今日、村田諒太がカネロ・アルバレス vsダニエル・ジェイコブスについて「ビッグネーム同士が試合をすると、どうしてもテクニカルな展開になる。あれが『期待外れ』と言うのは、ボクシングを見たことがない人が言うこと」と感想を語りました。

世界ミドル級の現役選手の言葉ですから重みがありますが、賛同出来かねます。

米国では試合前から「21世紀のハグラーvsハーンズ」と淡いながらも期待がかけられていました。

「序盤は偵察の時間になっても中盤から試合は動き出し、カネロの終盤ストップ勝ち」を予想する声も少なくありませんでした。

「ビッグネーム同士が試合をすると、どうしてもテクニカルな展開になる」。

村田は「あれだけ技術のある2人だったら、そうそうパンチをもらわないし、技術戦は予想できましたね」と説明していますが〝凡戦〟になる理由は2人の技術が高いからだけではない気がします。

村田の言葉を勝手に補足させて頂くと「(守るべきものが大きな)ビッグネーム同士が試合をすると、(鮮やかに勝ってやるという闘志は、絶対に惨敗は出来ないという畏れに冷まされて)どうしてもテクニカルな展開になる」ということでしょう。
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CANELO POSES WITH HIS MANY MIDDLEWEIGHT WORLD TITLES, INCLUDING THE RING MAGAZINE CHAMPIONSHIP BELT, AFTER HIS UNANIMOUS DECISION OVER DANIEL JACOBS. WHO'S NEXT FOR THE CHAMP? リング誌認定も含む多くのミドル級チャンピオンベルトと一緒にポーズを取るカネロ。ジェイコブスを3−0で下したチャンプの次の標的は?


これは、ビッグネーム同士にも関わらず後先考えずに大砲を放ち続けた、ハグラーvsハーンズの名勝負からも、後のビッグネームたちは要らぬ学習してしまったのかもしれません。

ドデカいサイコロを投げるビッグネームは確かに尊敬されます。現実に名勝負製造機のハーンズは今なお最も人気のあるレジェンドの一人です。

しかし、ドデカいサイコロを投げたツケは小さくありませんでした。

レナード、ハグラー、デュランとの史上最高のラウンドロビン、総当たり。

歴代PFPで最も評価の高いデュランとの撃ち合いをレナードもハグラーも恐怖した一方、ハーンズは鮮烈に沈めて見せました。 

それでも、ボクシング史上最高試合と絶賛されるレナードとの第1戦を劇的な形で落とし、やはり史上最も激しい3ラウンドと戦慄されるハグラー戦も映画のように見事な倒されっぷりでした。

その崩落があまりに美しいが故もあって、ハーンズの評価はいつも必ず4番目です。

もし、レナードとの初戦を再戦のように慎重なボクシングに徹していたら、簡単に勝利を手に入れていたかもしれません。少なくともあんな劇的な試合にはならなかったはずです。

あの決闘でもハグラーが仕掛けた総攻撃と正面衝突せずに、マーベラスの消耗を待てば終盤は一方的な展開に持ち込めたかもしれません。

歴史的評価を考えると、ハーンズは最悪の戦法を選んでしまったのです。

そして、ボクシングやスポーツというよりも決闘や戦争を思い起こすスタイルは、肉体に深刻なダメージを蓄積してしまい、現在のヒットマンは重いドランカー症状に苦しんでいます。

どんなに酷いノックアウト負けを食らってもハーンズの試合では、誰もがこのスポーツの魅力を堪能することが出来ました。

現代のビッグネーム達が、今のハーンズを「勇敢に戦ったが為に、リングの中でも外でも酷い敗北に傷ついてしまったレジェンド」と反面教師的に見ているのだとしたら、残念です。

スポーツに勝者と敗者はつきものです。

そして、勝者と敗者のコントラストが最も残酷に鮮やかに描かれるのがボクシングです。

野球やサッカーの試合は両チームのファンも巻き込んで勝者は美酒に、敗者はヤケ酒に酔うことが出来ます。

試合がどんなに凡戦でも贔屓チームの勝利はイコールファンの勝利です。

しかし、ボクシングには試合の勝敗に関わらず、リングの外でも勝敗があります。

つまり、あの試合でカネロは勝者でジェイコブスは敗者でしたが、負けたのはジェイコブスだけではありません。

あの試合のチケットを買ってワクワクしながらシートに座ったファンや、録画までしながら生中継のテレビの前で2人の激突に期待を膨らませていたファンもまた敗者でした。

ファンを敗者にしてしまった。その意味においてはカネロも勝者とは言いかねます。

ビッグネーム対決の典型例メイパックも、ファンが敗者でした。

36分間のエクササイズで300億円を分け合ったメイパックは、ビジネスマンとしては確かに偉大な勝者だったかもしれませんが、あの試合の2人はボクサーとしては卑しい敗者でした。

それにしても!

カネロ的な意味ではビッグネームとは到底言えない井上尚弥やロマゴン、シーサケット、エストラーダの試合は、何という高確率でファンを勝者にしてくれるのでしょうか!

大手ネットストリーミング企業と巨額の複数年契約を結ぶと「下手に負けることは許されない」と感じるのは当然です。

ボクサーとして頂点に立つ前に経済的にトップ中のトップを極めてしまった金(カネ)ロは、未だにそのキャリアで傑作と呼べる作品をたったの一つも世に送り出すことが出来ていません。

ジェイコブス戦はその絶好のチャンスでしたが…。

このまま金ロが傑作メガファイトを一つも残さずリングを去るとしたら、DAZNの投資はボクシング界にとっては苦い記憶として残ってしまうのかもしれません。