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まだ渋谷の東横線が地上にあってカマボコ型の外壁だった頃。

そんなある日。蜜で飛沫が飛び交う酒場で、私が酒を酌み交わしてたのは東南アジアやアフリカからゴマやエビを扱う輸入商社の熱田さん(仮名)。

バブル崩壊と東南アジアの政治不安を受けて、熱田さんの会社は事業再編を迫られていました。

熱「辰吉くん(私のことです、仮名)、あの国からは撤退しようと考えてるんだ。月ロケットも設計ミスで軌道からズレたら最初からやり直し、出直しだしな」

辰「このドサクサに債権踏み倒した取引先とはもう手を切るべきですが、ちゃんと支払ってきてる会社との仕事をここで切るのはもったいない」

熱「何、言ってるの?あの大混乱見たでしょ?また、治安が落ち着いたら仕切り直すつもり」

辰「この政情不安で信用できる取引先がはっきりわかったじゃないですか。こっちから切ったら彼らは別のパートナー探しますよ。ズレた軌道の先にある別の星を目指す手もありますよ」

熱「ああ???ロケットには人が乗ってるんですよ!月までの燃料しか積んでないし!政情が元どおりになる保証なんてどこにもないのに!別の星なんてたどり着けるわけないでしょうが!」

辰「人が乗ってるとか、燃料の話、最初にして下さいよ。というより、熱田さんの仕事、ゴマ売りでしょ、月ロケットに例えるからややこしくなるんです」

熱「あーー!今、ゴマのことバカにしたな?ゴマ、バカにされたらもうあんたとことは付き合ってられない!仕事に貴賎があってたまるか!」

辰「バカにしてませんよ、東南アジアのゴマ売りも北京の皿回しも立派なお仕事じゃないですか」

熱「やっぱりバカにしてる!北京の皿回しと一緒にしやがって!」

辰「あー、今、北京の皿回しをバカにしましたね?仕事に貴賎ないって言ったその口で」

熱「あんたの例えが飛躍しすぎてるからだろ!」

辰「月ロケットと北京の皿回し、どっちが飛躍してるんですか?」

最初は聞こえないふりしてた周囲のお客さんもその頃には、声を出して笑うようになり、熱田さんも「ちょっとヒートアップしたけど、真面目な話ししてたのに北京の皿回し出しやがって」とつぶやいたところでプッと吹き出しました。「ほんと、これ、笑い事じゃないんだけどな」。

結局〝別の星〟を目指すことになって大変なことになるのですが、忘れたい記憶です。

そんな昔の失敗談よりも、【スーパースターへの跳躍】ライトからウェルターへ。12ポンドのフロッグ・ジャンプ!【キングryは石の拳を持っているのか?】の話です。

デュランとパッキャオの乗った定員2名で設計したロケットに、モズリーが割り込んできたのです。

そして、ここでも〝別の星〟を目指すのです。仕事じゃないし、お金も一銭も絡んでないし、〝東南アジアのゴマ惨劇〟に比べたら気楽な天国への飛行航路です。


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2001年6月23日、ネバダ州ラスベガス・MGMグランドガーデンアリーナ。その米国デビューはまさにサンダーボルト(電撃)でした。

ロベルト・デュラン、シェーン・モズリー、マニー・パッキャオ。

ライト級からいきなりの〝ウェルター制圧〟を果たした3人は、当たり前のことながらライト級では圧倒的な存在でした。

ライト級王者に挑戦した時点での戦績を振り返ると、21歳のデュラン(28戦全勝24KO無敗)、25歳のモズリー(23戦全勝22KO無敗)とまさに怪物的な快進撃で世界タイトルも蹂躙して見せました。

一方でパッキャオは29歳と最も年齢を重ね、戦績も51戦46勝34KO3敗2分と二人の先人と比較すると平凡なものでした。

ただし、デュランとモズリーが世界戦線に躍り出たばかりだったのに対して、既にパックマンと呼ばれていたフィリピン人は数々の大勝負に劇的な勝利を収めながら「一発殿堂確実」と認められるレガシーを築き上げていたのです。

表層的な数字こそ平凡ですが、ライト級挑戦時のパッキャオは怪物〝的〟ではなく、怪物でした。 

そして、タイトル奪取を含めたライト級での世界戦績はデュランが13戦全勝12KO、モズリーは9戦全勝8KO。パッキャオは1勝1KOとたった1試合しか戦っていませんが、それが逆に〝飛び級でウェルター制圧〟の凄みを際立たせています。

ライト級で絶対王政を敷いたデュランとモズリー。そして人気クラスのライト級をたった1試合の〝腰掛け〟 扱いにしたパッキャオ。

彼らの共通点は①ジュニアウェルターをスキップして、②ウェルター級を象徴するスーパースターを倒し、③PFP1位、という3点に集約されます。

ここでも、ウェルター級を制したことでPFP1位に輝いたデュランとモズリーに対して、パッキャオはジュニアライト級時代ですでにPFP1位に駆け上がっていました。

いずれにせよ、この3人はそこいらのライト級とは全く異質の存在だったのです。

現在、スター選手がひしめき激戦区のライト級シーンですが、ワシル・ロマチェンコもテオフィモ・ロペスも、デビン・ヘイニーもライアン・ガルシアも、彼らと比べると一人残らず〝そこいらのライト級〟に過ぎません。

そして、ライト級から飛び発った3人は、それぞれの航路を突き進んでいくことになります。