世界最大のスポーツメディアESPNは、偏向報道が目につくこともありますが、物事の本質に迫る取材能力や、何よりもジャーナリズム精神が溢れる記事も多く、雑誌も含めて非常に読み応えがあります。
ボクシングに関しては、これまで蓄積してきた歴史や取材網、そのノウハウにおいてリング誌に一日の長がありますが、リング誌の元編集長ナイジェル・コリンズを迎え入れるなど積極的な増強策も見せています。
ボクシングに関しては、これまで蓄積してきた歴史や取材網、そのノウハウにおいてリング誌に一日の長がありますが、リング誌の元編集長ナイジェル・コリンズを迎え入れるなど積極的な増強策も見せています。

メキシコ中部の牧場。飼育されている肉牛は、強烈なメキシコの日差しと暑さを避けて牛舎に集められている。
牧場主は少し戸惑いながら「ここの牛はクリーンだよ」と話しながらも「でも、全部汚染されてるとも言える」 とウィンクして見せた。そして「取材を続けるなら、匿名でないと協力は出来ない」とはっきり釘を刺された。
牛舎の一角に招かれると、牧場主は物入れを開けて見せるが中は空っぽ。しかし、その床板を剥がすと大きなバッグが現れた。中身は白い粉で一杯。
「コカインだ」。そう言うと、牧場主は笑った。
白い粉の正体はクレンブテロールだ。筋肉を増強し、同時に脂肪を減らす効果のあるPEDで、ボディビルダーをはじめ多くのアスリートが使用している。
もちろん、この薬物を人間に使うことは、メキシコをはじめ世界中のほとんどの国で禁止されている。しかし、ここメキシコの牧場ではクレンブテロールを使って家畜の肉量を増やすことはごく一般的に行なわれている。
もともとクレンブテロールは、呼吸器官の病気改善のために人間に対しても処方されてきた薬物だったが、激しい動悸や痙攣を引き起こす危険があることから禁止された経緯がある。
WADA(世界アンチドーピング委員会)が禁止薬物にリストアップしているクレンブテロールが検出されたアスリートは、これまでにも数多く存在する。
カネロ・アルバレスはそんなドーパーの一人。そして、この薬物に陽性反応を示したアスリートが例外なく口にする共通の言い訳がある。
It was tainted meat.
「故意じゃない、ドーピングじゃない。メキシコで食べた牛肉が汚染されていたんだ」。「メキシコの街ならどこにでもある普通のレストランで牛肉を食べただけなんだ」。
エリック・モラレスも詭弁した、まことに便利な言い訳である。
しかし、クレンブテロールは全てのドーピング検査で禁止薬物に指定されており、メキシコや中国で肉牛の飼料に混ぜられていることは、昨日今日に明らかにされた事実ではない。
カネロは4月に記者会見を開き「こんなことが起きて驚いている。クリーンなアスリートであることに誇りを持ってきたのに、こんなことになってしまって申し訳ない」と謝罪しました。
「パーティで食べたタコスや、道端で買ったトータスに牛肉が入っていた。検査前に少なくとも6回はメキシコで牛肉を口にしていた。禁止薬物をしっかり把握していなかったことが、私の過ちだ」。
アスリートがメキシコで履歴がはっきりしない牛肉料理を口にする、そのことがどれだけ重大な結果を招くことになるかを「私は勉強不足で、無知だった」と弁解して済むと、本気で考えているのだろうか?
クレンブテロールの効果について「特にボクサーのようなアスリートには顕著な効果がある」と主張する専門家がいる。
全世界の多くの有名アスリートを巻き込んだ「バルコ・スキャンダル」の張本人、〝ドーピング・グル〟ビクター・コンテは「筋肉増強と脂肪減少だけでなく、呼吸を楽にしたり、反射的な反応を高めたり、新陳代謝(乳酸が溜まりにくい)を促進する」とパワーだけでなくスタミナやスピード、回復力にまで多大な効果が期待出来ると説明している。
一方で、「クレンブテロールはそこまで決定的な効果のあるPEDではない」と考えている専門家もいる。
WADAの下部組織であるUSADA(全米アンチドーピング委員会)のチーフドクター、マシュー・フェドロックは「クレンブテロールの人体への効果については様々な意見あり、その効果は現時点でははっきりしていない」と語るが「薬物の力を借りる行為が不法で不当であることは間違いなく、人体への副作用は明らかにある」と警告している。
MLBやNFL、NBAなどメジャースポーツでもクレンブテロールは深刻な問題となっており、メキシコだけでなく汚染された牛肉が市場に出回っている中国へも遠征や旅行で訪れた場合は十二分に注意するよう厳重に指導している。
例の牧場主が語るには「これはメキシコでは飼料としては合法だ。難産の母牛や呼吸困難の子牛にも明らかに効果がある」。
クレンブテロールは、世界中にバイヤーが存在し、インターネットでも簡単に手に入る。ただ、それだと書類が残るから、裏のディーラーから購入する牧場も少なくない。
書類が残り「あの牧場は薬物で肉質を向上している」と知られるのは、商売としてはよろしくないからだ。
そこで、バイヤーから直接購入する牧場も多い。
エリック・モラレスも詭弁した、まことに便利な言い訳である。
しかし、クレンブテロールは全てのドーピング検査で禁止薬物に指定されており、メキシコや中国で肉牛の飼料に混ぜられていることは、昨日今日に明らかにされた事実ではない。

「パーティで食べたタコスや、道端で買ったトータスに牛肉が入っていた。検査前に少なくとも6回はメキシコで牛肉を口にしていた。禁止薬物をしっかり把握していなかったことが、私の過ちだ」。
カネロが「牛肉入りのメニューを食べた」と証言した店の一つ「ソノラ・グリル」。
アスリートがメキシコで履歴がはっきりしない牛肉料理を口にする、そのことがどれだけ重大な結果を招くことになるかを「私は勉強不足で、無知だった」と弁解して済むと、本気で考えているのだろうか?
クレンブテロールの効果について「特にボクサーのようなアスリートには顕著な効果がある」と主張する専門家がいる。
全世界の多くの有名アスリートを巻き込んだ「バルコ・スキャンダル」の張本人、〝ドーピング・グル〟ビクター・コンテは「筋肉増強と脂肪減少だけでなく、呼吸を楽にしたり、反射的な反応を高めたり、新陳代謝(乳酸が溜まりにくい)を促進する」とパワーだけでなくスタミナやスピード、回復力にまで多大な効果が期待出来ると説明している。
一方で、「クレンブテロールはそこまで決定的な効果のあるPEDではない」と考えている専門家もいる。
WADAの下部組織であるUSADA(全米アンチドーピング委員会)のチーフドクター、マシュー・フェドロックは「クレンブテロールの人体への効果については様々な意見あり、その効果は現時点でははっきりしていない」と語るが「薬物の力を借りる行為が不法で不当であることは間違いなく、人体への副作用は明らかにある」と警告している。
MLBやNFL、NBAなどメジャースポーツでもクレンブテロールは深刻な問題となっており、メキシコだけでなく汚染された牛肉が市場に出回っている中国へも遠征や旅行で訪れた場合は十二分に注意するよう厳重に指導している。
例の牧場主が語るには「これはメキシコでは飼料としては合法だ。難産の母牛や呼吸困難の子牛にも明らかに効果がある」。
クレンブテロールは、世界中にバイヤーが存在し、インターネットでも簡単に手に入る。ただ、それだと書類が残るから、裏のディーラーから購入する牧場も少なくない。
書類が残り「あの牧場は薬物で肉質を向上している」と知られるのは、商売としてはよろしくないからだ。
そこで、バイヤーから直接購入する牧場も多い。
彼らはどこからかやって来て〝画期的な栄養剤〟を置いていく。「使ってみて良かったら買ってくれ」と。
「効果は絶大。明らかに牛は大きく育ち、肉は量も質も高まるんだ。その頃に、彼らはまたやって来る。そして、そのたびに値が釣り上がっていくのさ。私は最初にこれをコカインだと言ったのはそういうことだ。最初は安く売り、ときにはタダで、そして後戻りできない中毒にさせたら高額で売りつけてくる。コカインだと言ったのはジョークじゃないんだ」。
「そう、中毒だ。最初はほんの少しでも、もっとたくさん与えてみたくなるのが人情だ。そうしたら、もっと高く売れる牛が育つ」。
メキシコ国立大学で家畜専門の研究に取り組んでいるオクタビオ・カンプザーノ博士は「クレンブテロールを沢山投与したら、その量に比例して牛が大きくなるわけじゃない。適量がある。1日、スプーン2、3杯で十分なんだ」と指摘している。
カンプザーノ博士は「問題は牧場主は専門家じゃないということだ。ディーラーの口車に乗って大量に与えないといけないと思い込んでしまうケースも多い。そうなると高度に汚染された牛肉を人間が口にすることになる」と危惧する。
現実に2012年にメキシコを代表するリゾート地、カンクンで多くの観光客が酷い吐き気や下痢、発作や痙攣の症状に陥り、政府は「その内の90人はクレンブテロールの中毒症状だった」と調査結果を発表した。
こうした事件が多発したことを受けて、メキシコ政府はクレンブテロールに高度に汚染された牛を故意に飼育したり、販売したりした牧場やレストランに対して懲役8年を課す法律を成立させた。
アスリートには、軽率で無知蒙昧なカネロは別にして、情状酌量の余地のあるケースも散見されている。
メキシコのトップリーグでプレーするサッカー選手、エドガー・ドゥエナスは「メキシコサッカー協会から厳しく指導を受け、協会承認の牛肉業者が供給した料理を食べてきた。それで陽性反応だなんて、俺たちはどうしたらいいんだ?」と怒りと戸惑いをぶちまけている。
しかし、ツール・ド・フランスのスーパースター、アルベルト・コンタドールのような悪質なケースもある。
コンタドールは「(安全とされていた)スペインで買った牛肉がクレンブテロールに汚染されていた」と弁解、調査委員会がその肉の履歴を突き止めたて、牧場を精密調査したがクレンブテロールを投与した証拠は発見できなかった。
コンタドールはスポーツ裁判所で有罪判決を受け、出場停止処分に13の勝利が剥奪されたが、彼のように虚偽の発言を繰り返すアスリートも後を絶たない。
カンプザーノ博士は「メキシコ政府には全ての汚染肉を把握する能力はない。もし、調査のためにそれだけの調査人員を牧場に派遣できたとしても、そこでは別の問題が起きる。つまり、贈収賄が横行する。そうなると、ほとんどの牧場がシロと発表されるだろう」と汚染の撲滅に悲観的な見方を示している。
あの牧場主に尋ねてみた。「良心の呵責はないのか?」。
「本気で聞いているのか?もし私がやらなければ問題は解決するとでも?私がやらなくても、他の誰かがやるさ。そして私の牧場は破産して、家族が路頭に迷うだけだ。あんたの望みはそれかい?」。
※ルイス・ネリーが陽性反応を示したのもクレンブテロールでしたが、あまりにもマイナーな小物ボクサーのためか、この記事ではその名前はどこにも出てきませんでした。
「効果は絶大。明らかに牛は大きく育ち、肉は量も質も高まるんだ。その頃に、彼らはまたやって来る。そして、そのたびに値が釣り上がっていくのさ。私は最初にこれをコカインだと言ったのはそういうことだ。最初は安く売り、ときにはタダで、そして後戻りできない中毒にさせたら高額で売りつけてくる。コカインだと言ったのはジョークじゃないんだ」。
「そう、中毒だ。最初はほんの少しでも、もっとたくさん与えてみたくなるのが人情だ。そうしたら、もっと高く売れる牛が育つ」。
メキシコ国立大学で家畜専門の研究に取り組んでいるオクタビオ・カンプザーノ博士は「クレンブテロールを沢山投与したら、その量に比例して牛が大きくなるわけじゃない。適量がある。1日、スプーン2、3杯で十分なんだ」と指摘している。
カンプザーノ博士は「問題は牧場主は専門家じゃないということだ。ディーラーの口車に乗って大量に与えないといけないと思い込んでしまうケースも多い。そうなると高度に汚染された牛肉を人間が口にすることになる」と危惧する。
現実に2012年にメキシコを代表するリゾート地、カンクンで多くの観光客が酷い吐き気や下痢、発作や痙攣の症状に陥り、政府は「その内の90人はクレンブテロールの中毒症状だった」と調査結果を発表した。
こうした事件が多発したことを受けて、メキシコ政府はクレンブテロールに高度に汚染された牛を故意に飼育したり、販売したりした牧場やレストランに対して懲役8年を課す法律を成立させた。
アスリートには、軽率で無知蒙昧なカネロは別にして、情状酌量の余地のあるケースも散見されている。
メキシコのトップリーグでプレーするサッカー選手、エドガー・ドゥエナスは「メキシコサッカー協会から厳しく指導を受け、協会承認の牛肉業者が供給した料理を食べてきた。それで陽性反応だなんて、俺たちはどうしたらいいんだ?」と怒りと戸惑いをぶちまけている。
しかし、ツール・ド・フランスのスーパースター、アルベルト・コンタドールのような悪質なケースもある。
コンタドールは「(安全とされていた)スペインで買った牛肉がクレンブテロールに汚染されていた」と弁解、調査委員会がその肉の履歴を突き止めたて、牧場を精密調査したがクレンブテロールを投与した証拠は発見できなかった。
コンタドールはスポーツ裁判所で有罪判決を受け、出場停止処分に13の勝利が剥奪されたが、彼のように虚偽の発言を繰り返すアスリートも後を絶たない。
カンプザーノ博士は「メキシコ政府には全ての汚染肉を把握する能力はない。もし、調査のためにそれだけの調査人員を牧場に派遣できたとしても、そこでは別の問題が起きる。つまり、贈収賄が横行する。そうなると、ほとんどの牧場がシロと発表されるだろう」と汚染の撲滅に悲観的な見方を示している。
あの牧場主に尋ねてみた。「良心の呵責はないのか?」。
「本気で聞いているのか?もし私がやらなければ問題は解決するとでも?私がやらなくても、他の誰かがやるさ。そして私の牧場は破産して、家族が路頭に迷うだけだ。あんたの望みはそれかい?」。
※ルイス・ネリーが陽性反応を示したのもクレンブテロールでしたが、あまりにもマイナーな小物ボクサーのためか、この記事ではその名前はどこにも出てきませんでした。

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