PFPほど真剣に語ってバカバカしいものはありません。しかし、バカバカしさを楽しむのは一興です。

世界スポーツ史上最大のヒーロー、モハメド・アリが天国に召された2016年、リング誌は「存命のボクサーで最高は誰か?〜THE GREATEST LIVING FIGHTERS 〜WITH ALI’S PASSING, WHO'S BEST?」を企画しました。

10位:ラリー・ホームズ、9位:マニー・パッキャオ、8位:ジェイク・ラモッタ、7位:フロイド・メイウェザーJr.、6位:フリオ・セサール・チャベス、5位:マービン・ハグラー、4位:イベンダー・ホリフィールド、3位:パーネル・ウィテカ、2位:ロベルト・デュラン、1位:シュガー・レイ・レナード。 

オスカー・デラホーヤの名前がないのと、最盛期には歴代最高という評価まであったマイク・タイソンやロイ・ジョーンズJr.も圏外に追いやられています。

あれから4年経ちました。2019年度版 THE GREATEST LIVING FIGHTERS を考えてみます。

この4年で3位のウイテカ、8位のラモッタ(レイジング・ブル)を私たちは喪ってしまいました。偉大な彼らの後釜に入るのは誰か?

リング誌や大手メディアが完全に見放しているタイソンとロイをねじ込んでやろうとも思いますが、そもそもリング誌の2016年評価をベースにする必要などどこにもありません。 

「俺たちのTHE GREATEST LIVING FIGHTERS 」です。というより「俺のTHE GREATEST LIVING FIGHTERS」ですね。

ベスト10を考える前にタイソンとロイ、この30年間で最もあからさまな手の平返しを受けた二人について考えてみます。
IMG_0150
まずは、アイアン・マイク。スラムの不良少年から世界で最も有名で最もカネを稼ぐアスリートに。そして人生のどん底まで垂直落下。

1986年、20歳5ヶ月の史上最年少で世界ヘビー級王者に。1990年にバスター・ダグラスに敗れるまでの戦績は37戦全勝33KO。

英国ボクシングマンスリーが井上を「リトルタイソン」と表現しましたが、東京ショッカー以前のタイソンは井上どころの衝撃ではありませんでした。

「対戦相手が最初から飲まれている」「強い相手と戦っていない」「下がって戦うことはおそらく出来ない(ピンチに対応できない)」「攻撃がワンパターン」「タイソンの時代は歴史上ヘビー級のレベルが最も低い」…全盛期でも批判はありました。

しかし、熱心な信者は「バービックもホームズもアリに圧勝した強豪」「下がる必要がないのになんで下がるの?」「ワンパターンの攻撃に強豪が何も出来ないのが事実」「アリとかフォアマンなんてタイソンの前に何ラウンド立ってられるか。今の方がレベルが高いに決まってる」と聞く耳など持ちません。

かつてタイソンをコーチしたテディ・アトラスは「ナンバリングシステムはタイソンのようなロボットには特に大きな欠陥がある」「タイソンは精神的に弱い。いずれ試合でもその弱さを晒すだろう」「カス・ダマトはあまりにも甘やかしすぎた」と当時から、すべての真実を指摘していました。

タイソンはホームズに勝ち、マイケル・スピンクスにも圧勝しましたが、彼らよりずっと低い評価に甘んじています。

今も根強く生き残ってるタイソン信者の中には、ホームズやスピンクスより低い評価に「KOした相手よりも下とかありえない」と異を唱えますが、虚しく聞こえるだけです。

そんな低脳な理屈がまかり通るなら、タイソンの評価はもっとさらに下、ダニー・ウィリアムスやケビン・マクブライトよりも下になってしまいます。

しかし、タイソンの全盛期に「史上最高か?」と浮き足立ったのはリング誌も同じです。

リング誌のBEST FIGHTER POLL(年間PFP)で88−89年の2年連続で1位。「レベルが落ちているとはいえヘビー級で圧倒的な存在感」という理由でした。

タイソンの戦績を振り返ると「旬の強豪」という視点で最強はレーザー・ラドックです。スリリングな2試合を展開しました。

4歳年長のイベンダー・ホリフィールド、1歳年長のレノックス・ルイスにはKOで散り、とうとう殿堂クラスの強豪にはたったの1勝も出来ませんでした。

タイソン自身は殿堂入りを果たしますが、それでも「何度も重犯罪を起こした」という素行に加えて「そもそもラドックに勝つのが精一杯のボクサーが殿堂入りしていいのか?」という議論もなされました。

しかし、史上最低と言われた低レベルのヘビー級で短い歳月とはいえ圧倒的な存在感を示し、ボクシング界を盛り上げた功績は何ものにも代え難いものがあります。

実力以外の「感動的なガッツ」(アーツロ・ガッティ)で殿堂入りできるなら、「圧倒的なブームを巻き起こした」タイソンも評価されて然るべきです。

では、このお話の「存命ボクサーPFP」にランクできるか?と、問われるとやはり躊躇するしかありません。

それでも、リングの内外でのたうち回る人生を送ったタイソンが2019年の今、平穏な生活を楽しんでいるなんて、誰も想像できなかったでしょう。

本物の強豪には一度も勝てずに、番狂わせだけを何度も起こされたタイソンでしたが、最も圧倒的不利予想だった「タイソンは21世紀にも生きているか?」 という問いには、力強くYESと答えを示してくれているのです。

タイソンはリングの中では番狂わせを、一度も起こせませんでした。

しかし、人生という最も大切な舞台で、とんでもなあ大番狂わせを起こしたのです。美しい勝者です。



それでも「存命PFP」 でタイソンを10傑に入れることは、さすがにどう考えても出来ません。

旬の強豪に勝ったのは穴王者トニー・タッカーと、王者にすらなれなかったラドックというお粗末さてす。