リング誌5月号の扉ページ、ダグ・フィッシャー編集長による「RING SIDE」のご紹介です。

米国ヘビー級の最後の砦、デオンティ・ワイルダーへの応援歌です。

ワイルダーのスタイルは、日本人はもちろん世界中のボクシングファンが大好きですが、米国では「ヘビー級」「黒人」というプリズムにも通されて、特に黒人ファンにとっては特別な存在です。

米国ボクシングの世界では「白人がマネジメントして黒人が戦い、白人がその果実のほとんどを得る」システムが基盤にあります。

「白人のマネジメント」にはプロモーターやメディア、コミッション、承認団体などリングの外でファイターから搾取する全てのシステムが含まれます。

フィッシャーは黒人ですが、本来は「白人側」のメディアで仕事をしてきた中で、不条理な差別に苦しんだことも少なくなかったはずです。

黒人歴史月間への思いを込めたコスチュームで入場し、そのコスチュームを敗北の言い訳に使ってしまったワイルダーには複雑な思いもあるでしょうが、心の底からのエールを送っています。

青字は私の加筆です。
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▶︎▶︎▶︎タイソン・フューリーに敗れたデオンティ・ワイルダーは「45ポンドのコスチュームを着たことで、試合前の時点で両足が弱ってしまっていた」と敗因を語った。

ワイルダーの言い訳は「マーク・ブリーランドのタオル投入が早すぎた。KOする自信があったのに」→「40ポンドのコスチューム」→「45ポンドのコスチューム」と変遷してきた。

*なんとなく、次はコスチュームの重さが50ポンドになってそうな気がするのは気のせいじゃないでしょう。

ボクシングで敗者が言い訳をするのは珍しいことではない。

*そういえば、辰吉丈一郎はビクトル・ラバナレスに敗れたとき「あれは弟だった」と言い訳していましたね。

この言い訳は、特にヘビー級チャンピオンにおいて顕著に見られる。

かつて、世界ヘビー級チャンピオンはボクシングの枠を超えてスポーツの王様であった時代が存在した。

そんな時代に、世界ヘビー級チャンピオンは理由もなく敗北することは許されなかった。

1919年、ジェス・ウィラードは58ポンドもの体重差がある小さなジャック・デンプシーに3ラウンドで粉砕され、敗因を聞かれると「デンプシーはグローブの中に異物を仕込んでいた」と答えた。

そのデンプシーは1927年、ジーン・タニーとの再戦で敗北したことを「ロングカウントがなければ勝っていた」と嘆いたが、その原因は新ルール(ダウンを奪った選手はニュートラルコーナーに下がらなければいけない)を失念していた自分にあった。

1974年「キンシャサの奇跡」に沈んだジョージ・フォアマンは「試合前にアリのトレーナーから飲まされた水の中に毒が守られていた」と口走った。


どうでしょうか?ワイルダーの言い訳はかなり「マシな方」でしょう。

最近でも、ウラジミル・クリチコは2004年、レイモン・ブリュースターに衝撃的な逆転KO負けを喫すると「セコンドが足に塗りたくったワセリンのせいで全身が熱くなってしまって、うなされたようになってしまった」と言い訳。

そのウラジミールに2011年に完敗したデビッド・ヘイはピンク色になった爪先を見せて「このせいで足を使えなかった。まともな状態なら勝てていたけど言い訳はしない」と〝ちょっと何言ってるのかわからない〟迷言を残している。

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親愛なるワイルダー。君に伝えたい。

言い訳するのは構わない。悔しさをバネにやり直せばいいだけだ。

幸いなことに、初黒星で深刻なダメージを負わずに済んだ。マーク・ブリーランドは素晴らしいタイミングでタオルを投げたんだ、君のために。

実は、非常に興味深い仮説がある。

パンチャーの最高傑作は、無敗をストップされたあとに生まれているということだ。

トーマス・ハーンズがロベルト・デュランを沈めた恐怖の一撃は、シュガー・レイ・レナードにTKOされたあとのことだった。

ジュリアン・ジャクソンがテリー・ノリスをカンバスに送り込んだのもマイク・マッカラムに初黒星をなすりつけられたあとだ。

二人に共通しているのは、試合に向けた一点集中ぶりだった。彼らは周囲の雑音や、対戦相手のトラッシュトークに過剰に乗ることを慎んだ。

フューリーとの第3戦ではヘッドホンをして記者会見に臨むんだ。彼のペースに乗ってはいけない。

もちろん、ファンサービスのために会見を盛り上げることはプロとして大切だ。しかし、自分のペースを乱す必要はない。

試合前2週間は、SNSを遮断しろ。メディアのインタビューもなんでもかんでも受けるんじゃない。それらは君のエネルギーを吸い取ってしまうからだ。

追い込んだ肉体から疲労を抜き、リラックスしながら試合だけに意識を集中するんだ。

君とフューリーでは、試合に向けての集中のスタイルが全く違う。

黒人である誇りを胸に戦うことは悪いことじゃない。黒人の歴史をリスペクトするメモリアル月間に試合をする意味を考えて、あのコスチュームを選んだことも、私は同じ黒人として感動した。

しかし、そのことが君の意識を散漫にさせていたんじゃないか?

フューリーに勝つこと、それだけに100%集中していたか?

フューリーは君との対決を「白人vs黒人」だなんて本当はこれっぽっちも考えていない。

目の前に立ち塞がる強打の敵として、どうやって君を攻略するのか、それだけを考えて周到な準備をしていたんだ。

君は(黒人の全てを代表して戦った)ジャック・ジョンソンじゃない。フューリーは(黒人退治を指名付けられた)ジェームス・J・ジェフリーズでもない。

君はブロンズ・ボンバー(ジョー・ルイス)ではなく、ブラウン・ボンバーだ。大西洋を越えてきたといってもフューリーはマックス・シュメリンクではない。アメリカvsナチスの代理戦争を戦うわけじゃないんだ。

君はデオンティ・ワイルダーなんだ。

そのままの君を、100%の君をリングで表現すればいいんだ。