ボクシングと汚い乱闘は切り離すことは出来ません。

リングの中でも、外でも。

ビデオがなかった時代では「外」はもちろん「中」で起きた乱闘も、その場で目撃した観客だけの記憶としてしか残りません。

しかし、ビデオに記録された試合なら永遠に人の目に触れ続けることになります。

日本時間でちょうど10年前の今日。2012年2月10日にアルゼンチンのマル・デル・プラタ郊外で行われたジョンリール・カシメロとルイス・ラサルテのIBFフライ級暫定王者決定戦も記録に残る蛮行でした。

小さな町の小さな体育館、観客はわずか数百人。
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身長155㎝、モスキート(蚊)の異名を持つラサルテは49勝18KO10敗2分の40歳。

ストロー級からフライ級まで世界挑戦の経験があり、2010年にはカルロス・タマラをSDで競り落としてIBFフライ級のピースを手にしている歴戦のダーティファイター。

ご存知、クアドロアラス(4エース)は当時22歳。15勝9KO2敗。

元WBOフライ級暫定王者で、前年にIBFフライ級王者モルティ・ムザラネに挑戦するも5ラウンドでストップ負け。こちらも説明不要、アジア屈指のダーティファイター。この試合も含めて直近5試合を全て完全アウエーのリング。

地元の人気者がフィリピンの若者を迎え撃つ構図ですが、二人の喧嘩屋がぶつかったときどんな悲惨な化学反応を起こすのか「嫌な予感しかしなかった」(主審のエディ・クラウディオ)というのは当然でしょう。

そもそも、ラサルテからタイトルを奪った王者ウリセス・ソリスがボクサー仲間から暴行を受けて負傷したことで空位になった、曰くつきの決定戦。

序盤からラサルテがヒジ打ちや頭突き、レスリングまで披露。4ラウンドに、蹴りを繰り出したカシメロが減点。ラサルテもラビットパンチの連発で6ラウンドに減点されると、ラビットパンチで応酬したカシメロも8ラウンドに減点。

Lazarte was suspended for life after a hot mic in the ring caught him asking the referee whether he “wanted to make it out of here alive” at some point during the fight. 

ラサルテは試合中に何度も米国人のクラウディオ主審に「生きて帰りたくないのか?」と脅迫、そのいくつかがリングマイクに拾われたことが証拠となり、試合後に無期限の出場停止処分を受けます。

カシメロが9ラウンドに一度、10ラウンドに2度ダウンを奪って、クラウディオが試合を止めますが、数日前に兄を亡くしたカジメロが「兄にささげる勝利だ」とコーナーポストに駆け上がって胸を叩くと、観客席に膨れ上がっていた不満がついに爆発してしまいます。

戦前から予想されていた暴動に備えてカジメロの警護を担当していたのはゴンサロ・"ビッグフット"・バジーレ。
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顔面からつま先まで刺青を入れた190㎝を超えるヘビー級でしたが、会場が不穏な空気に包まれると姿を消してしまいます。のちに「自分の家族を安全な場所に避難させた」と弁解しましたが、一人で逃げ出したのを多くの人に見られていました。
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何人もの怒り狂った酔っ払いの輩がエプロンからリングに飛び込み、カジメロたちに襲いかかりました。

リングに上がらなかった観客も手当たり次第に飲み物や机や椅子を投げ込んで大混乱に。

蹴られたり殴られ重傷を負ったショーン・ギボンズは、2人の警官に保護され控え室に、カジメロとコーナーの数人はリング下に逃げ込みました。


チーム・カシメロは装甲車でホテルまで護送されましたが、襲撃された混乱でチャンピオンベルトは紛失。



フィリピン政府はアルゼンチン政府に抗議文を送り、大使館を引き揚げると声明、外交問題にまで発展します。

結局、アルゼンチン側がフィリピン国民に正式に謝罪、ラサルテのライセンスを剥奪するなどペナルティを科し、最悪の事態(国交断絶)は回避されました。



ラサルテは2年以上試合をせず、30ポンドも体重が増えましたが、その後地元で何試合か戦いました。

1988年から1997年までゴミ収集員、清掃員として働いた彼は、50歳になった今でもその仕事を続けています。



ラサルテ戦に、アムナット・ルエンロンとの2試合など、カシメロがダーティファイトに対して「目には目を、歯に歯を」とばかりに一歩も引かないのは折り紙付きです。

ある意味、そうでなければホームを持たない流浪のロードウォリアーは生き残ることはできません。

次の試合は4月22日、ポール・バトラーとの防衛戦に決まりました。やはり、敵地英国リバプールに勇躍乗り込みます。

「日本で井上尚弥と戦いたい」。クアドロアラスの熱望は、いつか叶うのでしょうか?