ボクシングの世界では colleagues や entourageという言葉をときどき耳にします。
同僚や仲間という意味ですが「取り巻き連中」と訳される場合は多くは悪い意味で使われます。
世界チャンピオンになって大金を稼いだボクサーが、取り巻き連中に騙されて無一文になってしまう。
よく聞く話です。
成功の蜜に群がる親族や太鼓持ち、知人や幼馴染、成功したボクサーを取り巻くあらゆる関係者が「取り巻き連中」になります。
多くはボクシング経験もないど素人で、成功したボクサーが没落すると離れて行く、ハイエナたちです。
一方で、第三者からは卑しいハイエナにしか見えないcolleagues や entourageが、実は偉大なボクサーにとってかけがえのない存在であるレアケースも間違いなく存在します。
2人の共通点は、世界が刮目する大番狂わせを何度も起こしたことだけではありません。
リングを離れても社会的・政治的に大きな影響力を持つ現役ボクサー、という共通項です。
パッキャオがやろうとしていることは、一見穏和に見えますが、特権階級が既得権益を独占するフィリピンで革命を起こそうとしているようなものです。
アリが60年代の米国、パッキャオが21世紀のフィリピンという舞台の違いが、両者の世界的・歴史的インパクトに大きな差を生み出していますが、やってることは同じです。
世界が間違っているなら、俺が世界を変えてやる。
一介のボクサーの分際で、彼らはどうしてそんな、ある意味傲慢でもある、唯我独尊的な自信を持てたのでしょうか?
ボクシングで成功を重ねるごとにマニー・パッキャオは「助けたいと思う人々が広がっていった」と語ります。
最初は母親、弟や妹たちが、最後は貧困に苦悶し続ける国を救いたいとーー。それは本当のことかもしれませんが、colleagues の代表格ボボイ・フェルナンデスは、パッキャオは夜祭の賭けボクシングのリングに上がる12歳のずっと以前に「大統領になる」と語っていたと言います。
その言葉を聞いたとき、食べるものさえ事欠き貧乏から虐められ、将来に絶望していたボボイが初めて笑いました。
学校に行けずに路上でドーナッツを売るボボイを、苛めっ子らが袋叩きにしてドーナッツまで奪おうとしたときにパッキャオが助けに来ました。
苛めっ子を撃退したパッキャオにボボイは「もう助けてくれなくてもいいよ。俺の将来なんてろくなもんじゃない。良いことなんて一つもない人生を送って、どうせその辺で野垂れ死ぬんだ」と、殴られて痣だらけの顔で吐き出します。
「そんなこと言うな、俺が絶対変えてやるから。お前は兄弟みたいなものだ、絶対に野垂れ死なんてさせるか」。
パッキャオの励ましにもボボイは「マニーは喧嘩が強いけどそれだけじゃないか。喧嘩が強くたってギャングの用心棒になるのがせいぜいだ。マニーだってろくな死に方しないよ」と悲観した言葉しか口にしません。
「大丈夫だ。この国を根本から変えてやる。食べるものがなくて死んだり、病院に行けなくて死んだり、そんなことはもう終わりにしてやる」。
「マニー、何を言ってるんだ?学校にも行けないで毎日路上で物売りしてる俺たちに何が出来るっていうんだ?」。
「出来るさ。俺は大統領になる」。
そのとき、ボボイは生まれて初めて腹の底から笑ったと言います。
ボボイははっきりその日を覚えていますが、パッキャオは今でも世界中のメディアから聞かれる質問に「大統領になろうとなんて、生涯一度も思ったこともない」と繰り返し答えています。
米国で成功するとすぐにボボイを呼び寄せたパッキャオ。
「大統領になる」と語ったあの日のことを、覚えていないわけがないでしょう。
ボボイはフィリピンや世界のボクシングファンにはけして好意的に受け入れられていません。
「なんの取り柄もないのにパッキャオの幼馴染というだけで贅沢三昧の生活を送っている」「ボクシングの知見ゼロのくせにトレーナー風を吹かせて、パッキャオの足を引っ張っている」「パッキャオが没落するようなことがあったら真っ先に離れる奴」…。
それらの非難はあながち間違いではありません。
ただし、パッキャオにとって「弟」という幼馴染は特別な存在です。
ボクシングの知見がない、と言われながらもルーカス・マティセ戦で戦前から「アッパーが有効だ」とアドバイスしていたのは卓見でした。もちろん強打のマティセにアッパーは危険ですが、快勝のリングで「ボボイのおかげ」と喜びを爆発させたパッキャオの表情からは「ボボイのやり方で勝つ」ことへの強烈な動機付けが読み取れました。
パッキャオが没落したら真っ先に離れるーーそれはそのときにならなければ誰にもわかりません。
いずれにしても、パッキャオにとって最も過酷だった極貧時代を過ごしたボボイは救うべき象徴でしょう。パックマンの心の支え、といっても差し支えないかもしれません。
そして、すでに語り尽くされた感もある「取り巻き」の典型、ドリュー・ブンディー二・ブラウン。
ボボイ以上に批判非難を受けたブンディーニですが、33年前の9月24日に亡くなっています。
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