第二次世界大戦が終わると、バーニー・ロスはニューヨークの広告代理店で働き、ジェイコブ・ルーベンスタインはテキサス州ダラスでストリップクラブのオーナーになりました。

親友が名前を変えてリングに上がったように、ルーベンスタインもテキサスで商売を上手く回すためにユダヤ人とわからない名前に改名しました。

ジャック・ルビーです。


第二次世界大戦で米国の英雄となったバーニー・ロスと、ダラスのストリップクラブのオーナー になったジャック・ルビー。

全く対照的な人生を歩き始めた二人ですが、二人は他国への武器輸出に関与したとして告訴されたことがあります。 

ロスは、新生国家イスラエルに。ルビーは、キューバに。

「ルビーはマフィアの構成員ではなかった」とも言われていますが、キューバへの武器密輸やダラスでの風俗営業を単独で成功させたとは考えられません。

五大ファミリーの一つボナンノファミリーの首領、ジョゼフ・ボナンノの息子ビルが書いたノンフィクション「 Bound By Honor : A Mafioso's Story (邦題ゴッドファーザー伝説ジョゼフ・ボナンノ一代記」)の中で「ルビーはマフィアと手を組んで、キューバの反カストロ政権組織に武器を流していた」と記述しています。

純粋な構成員ではなかったかもしれませんが、ルビーがマフィアと組んで幅広い商売に手を染めていたのは間違いありません。 

そして〝本業〟でも、商才に長けたルビーのストリップクラブは大繁盛します。

こうした風俗産業にもかかわらず、というか風俗産業であるがゆえに、ダラス警察の署員も数多く来店し、彼らは気前の良いルビーが差し出すおごりの酒をあおり、ストリップ嬢を楽しんでいたのです。




…あの世界史を揺るがした大統領暗殺事件には、数え切れない謎が散りばめられています。

しかし、ジャック・ルビーが厳戒態勢の警察署にどうしてすんなりと入り込み、護送されるリー・ハーヴェイ・オズワルド容疑者にまで接近出来たのか…その謎は簡単に解けます。

警察署のほとんどの人間が、ルビーに気を許していたからです。

普段から警察署に出入りしていたルビーは、完全なフリーパスでした。

ストリップクラブで嬌遊していた警察署の幹部のスキャンダルを握っているルビーを不審者として呼び止めることは、たとえストリップクラブになど行ったこともない品行方正な署員にとっても暗黙のタブーだったと言われています。
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1963年11月22日、その事件が起きてしまいます。

テキサス州を遊説中の第35代大統領ジョンFケネディが街頭パレード中に銃撃を受け、暗殺されたのです。

逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルドは、郡拘置所に移送されるため独房からダラス警察署の地下通路を大勢の警官に取り囲まれながら歩いているときに、空気のように近寄ってきたルビーに撃たれて死亡します。

連邦最高裁長官のアール・ウォーレンをトップに結成された特命調査委員会〝ウォーレン委員会〟は、ルビーの幼馴染で固い友情で結ばれているバーニー・ロスにも事件について任意の聞き取りを何度も行っています。

ロスはルビーの後見人として「スパーキー(ルビーの渾名)のことはよく知っている。まあ偏屈だったな。それにとにかく気が短くて…カッとなると見境がつかなくなるんだ。まあ少し気がおかしいヤツだった」と証言しますが、委員会は「親友の犯行を発作だったとして罪の軽減を狙っている」と見なします。
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ルビーには1964年に死刑判決が下されますが、2年後に判決は覆されました。

しかし「何者かに癌細胞を注射された」と妄言を繰り返し、入院。1967年1月3日、死亡してしまいます。

死因は…肺癌でした。

ルビーが死亡したパークランド病院は奇妙なことに、ケネディが死亡宣告を受け、オズワルドが担ぎ込まれた、同じ病院でした。

そして、ルビーが死んだ二週間後の1月17日、ロスもまた癌でこの世を去ります。

ロスもまた、見えない監獄に閉じ込められながら、人生の幕を引きました。ガダルカナルの海戦で負った重症の痛みを和らげるために服用したモルヒネの中毒から、脱け出していなかったのです。

「伝説の世界チャンピオンにして第二次世界大戦の英雄」と、「マフィアや警察も巻き込む反社会組織の黒幕」になったロスとルビーは、絵に描いたようなユダヤ人の因果な生き様、光と闇の人生をそれぞれ疾走しました。

天国では「おいおい、英雄さんがもうこっちへ来ちゃったのか?いくら何でも早すぎるだろう」と呆れるジャックに、バーニーは「お前を待たせるわけにはいかないからな。すぐに追いかけたよ。これでやっと二人きり、ゆっくり話せるじゃないか」と笑って答えているのかもしれません。

ケネディとリンカーンの偶然とは言い難い驚くべき符合(本題とは関係性が薄いので触れません)に、バーニーとジャックの対照的な物語、いくつもの奇妙な符合が、菌糸のような不気味な姿で交錯する複雑な事件と人生でした。

ちょうど1年前、トランプ大統領はケネディ暗殺事件の膨大な機密文書の中から約2800件の公開に踏み切りました。

しかし、目新しい事実は乏しく、事件の真相に迫る文書を含む〝全公開〟は、2029年まで封印されることになっています。

もしかしたら、2029年には、ボクシングをこよなく愛したバーニーとジャックの物語に何か新しい挿話が加わるかもしれません…。