「最近の若い者はなってない」。

古代エジプト時代から口にされてきた苦言です。

愚かな人類の縮図のようなボクシング界でも「え?それってそんな大昔から言われてたの?」という苦言があります。

昨年、WBCが18番目の階級ブリッジャー級を創設し、多くの批判を集めました。

「これ以上ボクシングの階級を作るべきではない」と。

しかし、同じ喧騒はちょうど100年前の1920年にも沸き起こっていました。「ニューヨーク州やNBAはジュニア階級を増やすべきではない」と。

ベアナックルの時代にヘビー級のほかにミドル級、ライト級の3つの階級が存在していたことが確認できていますが、ミドルとライトは英国と米国で統一した規格がありませんでした。

しかし、複数の王者が生まれる種は、すでに19世紀の段階で蒔かれていたのです。

無差別級(ヘビー級)以外の階級が、統一規格を持たない状況は、第一次世界大戦以前まで続いていました。

例えば、フェザー級は英国が9ストーン(126ポンド)であった一方、米国では122ポンド(今のジュニアフェザー級)のリミットで行われていましたが、定着したのは英国式でした。
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英国発祥のボクシングですが、ブリッジャー級も加えた18クラスでストーン制の名残りを残すのは5つにとどまり、オリジナル8に限定するとフライとフェザーの2階級のみです。


オリジナル8の規格は、アントワープ五輪が開催された1920年にはほぼ完成していました。

Flyweight (112)、Bantamweight (118)、Featherweight (126)、Lightweight (135)、Welterweight (147)
、Middleweight (160)、Light heavyweight (175)、Heavyweight (176+)。

しかし、この1920年代にはニューヨーク州はジュニアフライ級(109ポンド=現行は108ポンド)、ジュニアバンタム級(118ポンド=現行は115ポンド)、ジュニアフェザー級(122ポンド)、ジュニアライト級(130ポンド)、ジュニアウェルター級(140ポンド)と、5つの階級の新設を画策していました。

英国主導への抵抗という側面もありましたが「階級を増やせばタイトルマッチも増える。ニューヨーク州の収入も増える」という、現在の承認団体と同じ思考回路だったことも窺えます。

〝やつら〟が思いつくようなことは、時代など簡単に超越するのです。

偉大な白井義男が日本に世界チャンピオンベルトを初めてもたらした1952年当時は、オリジナル8の時代でしたが、一般的には認められていなかったとはいえ、ジュニア階級は蠢いていたのです。

〝記念すべき〟最初のタイトルマッチが開催されたジュニア階級はジュニアライト級でした。

1921年11月18日、マディソン・スクエア・ガーデンで行われた初代王者決定戦は「ジョー・ダンディvsジョージ・チェイニー」。

ニューヨークの怪人プロモーター、テクス・リガードがダイアモンドを散りばめた2500ドルのチャンピオンベルトを用意、大興行の匂いを発散させると、ニューヨーク州はたまらず新階級を承認したのでした。

この流れに、ニューヨーク州と対抗していた〝地方連合〟NBAも乗らないわけがありません。NBAはジュニアライト級とジュニアウェルター級を新設します。

カネと欲望が渦巻く1920年代に生まれたジュニアライト級は、最初から腐敗していました。10年近く存命できた理由はたった一つ、バレなかっただけです。

1929年12月20日、5年間も王座を守ったトッド・モーガンがベニー・バスに2ラウンドKO負けを喫し、タイトルを手放します。

“Little Fish” の異名を持つバスでしたが、この試合にはrotten fish(腐った魚)の匂いが充満していました。

マフィアが仕組んだ八百長疑惑です。

証拠不十分でペナルティは科せられなかったとはいえ、1930年1月にニューヨーク州がジュニアライト級を廃止、NBAも同じ処置を行います。

それでも、ジュニアライト級のタイトルマッチはニューヨーク州とNBAが世間体を気にして廃止しただけで、各地で〝任意の〟世界タイトルマッチは行われ続けました。


“Our goal,” said The Ring editor Nigel Collins, “is to restore boxing to the way it used to be, when the champ really meant something. The thing is so watered down now that it has become a farce.”

1987年、当時リング誌編集長・ナイジェル・コリンズは「我々の目標は、チャンピオンが本物の価値を持っていた時代のボクシングを取り戻すことだ。今のボクシングは(ジュニア階級と複数団体によって)水増しされ、見るに堪えない茶番劇になってしまっている」。


カネと欲にまみれて誕生したジュニア階級が、腐敗するのは必定でした…。

では、オリジナル8はカネと欲にまみれていないのでしょうか?腐敗とは無関係だったのでしょうか?



現状で、日本人がチャレンジできる常識的な限界階級が、この数奇な歴史を持つジュニアライトです。

ライト級で世界のトップで戦う日本人は例外です。ジュニアウェルター級以上となると、現状では突然変異と言っても差し支えないでしょう。

戦後、栄養状態の悪かった頃から、70年以上も経つというのに、この国のボクシング事情は何も変わっていのです。

現代は、別の意味で栄養失調の時代なのかもしれません。


それでも、ジュニアライトはオスカル・バルデスにガーボンタ・デービス、シャクール・スティーブンソンと、日本人が倒してくれたらわくわくするタレントが揃っています。

ジュニアライト級は、21世紀になってからライト級からジュニアウェルター級、そして絢爛のウェルター級へと続く滑走路としてスーパースターが離陸してゆきました。 

「滑走路が限界」というのは、悔しいですが、それが現実です…。



このジュニアライト級という滑走路の歴史と現在の世界地図を、日本とアジアの視点も交えて迫ります。