「ブラックボトル」と聞いて、ボクシングファンがすぐ頭に思い浮かぶのは、パナマ・ルイスの「そのボトルじゃない!あっちの黒い方だ!」という、有名なスキャンダルです。
しかし、酔っ払いにとって〝ブラックボトル〟とは「サントリー オールド」や「ブラックニッカ」のことです。
二つとも1000円以上、2000円以下という〝せんべろ〟以上なお酒。
ボクシングでいえばゲートキーパー。「この香りと味わいをまず覚えとけ」という門番です。
ダルマの渾名有名なオールドはシェリー樽で熟成されたモルトを使ってるのがウリですが、当たり前ながら、ニッカ宮城峡のシェリーウッドフィニッシュほど華やかなシェリー香は感じられません。
それでも、スタイリッシュで非常によくまとまったウイスキー、ボクサーで例えるとマイキー・ガルシアです。
一方のステンドグラスで描かれたブレンダーが特徴的なブラックニッカ。
こちらはカフェ式蒸留のグレーンウイスキーを熟成、数種類のモルトとブランドしたリーズナブルな逸品。
本来なら特徴のないグレーンウイスキーが個性を放っているなさなさ珍しいブレンデッドです。
こちらは、ジュニアフェザー級には勿体ない強打を誇った内山高志な、一発のあるウイスキー。
なんでこんな話を、というと先月「平日の真っ昼間からバーで酒を飲む」一人遊びをやったときのこと。
平日の真っ昼間から酒を飲むことはあっても、コロナ下でないとバーは昼間からオープンしていません。
バーって一軒目から行くことはまずなく、大概夜も深まってから、というのが普通のパターンです。
赤羽や立石じやありません。オフィス街の大手チェーンのバーです。
さぞ、私のようなふざけたサラリーマンの巣窟とかしているのだろうと思いきや、地下1階までの狭い階段をトントン降りて、重い扉を押すと、そこは赤羽か立石の世界…。
絶対サラリーマンではなき風体のおっさんがグタグタ杯を重ねているのです。
このおっさんらはどこから湧いてきたのであろうか?と不思議に思いながら、カウンターの止まり木でシメイの生からオールドのロックへ。
腹ごしらえに頼んだドライカレーが予想外に美味しい。
あくせく働く地上とは別世界の時間が流れる地下酒場の雰囲気を楽しんでいると、カウンターで飲んでた60年配のおっちゃんが、バーテンダーに向かってダミ声をしゃがれ出すんです。
「そのボトルちゃう!あっちの黒いやっちゃ!」。
反射的に「パナマ・ルイスや!」と思いました。
おっちゃんは「おんなじ値段やったらええけど高いの出そうとすな!」と笑ってました。
ブラックニッカを注文したのに、バーテンダーがスーパーニッカを手に取ったので、思わず声を上げたようです。
気軽な一人飲みでしたが、誰かと一緒でもパナマ・ルイス話で盛り上がるわけもありません。
そのボトルじゃない!あっちの黒い方だ!
これってパナマ・ルイスという悪人が放った浮世離れした言葉としてしか記憶していませんでしたか、居酒屋やパーでは普通にやり取りされててもおかしくありません。
今夜もどこかで「そのボトルじゃない!あっちの黒い方だ!」と全く自覚のない〝パナマ・ルイス〟たちがクダをまくのでしょう…。
ああ、でもよく考えたら、東京都は酒を提供を実質禁じて、パナマ・ルイスも路頭に迷う非常事態宣言下。
早くパナマ・ルイスたちが思いっきり酔える夜が戻ってきて欲しいと,祈るだけです。

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