この1ヶ月弱は、特に日本のボクシングファンにとって、素晴らしく贅沢な時間でした。

亀海喜寛が世界的なビッグネーム、ミゲール・コットに挑み、井上尚弥がHBOが企画したスーパーフライ級メインの超冒険的な興行のセミファイナルに登場、フロイド・メイウェザーはスポーツとしては茶番としてしか記憶されようがないショウを、これ以上ないパートナーを得て、見事に演じきりました。

そして、直近のメガファイト、ゲンナディ・ゴロフキンvsカネロ・アルバレス。醜悪な不当判定が下されてしまいましたが、リング誌のマイケル・ローゼンタール編集長をはじめ「118−110は好勝負を汚すスコアだったが、ドロー判定はありえないかと聞かれたら、そうじゃない」という意見も、超少数派ながら、中立の専門家からも聞こえてきました。


【どんなにカネロ贔屓で見ても、この試合を118-110と見るのは不可能です。アンドレイド・バードのスコアは常軌を逸しています。ただ、カネロを勝たせる圧力がかかっていたのなら、それはそれで118-110はあまりにも下手くそなスコアリングです、圧力があったならあったで、普通ならもっと、それらしく接近した採点をするはずです。とはいえ、バードが真剣に試合を評価して、そう見えたのなら彼女は、この職業失格です。】

個人的には同意できかねますが、村田諒太までもが「115-113でアルバレス。クエスチョン(がつく)ラウンドだらけ。おまけでカネロというのが多かった」と、カネロを支持しています。

以前から気付いていましたが、村田諒太という人は「プロボクシングは清濁併せ呑む、それどころか濁々吞み込む」ということを知り尽くして、それを大前提に話しているのかもしれません。

それでも、やっぱり、よほど穿った見方をしなければ、カネロ勝利はありえないと思うのですが…。

両者ともに再戦を希望していますが、今後の展開はAサイドのカネロ陣営の思い通りです。

ボクシングの本場とはいえ、現在の米国のメガファイトは、メキシコのカレンダーで決まります。5月のシンコ・デ・マヨの祝日、そしてメキシコ独立記念日の9月。

最も考えられる「スケジュールA」は、来年5月のシンコ・デ・マヨ週間でカネロがミゲール・コットと、超ローリスク・ハイリターンの再戦を行い、9月にGGGとの決着戦のリングに上がるというものです。

「年内に今回の勝者と戦いたい」と表明していたコットですが、まさかのドロー判定です。カネロ2が約束されたら、引退試合を半年先延ばしすることは十分考えられます。また、カネロ陣営にとっても、レジェンドとはいえ、既に一度完勝してるロートル相手にボーナスゲーム、悪い話ではありません。

そして、何よりも、もはや誰の目にも明らかになったGGGの劣化が、さらに進行する時間を稼ぐことまで出来るのですから。

「スケジュールB」は、2018年5月のシンコ・デ・マヨで、最短距離でのGGGとのダイレクトリマッチです。これは、ファイターの本能を考えると可能性ゼロとは言いませんが、ビジネスが何よりも最優先されるボクシングの世界ではありえないでしょう。


【「ビジネスの視点から考えると、今回のドローは悪い結果ではない」。…絶対に納得できませんが、そういう意見が公然と出るのがボクシングの世界です。ボクシングは、スポーツである以前に、ビジネスなのです。プロボクシングのメソッドを他のスポーツでも当てはめると、テニスの4大大会は常にロジャー・フェデラーが優勝、MLBはニューヨーク・ヤンキースが毎年ワールドシリーズを制します。】

カネロ陣営が、5月にダイレクトリマッチをせず、コットとの1試合挟むとなると、GGGも来年9月の再戦までに1試合リングに上がるでしょう。

では、GGGの相手が誰になるのか?WBC指名挑戦者のジャーマル・チャーロは、陣営が敬遠の意思を示していますから、まずありえません。カネロより速くて、強打のジャーマルは危険すぎます。

「今日の二人なら、ジャーマルはどっちでもいいからやりたいでしょう。僕でもそうです」。村田が言うように、一定の技術は見せたものの、今のGGGも、そしてカネロもこの階級で傑出した存在でないのは明らかです。

今日、ウィリー・モンローJr.相手に平凡に完勝、防衛に成功したビリー・ジョー・サンダースも「勝者と戦う」と明言していましたが、引き分けの結果を受けて、再び待機状態に戻るのは確実です。彼は、あくまで「地元英国でのミドル級最強決戦」に固執しているのです。

そうなると、我らが村田諒太です。GGGがジャーマルを回避して、カネロとの再戦に向けた前哨戦の相手に村田を選んだら応じるのか?

もちろん、エンダム戦の内容が圧勝なら、GGG陣営は村田も避けるでしょうが…。


【ユニオンジャックを翻し、涼しい笑顔を見せるロンドン五輪金メダリスト、ルーク・キャンベル。ボクシング人気沸騰の英国でも屈指のアイドルであることには、納得するしかありません。】

ああ、この贅沢な時間も、来週で、とりあえず、終わってしまいます。

大トリは23日。WBA、WBCダイアモンド、リング誌、ライト級の3つのベルトを賭けて、王者ホルヘ・リナレスと、ルーク・キャンベルが、カリフォルニアはイングルウッド、ザ・フォーラムで相見えます。

ケビン・ミッチェル、アンソニー・クロラと英国の人気者を明白な形で撃破、英国ではヒール役がすっかり板についたリナレスですが、今回は米国西海岸が舞台です。

オッズは、リナレス勝利が1.25倍、キャンベル4倍と、3−1〜4−1でベネズエラのスピードスターが有利と見られています。

しかし、今回の相手、キャンベルは侮れません。舞台が英国なら倒さなければ勝てない超人気者です。ロンドン五輪バンタム級(56kg級)では準決勝で清水聡を20−11で下すなど、金メダルを獲得。

リング誌が、米国以外の五輪特集でトップページに起用するなど、ハンサムなキャンベルはプロ入り前から注目株でした。

トレーナーはキューバのナショナルチームを指導していたホルヘ・ルビオ。ギレルモ・リゴンドーやアミール・カーンといったテクニシャンが、この名伯楽の指導を仰いできました。

プロ戦績は17勝14KO1敗。唯一の敗北は、イーヴァン・メンディ相手に、WBCインターナショナル・ライト級王座の防衛に失敗したものです。がっちりプロテクトされていたキャンベルですが、5ラウンドにダウンを奪われた末のスプリットデジション、派手にダウンしてしまっては、最大の武器である地元判定も残念無念、機能しませんでした。

スピード、テクニック、経験ではリナレスが大きくリードしますが、愛嬌のある日本語を話すこのベネズエラ人は、典型的なグラスジョーの持ち主でもあります。

42勝27KO3敗、3階級で世界のトップを渡り歩いて、この輝かしい成績です。しかし、その3敗は、いずれも有利予想をひっくり返されての、痛烈なKO負け。

世界基準の武器は何一つ持たない凡庸なファン・カルロス・サルガドには1ラウンドTKO負け、エイドリアン・ブローナーに「スローモーション」と揶揄されたアントニオ・デマルコには99-91、98-92(二人)と圧倒的なリードをひっくり返されての11ラウンドTKO負け、6−1のオッズで負け犬のセルヒオ・トンプソンにも2ラウンドTKO負けと、いずれも明白な格下相手に、惨めな大番狂わせを食らっているのです。

トンプソン戦後は11連勝7KOですが、打てば倒れるアゴの印象は世界中のボクシングファンの記憶にこびりついています。


【ロンドン五輪バンタム級で期待通りに金メダルを獲得したハンサムなスーパースターを一目見ようと、ヴィクトリア女王広場には何と1万3000人の大観衆が詰めかけ、耳をつんざくルークコールが沸き起こりました。「英国が舞台なら倒さなければ絶対に勝てない」相手でしたが、今回は米国ザ・フォーラムのリングです。とはいえ、英国の人気者が米国でも大声援を集めることは、珍しくありません。9月23日のザ・フォーラムも、リナレスにとって厳しいアウエーになる可能性は十分考えられます。】

ベネズエラ人のリナレスも、GGG同様に、経済力のない母国から出て、Bサイドとして世界中を流浪する〝ボクシング・ジプシー〟です。

こんなことを口にするのは虚しいだけですが、エキサイティングな試合を演出する、この二人がメキシコ人だったら、どれほどの人気と報酬を獲得していたでしょう。あるいは、せめて日本人だったなら…。

ボクシングの世界は、他のスポーツ以上に理不尽や不条理が横行しています。GGGもリナレスも、王者にもかかわらずBサイドの扱いを受け、不利な条件や待遇を押し付けられてきました。

この理不尽と不条理を一言で表現するなら「ボクシングの世界は、彼らが勝ち残ることを求めていない」ということです。

彼らが陰湿で重厚なオセロをひっくり返して、Aサイドになるには、歴史上、唯一人、マニー・パッキャオがやってのけたように、何重にも包囲された理不尽や不条理の忌々しい障壁を、その二つの拳で、気持ち良いほどに木っ端微塵に打ち砕いていくしかないのです。

悲しいかな、リナレスはもちろん、GGGもその領域に踏み込むには、フィリピン人が披露した神がかり的な実力も、そして何よりも運、巡り合わせがあまりにも、恵まれていません。

それでも、世界が彼らの勝利を望まない中で、不公平に嵌められた重い足枷を引きずりながら戦う、彼らを、私は心の底から、声が枯れるまで、熱く熱く、応援していきます。

GGG!。判定に不満を見せなかったのは、素晴らしいスポーツマンシップだと感じましたが、同時に「判定まで行けばこういう事態もありうる」と覚悟を決めていた諦めと哀しさも伝わりました。ネバダ州のジャッジがどんなに腐った判定をしようが、あなたは明白に勝っていた!私の中ではあなたは38勝33KO、無敗、のままです。

ホルヘ、絶対に勝ってくれ!綺麗に舗装された線路の上を走ってきた、キャンベルを叩きのめしてくれ!そして、次こそメガファイト、ウクライナのハイテクか、マイキー・ガルシアだ!