WOWOWがお届けしてくれたFOUR KINGS 中量級黄金時代。

FOUR KINGSによる総当たり戦は、日本のボクシングファンも大きな関心を集め、多くの人が一連の名勝負を見て世界のボクシングに惹き込まれました。

私も、そんな1人です。

この壮大な戦いは、モハメド・アリからスーパースターのトーチを受け取ったシュガー・レイ・レナードが栄光を掴む一貫した「山岳ロマン」であるはずでした。

ロベルト・デュランに雪辱し、トーマス・ハーンズとの史上最高の名勝負を制したレナードは確かに山を登り切ったように見えました。

しかし、網膜剥離で引退宣言したときはまだ25歳の若さ、ウィルフレド・ベニテスを下してからハーンズ戦までリングで輝いた時間はわずか1年10ヶ月という悲しいまでの刹那でした。

しかし、主役のレナードが舞台から突然降りてしまったにもかかわらず、物語は続きます。これこそがボクシング史上最高のラウンド・ロビンの奥深さ、素晴らしさです。

舞台のテーマは「鬼退治」、つまり「誰がマービン・ハグラーを倒すのか?」に変わり、戦場はミドル級に移ります。

複数階級制覇を果たした華やかで近代的なボクサーが、他の階級など見向きもしない原始の遺物のようなハグラーに挑むのです。

面白くないわけがありません。

そして、ハグラーがデュランとハーンズの野望を引き裂き、ジョン・ムガビも打ち倒したとき、レナードが実質5年のブランクを経てリングに舞い戻るのです。

「調整試合は不要、ハグラーを倒すためだけの1試合限りのカムバックだ」。そう語ったレナードの格好良さといったら、思い出しただけでゾクゾクします。

一旦は幕を閉じたと思われたレナードの物語は終わってなんかいなかったのです。

それにしても、なんという、よく出来たシナリオでしょうか。神様でもこんな台本は書けっこありません。

「ハグラーvsレナード」は史上最も議論を呼ぶ判定になりましたが、あの試合がFOUR KINGSの物語の大団円だったことに異論を唱える人はいないでしょう。

その後のレナードの、悪い意味でのスーパースターの傍若無人ぶりは醜悪なだけでした。
w660_879777_bxn007

ハグラーが退場したあと、レナードは晩節を汚し、ハーンズとデュランは彼らが常識外れの才能だったことをあらためて世界に誇示しました。

暗黒面にはまったレナードはドニー・ラロンデやテリー・ノリス、ヘクター・カマチョらとメディアやファンが試合前から眉をしかめた相手とメガファイトを繰り広げます。

そして、ハーンズがデニス・アンドリュースと、アイラン・バークレーを相手に見せた強さと脆さの鮮やかなコントラストときたら!

バージル・ヒル戦は、FOUR KINGSの戦いがランダムな総当たり戦ではなく、リーグ戦であったなら、ハーンズが最強であったかもしれないと思わせるに十分な惚れぼれする勝利でした。

FOUR KINGSでは唯一レナードから勝ち星を挙げ、ハーンズに壮絶なKO負けを喫したデュランが、ハーンズのジョーカーだったバークレーを下しているのもボクシングの深泉を覗き込んだ思いがしました。
IMG_3804

また、ウィルフレド・ベニテスがハグラーと戦っていれば、彼も「総当たり」のプレーヤーの一人になっていたはずです。FOUR ではなくFIVEだったかもしれません。

そして、ついにFOUR KINGS と交わることが叶わなかったものの、打倒ハグラーの急先鋒だったドナルド・カリーの一瞬の輝きと墜落。

そのカリーを粉砕したマイク・マッカラムは、FOUR KINGSの誰もが対戦を回避したという見方をする人もいます。

さらに、アマチュア時代にハーンズに勝ち、プロではレナードが対戦を嫌ったというアーロン・プライアーがFOUR KINGSに絡んでいたら、何が起きていたでしょうか?

ああ、映画にもなったビニー・パチエンザの存在も忘れられません。

「レナードvsハグラー」以後の、レナードとハーンズ、デュランが見せた非FOUR KINGSの戦い。

そして、FOUR KINGSには食い込めなかったものの、ハーンズとデュラン相手に存在感を示した魅力あふれる衛星たち。

何もかも、全てひっくるめてFOUR KINGSでした。

マニー・パッキャオとマルコ・アントニオ・バレラ、エリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスの〝FOUR KINGS〟は「モラレスvsマルケス」という最も蠱惑的なカードが実現しなかったことから総当たりではありませんでした。

さらに、咬ませ犬のパッキャオが圧倒的な攻撃力で〝メキシコのシナリオ〟を引き裂いてしまったこともあり、本家FOUR KINGSのような寄せては返す波なような物語性は欠落していました。  

シュガー・レイ・レナード、マービン・ハグラー、トーマス・ハーンズ、ロベルト・デュラン。もうあんな奇跡の時代は2度と訪れないでしょうが、だからといって全く残念でも寂しくもありません。

常識的には1度も訪れないはずの奇跡が、すでに起きてくれたのですから。