ボクシング史上「最高のトレーナー」は誰でしょうか?

そんな問いに、絶対的な答えなどあるわけがありません。

これが「最高のボクサー」なら自信を持って答えることができる歴史家や専門家はいるでしょう。

しかし、トレーナーとなるとその守備範囲は広すぎます。

技術を教えるコーチとしては限界があったが、モチベーターとしては傑出していたカス・ダマトやクーヨ・エルナンデス、ブレンダン・イングル。

技術屋としては優秀な成果を挙げたが、選手の気持ちに寄り添えることには不器用だったテディ・アトラスやロジャー・メイウェザー。

トレーナーとマネージャーの境界線は実に曖昧で、ダマトやエルナンデスをトレーナーとカテゴライズするのは間違っているのかもしれません。

また、アトラスやロジャーも技術を教える傭兵、パートタイマーの色彩が強く、選手に寄り添うトレーナーのイメージからは離れてしまいます。実は、様々な選手が寄ってきては離れるフレディ・ローチもこのジャンルのトレーナーです。

技術を教え、選手を鼓舞することも出来るトレーナーは、実はそんなに多くは存在しません。

アンジェロ・ダンディとエマヌエル・スチュアードはそんな稀有な存在ですが、それでもダンディは巧妙なモチベーターで、スチュアードは頑固な技術屋でした。

最初の問いに戻ります。

ボクシング史上「最高のトレーナー」は誰でしょうか?

トレーナーの定義さえ曖昧なのに、答えなどあるわけがない問いですが、その答えはエディ・ファッチです。
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ラリー・ホームズとマイケル・スピンクスの第1戦。一発殿堂の二人にボクシングを教えたのはファッチ、ホームズから高額の報酬でセコンドに付くよう求められましたが、稀代の名匠は「愛する教え子が戦うのにどちらかに付くなんてことは出来ない。カネの問題じゃない」と拒みました。

「ボクサーとしての実績が乏しいあなたが、どうして偉大なトレーナーになれたのか?」と聞かれた答えがしびれます。

「ボクサーは拳で語るが、トレーナーはまさしく言葉で語らなければならない。才能を言葉にするのは難しい。それは才能があるがゆえに難しい、と言っても差し支えない。ジョー・フレイジャーやモハメド・アリが優秀なトレーナーになれると思うか?」。

そして、「あなたはどこでボクシングを学んで、これほど様々なスタイルのボクサーに薫陶を授ける技術体系を習得したのか?」と問われた答えは、フレディ・ローチにも受け継がれる哲学です。

「たくさんの本を読み、ビデオも観た。それらは素晴らしい勉強になった。しかし、ほとんど全てのことはリングの上から学んだ。つまり、選手からだ。みんな、大きな勘違いをしている。コーチングは、コーチから選手への一方通行じゃない。むしろ、コーチは選手から学ぶのだ。

一人の選手は自分のキャリアを全うすることでで精一杯だが、コーチは何人もの選手のキャリアを生きることができる。逆説的に聞こえるかもしれないが、コーチが選手を作るのではない。選手がコーチを作るのだ。

フレイジャーとアレクシス・アルゲリョは、完全に矛盾するセオリーが共に正解だと教えてくれた。ホームズとマイク・マッカラムは〝正統も異端もない〟ことを教えてくれた」。

フレディ・ローチは、ファッチの「THE FIGHTER MAKES THE TRAINER(選手から学べ)」という助言に「理屈はよくわかるし、全てのトレーナーがそうしているはず だろう」と、その本質を理解するまでに時間がかかったと告白しています。

ローチのお話に戻ります。