ものの順序からいうと、ShowTimeが2009年10月にキックオフ、2011年12月に決勝戦が行われた Super Six World Boxing Classic(SSWC=スーパー・シックス ワールド・ボクシング・クラシック)からお話しすべきですが、ここは日本、軽量級の国です。

「バンタム4」です!

スーパーミドル級で2年以上にわたって行われたSSWBCの評価は難しいものの、欧州の人気クラスで展開されたことで一定の成果は挙げました。

バンタム4も、当初はスーパーミドルにならって6人制を目指しましたが、目玉と期待した長谷川穂積とノニト・ドネアが報酬の低さを理由に相次いで参加を拒否。

長谷川はすでに1試合で3000万円を超える軽量級では破格のファイトマネーが約束されていたため「呼んでも来るわけがない」(ショウタイム)と諦められていましたが、ドネアはまだHBOの興行でメインを張ることも出来ず6フィギュア(6桁=10万ドル)ももらえない〝軽量級あるある〟の高評価・低報酬ファイターでした。

そんなドネアが交渉のテーブルにすら付かずに門前払いした「バンタム4」。

どれほど劣悪な報酬だったのか怖いもの見たさで知りたいものです。実態は「嘘をつかないWBSS」だったのでしょう。
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LAタイムズに「バンタム級トーナメントの低報酬は正気の沙汰じゃない」と吐き捨てたドネア。

トーナメント参戦の交渉すら受け付けなかったドネア陣営でしたが、ドネア本人は「優勝者とは完全統一王者を賭けて、しかるべき舞台(報酬)で戦いたい」とも語っていました。


残されたアブネル・マレス、ジョゼフ・アグベコ、ヨニー・ペレス、ビック・ダルチニアンの4人は、総当たりのトーナメントを行います。
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かつてヘビー級や中量級(チャベスら)のメガファイトを手がけたドン・キングが「ついにバンタム級まで落ちぶれた」と揶揄される中で、ひっそりと立ち上がったバンタム4。

それにしても…。

いくら、米国で需要の低いバンタム級とはいえ、あまりにも酷い。「貧困トーナメント」と呼ぶしかない、報酬も内実も最低のイベントでした。



【期間】
2010年5月12日〜2011年8月13日。

会場はネバダ州ラスベガスのハードロックホテル、トレジャーアイランド・カジノ、カリフォルニア州ロスアンゼルスのノキアセンター、ワシントン州タコマのエメラルドクイーンカジノなど、全米の小会場をサーキットしました。

個人的には辰吉丈一郎がメインをつとめたラスベガスのザ・アラジンとかの小会場は好みです。クラブハウスやミニシアターのノリです。

会場の話も「STAY HOMEで考える」ではいいテーマかもしれません。



【参加者と★勝者】
★アブネル・マレスが優勝、ゴールデンボーイ・プロモーションズの悲願であった「生え抜きの世界チャンピオン」第1号にも輝きます。

ノニト・ドネアや長谷川穂積との対戦をアピールしていたジョゼフ・アグベコ、ヨニー・ペレス、ビック・ダルチニアンの願いは、結局叶いませんでした。

マレスから見た星勘定はペレス1戦0勝0敗1分、ダルチニアン1戦1勝(SD)、アグベコ1戦1勝(MD)と3戦2勝1分。

負けてはいませんが、二つの勝利はSDとMD、薄氷を踏みました。

しかし、メキシカン以外のファンからは「ああ、また変な温室野郎が出てきたな」という印象しかありません。

そして、あまり日本で報道されませんでしたが、当初5月22日に予定されていた決勝がアグベコの故障(脊椎神経痛)でキャンセルになったとき、プロモーターのリチャード・シェイファーがピンチヒッターに亀田和毅を一旦発表しましたのです。

当時無敗でバンタム級のホープだった和毅はメキシコ在住で練習も現地で行っていましたが、この時は折り悪く興毅の防衛戦(5月7日WBAレギュラー・バンタム級:ダニエル・ディアス戦)でフィリピン合宿に帯同していたため、代打出場ならず。

決勝を代打出場…そんなトーナメントありか?とも思いますが、和毅が出ていたら面白かったと思います。

もし出場していたら、マレスに大善戦しながらも不可解な大差判定で敗れていたと思いますが、それならそれで日本で大騒ぎしてあげました。



【2020年段階での歴史的評価】

トーナメントとしてはマレスという軽量級で新しいスターを誕生させましたが…。

8年後に行われるWBSSでも「バンタムなんて成功しない」と言われた原因、反面教師になりました。

しかし「バンタム4」の〝失敗の本質〟は長谷川穂積を取り込めなかったことです。

もし、日本での試合が何試合かセットされ、日本武道館で決勝戦なら、あれほど地味で緊張感に欠けるヘボイベントにはならなかったでしょう。

そして、世界中のボクシングマニアを幻滅させた決勝戦がこのトーナメントが何だったのかを如実に伝えてくれています。

ただでさえ、ニッチのボクシングでも超マイナー階級のバンタムは「密室」でした。



【世紀の大誤審〜背後で何が動いていたのか?】
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全ては〝推定無罪〟です。

ただ、ラッセル・モーラという稚拙で暗愚なレフェリーが信じられない誤審を繰り返したという事実を忘れてはなりません。

同じことがバンタムではなくウェルター級やヘビー級で行われていたらもっと大事件として扱われたでしょう。

2011年8月13日、ネバダ州ラスベガス・ハードロックホテルで行われたのは公正なスポーツの試合ではありませんでした。

そこで企まれたのは、醜い密室犯罪でした。

キャリア初の計量オーバーを犯してしまったアグベコはIBFのインスペクターから「(IBF)ルールにより2時間以内にもう一度だけ計量の機会が与えられる」と、一旦は告げられます。

しかし、30分経過するとネバダ州体育協会の係員が「あと30分で再計量」(ネバダ・ルールは猶予1時間)とアナウンス。アグベコ陣営は混乱しますが何とか118ポンドまで絞り、素っ裸で計量をクリアしました。

試合はマジョリティ判定でマレス。115 -111 *2、113−113。なんだかなあ、なジャッジですが、ただ一人ドローとしたのが、あのCJ・ロス女史なのです!

パッキャオvsブラッドリー初戦でブラッドリー勝利をスコア、メイウェザーvsカネロも引き分けなど奇々怪界のジャッジを繰り返して〝永久追放〟されたお方です。

CJロスならマレスのフルマーク勝利にでもしそうなものですが、そうじゃないんです。そこもボクシングの闇が深いところです。

試合は第1ラウンドにアグベコがスリップ。これを主審のラッセル・モーラがなぜか「ダウン」の判定。スロービデオが再生されると場内は静まり返りますが、ブーイングは起きません。

そして、マレスが執拗なローブロー(もちろん反則です)を繰り返しながらも、モーラはことごとく看過する展開。減点どころか注意も与えません。

11ラウンドには、やはりあからさまなローブローでアグベコが悶絶すると、あろうことかモーラは「ダウン」を宣告。

その挙句のマジョリティ・デジションでした。

This controversial fight turns fans away from the sport! こんな馬鹿げた裁定を許していたらボクシングはますますファンから見放されてしまう!(リング誌)

マレスを傘下に収めるゴールデンボーイ・プロモーションズの機関誌に成り下がったリング誌ですら批判せざるをえなかった「米国のバンタム級」という「密室」で行われた「完全犯罪」。


「最初に(人気のない)私と戦ってくれたマレスと、高額のファイトマネーを保証してくれたプロモーターに感謝します。そして次に、この試合はジャッジも含めて判定も狂っています」(アグベコ)。

しかし、アグベコの声が大きくなることはありませんでした。


いまなお21世紀最悪の主審とされているモーラですが、この大誤審を犯した後も、田口良一(2017年7月23日:vsロベルト・バレラ)、ノニト・ドネア、リッキー・バーンズ、ルーカス・マティセらの大試合を仕切っているのです。




【報酬・興行規模】

「私はカネでは動かない。名誉のために動く」とうそぶいたドネアが交渉すらせずに参戦を拒否した恐るべき「バンタム4」。

優勝したマレスの報酬は30万ドル。準優勝のアグベコは13万ドル。ともにキャリアハイで、アグベコはキャリア初で唯一の10万ドルオーバー。

これでも「確かに低いが、両者合計43万ドルは軽量級の世界戦としては平均を大きく上回る。ショウタイムも最初は合計20万ドルを分け合う予定から倍増以上の大盤振る舞いだった」(ESPN)と言われても、慰めにもなりません。

アグベコにとって良いことがあったとしたら、やはり決勝の相手がマレスだったことです。ペレスやダルチニアンなら、ショウタイムは20万ドルも用意出来なかったのではないでしょうか。

多くの人が「バンタム4」と呼ぶこのトーナメント、実は正式のタイトルがあります(正確にはありました?)。

〝Winner Take All〟(勝者総取り)です。

もちろん、現実には敗者にも報酬がありました。

初期はショウタイムでも積極的に宣伝に使っていましたが、ネット社会のいやらしさで「10万ドルにも満たないファイトマネーの総取りって?」「貧困トーナメントのくせに」「〝Winner Take All〟じゃなくて〝Mares Take  All〟だ」と嫌味が相次ぎ、いつの間にか影を潜めてしまいました。

そして、このトーナメントは最初から最後まで〝Mares Take  All〟で突き進み、醜悪なフィナーレを迎えるのでした。