問答無用の軽量級」です。
「重量級ほど選手寿命が長い」のは常識です。
しかも、ドネアはこの6人の中で唯一の出戻り、しかも2階級も出戻りです。
パックメイはジュニアミドルまでちょっかいを出しましたが、あの二人は超弩級の変態です。ドネアの出戻り方は、パックメイのようなふざけた〝つまみ食い〟ではありません。
もちろん、意地悪な言い方をすると、レベルの高いフェザー級で通用しなかったから、レベルの低いバンタムに逃げ戻っただけ、という見方も出来ます。
実際に、今のドネアの強さにはその要素も多分に含まれているでしょう。
「欧米でバンタムよりもずぅと大きな試合が期待出来るフェザーに再挑戦してやる!」という自信があるなら「ジュニアバンタムでも下げられる」なんて口にしません。自信がないから「下」に沈降するのです。
そして、その〝ツッコミどころ〟は聡明なドネアならわかっているはずです。
かつて、ロイ・ジョーンズは「ヘビー級タイトルを〝空き巣で盗んで〟ライトヘビーに逃げ帰った」と非難され、そのことが心の中で引っかかっていた、重荷になっていた、と告白しています。
「ライトヘビーでは絶対に負けられない」と。
ドネアとジョーンズは身体能力に依存した引き出しの少ないスタイルのファイターで、よく共通点を検証されてきました。
ジョーンズを見ていると、一度大きくした肉体を再び萎縮させる…それはボクサーの肉体を病的に蝕むだけでなく、精神もやはり病的に蝕むものかもしれません。
ところが、ドネアにはそんな後ろめたさは全く感じられません。
もちろん、ジョーンズのヘビー級と比べたら、ドネアのフェザー級なんて全く注目されていない不人気階級です。「人気階級から逃げた」なんて誰も騒ぎません。
しかし、ドネアとジョーンズの違いは、おそらく、そこだけではありません。
ジョーンズは「どうせ最強」と見られていた〝出戻り階級〟で何度も番狂わせを起こされ、凄惨なKO負けを重ねてしまいました。
一方のドネアは「出戻っても無駄」とWBSSでも大穴と見られる中で、番狂わせで勝ち進みました。その充実感は、大きいはずです。
そして、井上との試合は、米国ではたったの一度も経験できなかった大会場フルハウスのメインイベントを張れたという点でもプロボクサーとしての喜びを噛み締めたはずです。
ジョーンズの場合は「人気階級から逃げて出戻った」という以外では、あらゆる面でドネアの逆でした。
ジョーンズは「時計の針」も「階級」も逆回しすることに大失敗してしまいましたが、ドネアはそのMission impossibleを軽量級にもかかわらず見事に遂行しているのです。
それだけでも、特異ですがTime Bandits=時間泥棒と呼ばれる息の長いボクサーによく見られる特徴が「優れたスタイルチェンジャー」であることにも思いを至らせると、22年48試合にも及ぶキャリアで左フックを振り回すファイターであり続けているドネアは驚くべきサンプルです。
超弩級の変態に見えるパックメイや、50歳までトップ戦線に踏みとどまった妖怪ホプキンスは、極めて巧妙にスタイルチェンジを行ったという点で、実は理にかなったTime Banditsでした。
パッキャオの左や、メイとホプの右は一撃必殺のパンチでしたが、年齢を重ねた彼らはそれをフィニッシュブローではなく〝見せ球〟〝カウント球〟として多く使うようになります。
しかし、ドネアの左は22年経っても〝決め球〟 です。
井上だけでなく誰もが「あの左だけはもらわない」と研究し、厳戒態勢を敷く中で、やすやすとその対策網を破ってきたフィリピーノ・フラッシュ。
先日、BoxRecのデータでも紹介したドネアの左。あの命中率の低さが表しているのは、ドネアが下手くそというわけではありません。
照準を合わせるための空振り、そして巧妙に撒く餌としての捨てパンチが多いからです。
井上もウバーリも、ドネアの左を食ったボクサーは、昔っから必ず同じセリフを吐きます。警戒心が最も高いはずの序盤で被弾したにもかかわらず、彼らはこう言うのです。
「調子が良かったから油断した」「(油断したから)あのパンチだけが見えなかった」。
6月7日のさいたまスーパーアリーナ。ドネアが急激な衰えを露呈しない限り、井上が余程の対策を講じない限り、井上はあの左を封じることは出来ないでしょう。



コメント
コメント一覧 (2)
期待します。
フシ穴の眼
が
しました
まああそこであれだけの結果を出せたのは偶然ではなく元々得意ではありましたが、個人的に全盛期と感じているシドレンコ戦まではリードで出足止めて距離を制し切り刻んでいくスタイルだったと思います。少なくとも左狙いで自ら接近戦を仕掛ける様なスタイルではありませんでした。
あのモンティエル戦が無ければ、普通に後半TKOぐらいの結果でドネア自身も左に魅了される事がなければ、フェザー級での結果も違ったのではないかと思います。
フシ穴の眼
が
しました