亀海喜寛が、カリフォルニア屈指の複合スポーツ施設の特設リングで「日本ボクシング史上最大の戦い」に敗れた日、世界中が注目したのはギャンブルとサーカスの街、ラスベガスで挙行された世紀の見世物でした。
フロイド・メイウェザーvsコナー・マクレガー。
互いがリスクを負いながら、王座やプライドを賭けながら、専門的に磨き抜いた技術を交錯させるのがプロスポーツだとしたら、確かにこの二人が昨日見せたものはプロスポーツではありえませんでした。
しかし、昨日の二人はプロスポーツ選手ではありませんでしたが、紛う事なきプロフェッショナルでした。
In a city known for circuses and illusions, two men exchanged blows for less than 30 minutes. Nothing mattered; nothing was at stake.〜サーカスとイリュージョンの街で、二人の男が30分足らずの間、パンチを交換した。その試合には金以外の何の価値もなかった。二人は何のリスクも冒さなかった。
〜この見世物を、最も辛辣に批判したのはニューヨーク・タイムスでしたが、この二人は最初からアスリートとして最高技術の激突を見せようなんてことは、露ほども考えていなかったのは明らかです。
ニューヨーク・タイムスの記事は、少し論点がズレているように思えます。
「スポーツじゃない」という立場からの批判ならわかりますが、「観客席がフルハウスにならなかった」「グッズが売れ残っていた」…そんなやっかみは、「ラスベガスのスポーツブックで史上最高の掛け金が投じられた」「多額のPPV収入歩合で、報酬はメイウェザー200億円、マクレガー100億円を超える」という興行として収めた大成功を前にしては、虚しく響くだけです。
興行としては、誰が見ても歴史的な大成功でした。
【FLEECE OF THE CENTURY〜ニューヨーク・タイムスは「世紀の詐欺」と報じましたが、最初は「下劣な見世物」と思っていた私でも、全体を通して見ると実に上質な詐欺だったと思います。二人は、映画「スティング」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのように、この壮大な詐欺を演じ切ったのです。And, when it was over, they hugged and laughed, a pair of business partners who had just pulled off the score of the century.(サーカスが終わると、まんまと世界を出し抜いた二人のペテン師は、笑って肩を抱き合った)なんて、この名画のラストシーンそのものでした。試合終了のゴングと同時に二人のボクサーが互いの健闘を讃え合う光景は感動的なものですが、この二人のハグを見た瞬間は「やられた!」って感じでしたね…。】
二人が演じたのはスポーツではなく、大見得を斬り合う歌舞伎じみたプロモーショナルツアーから始まった、大掛かりな見世物だったのです。
「ネバダ州が公認した純粋なボクシングの試合」と見てしまうと、「プロボクシングデビュー戦の相手に勝ってロッキー・マルシアノの49連勝無敗を更新したのは認められない」と憤慨してしまいますが、その角度からは見てはいけないイベントだったのです。
メイウェザーが「マクレガーは最高のダンスパートナーだった」と称賛したように、純粋なスポーツとしては見る事は出来ないこのイベントを「競技」に焦点を当てることなく、カラフルな「サーカス」に仕上げていったメイウェザーとマクレガーのダンスは、本当に素晴らしかったと思います。
もちろん、ボクシングという競技の健全な発展のためにはメイウェザーはゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの勝者と戦うべきです。MMAに対するマクレガーの立場にも、同じ事が言えます。
メイウェザーが引退、マニー・パッキャオが衰退という二つの太陽が沈む時期に「ボクシング界を邪魔するようなことをするな」というオスカー・デラホーヤやボブ・アラムのような意見が多いのは事実ですが、今回は「ボクシングの試合」を装った大サーカスだったのですから、競技とは切り離して考えるべきです。
とはいえ、こんなサーカスが定期公演されるようでは困りものです。1回きりだから許されます。
今回、メイウェザーが「私にはパッキャオ戦で、ファンに対する負い目があった」と、この〝試合〟への動機付けを殊勝に語っていましたが、そんな優等生発言は誰も信用してくれません。
約25億円の税金を滞納し、米国国税庁IRSから「資産の差し押さえ」を通達されたことで、「アンドレ・ベルトが最後の相手だ。絶対にリングには戻らない」と宣誓していたメイウェザーが、金の工面に困って2年のブランクから復帰したのです。
2007年のリッキー・ハットン戦後に「リングに戻ることは永遠に無い」と涙まで流しましたが、やはり2年後にIRSから約7億円の税金滞納で資産差し押さえを迫られて、「(ファン・マヌエル・マルケス戦で受け取る)ファイトマネーで払うから、試合が終わるまで待ってくれ」と、今回と対戦相手が違うだけで、全く同じセリフを吐いてカムバック。
そして、度重なる税金滞納に懲りた彼が、今回稼いだ200億円以上の報酬を基に堅実な人生設計を描いて、残りの人生を地に足つけて生きて行く…なんてことがマネーに出来るはずがありません。
もちろん、また2年後に同じ事をやるとなると、二匹目のドジョウは今回よりもずっと小さなドジョウになるでしょうが、数十億円の滞納税金の支払いくらいは出来そうです。「ま、50億円くらいの税金滞納なら何とかなるわ」くらいに軽く考えていそうです。
さらに心配なのは、メイウェザーだけでなく他のボクサーやMMAファイターまでが、二匹目のドジョウすくいに迷走してしまう事です。
【「メイウェザーに反則攻撃を仕掛けて失格負けする気じゃないか」とも噂されていたマクレガーでしたが、10ラウンドまで立ち続けました。このアイリッシュの傑出したキャラクターが無ければ、このサーカスがここまで大きな成功を収める事はなかったでしょう。とはいえ、メイウェザーが「9.5ラウンド以内に試合が終わる」に賭けていたことが、試合後に判明しました。10ラウンド、彼には珍しく、焦って強打をつないだのは、そういうことだったのかと、尊敬も込めて呆れてしまいました。主審には9ラウンド1分30秒が過ぎるまで、ストップを待って欲しかったですね…。それにしても、フレディ・ローチも度々、パッキャオ勝利に賭けてたりしてましたが、関係者が賭けてもいいんですよね、米国って。しかし、何でもありですな。】
今回の大サーカスを巨大な成功に導いたのは、メイウェザーとマクレガーという稀代のキャラクターが噛み合ったが故ですが、二番煎じを試みる暗愚なボクサー、格闘家が現れないとは限りません。
サーカスはあの一夜限りにしていただいて、ボクシングもMMAも、競技としてよりレベルの高い試合をどんどん提供して、発展していってもらいたいものです。
フロイド・メイウェザーvsコナー・マクレガー。
互いがリスクを負いながら、王座やプライドを賭けながら、専門的に磨き抜いた技術を交錯させるのがプロスポーツだとしたら、確かにこの二人が昨日見せたものはプロスポーツではありえませんでした。
しかし、昨日の二人はプロスポーツ選手ではありませんでしたが、紛う事なきプロフェッショナルでした。
In a city known for circuses and illusions, two men exchanged blows for less than 30 minutes. Nothing mattered; nothing was at stake.〜サーカスとイリュージョンの街で、二人の男が30分足らずの間、パンチを交換した。その試合には金以外の何の価値もなかった。二人は何のリスクも冒さなかった。
〜この見世物を、最も辛辣に批判したのはニューヨーク・タイムスでしたが、この二人は最初からアスリートとして最高技術の激突を見せようなんてことは、露ほども考えていなかったのは明らかです。
ニューヨーク・タイムスの記事は、少し論点がズレているように思えます。
「スポーツじゃない」という立場からの批判ならわかりますが、「観客席がフルハウスにならなかった」「グッズが売れ残っていた」…そんなやっかみは、「ラスベガスのスポーツブックで史上最高の掛け金が投じられた」「多額のPPV収入歩合で、報酬はメイウェザー200億円、マクレガー100億円を超える」という興行として収めた大成功を前にしては、虚しく響くだけです。
興行としては、誰が見ても歴史的な大成功でした。
【FLEECE OF THE CENTURY〜ニューヨーク・タイムスは「世紀の詐欺」と報じましたが、最初は「下劣な見世物」と思っていた私でも、全体を通して見ると実に上質な詐欺だったと思います。二人は、映画「スティング」のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのように、この壮大な詐欺を演じ切ったのです。And, when it was over, they hugged and laughed, a pair of business partners who had just pulled off the score of the century.(サーカスが終わると、まんまと世界を出し抜いた二人のペテン師は、笑って肩を抱き合った)なんて、この名画のラストシーンそのものでした。試合終了のゴングと同時に二人のボクサーが互いの健闘を讃え合う光景は感動的なものですが、この二人のハグを見た瞬間は「やられた!」って感じでしたね…。】
二人が演じたのはスポーツではなく、大見得を斬り合う歌舞伎じみたプロモーショナルツアーから始まった、大掛かりな見世物だったのです。
「ネバダ州が公認した純粋なボクシングの試合」と見てしまうと、「プロボクシングデビュー戦の相手に勝ってロッキー・マルシアノの49連勝無敗を更新したのは認められない」と憤慨してしまいますが、その角度からは見てはいけないイベントだったのです。
メイウェザーが「マクレガーは最高のダンスパートナーだった」と称賛したように、純粋なスポーツとしては見る事は出来ないこのイベントを「競技」に焦点を当てることなく、カラフルな「サーカス」に仕上げていったメイウェザーとマクレガーのダンスは、本当に素晴らしかったと思います。
もちろん、ボクシングという競技の健全な発展のためにはメイウェザーはゲンナディ・ゴロフキンとカネロ・アルバレスの勝者と戦うべきです。MMAに対するマクレガーの立場にも、同じ事が言えます。
メイウェザーが引退、マニー・パッキャオが衰退という二つの太陽が沈む時期に「ボクシング界を邪魔するようなことをするな」というオスカー・デラホーヤやボブ・アラムのような意見が多いのは事実ですが、今回は「ボクシングの試合」を装った大サーカスだったのですから、競技とは切り離して考えるべきです。
とはいえ、こんなサーカスが定期公演されるようでは困りものです。1回きりだから許されます。
今回、メイウェザーが「私にはパッキャオ戦で、ファンに対する負い目があった」と、この〝試合〟への動機付けを殊勝に語っていましたが、そんな優等生発言は誰も信用してくれません。
約25億円の税金を滞納し、米国国税庁IRSから「資産の差し押さえ」を通達されたことで、「アンドレ・ベルトが最後の相手だ。絶対にリングには戻らない」と宣誓していたメイウェザーが、金の工面に困って2年のブランクから復帰したのです。
2007年のリッキー・ハットン戦後に「リングに戻ることは永遠に無い」と涙まで流しましたが、やはり2年後にIRSから約7億円の税金滞納で資産差し押さえを迫られて、「(ファン・マヌエル・マルケス戦で受け取る)ファイトマネーで払うから、試合が終わるまで待ってくれ」と、今回と対戦相手が違うだけで、全く同じセリフを吐いてカムバック。
そして、度重なる税金滞納に懲りた彼が、今回稼いだ200億円以上の報酬を基に堅実な人生設計を描いて、残りの人生を地に足つけて生きて行く…なんてことがマネーに出来るはずがありません。
もちろん、また2年後に同じ事をやるとなると、二匹目のドジョウは今回よりもずっと小さなドジョウになるでしょうが、数十億円の滞納税金の支払いくらいは出来そうです。「ま、50億円くらいの税金滞納なら何とかなるわ」くらいに軽く考えていそうです。
さらに心配なのは、メイウェザーだけでなく他のボクサーやMMAファイターまでが、二匹目のドジョウすくいに迷走してしまう事です。
【「メイウェザーに反則攻撃を仕掛けて失格負けする気じゃないか」とも噂されていたマクレガーでしたが、10ラウンドまで立ち続けました。このアイリッシュの傑出したキャラクターが無ければ、このサーカスがここまで大きな成功を収める事はなかったでしょう。とはいえ、メイウェザーが「9.5ラウンド以内に試合が終わる」に賭けていたことが、試合後に判明しました。10ラウンド、彼には珍しく、焦って強打をつないだのは、そういうことだったのかと、尊敬も込めて呆れてしまいました。主審には9ラウンド1分30秒が過ぎるまで、ストップを待って欲しかったですね…。それにしても、フレディ・ローチも度々、パッキャオ勝利に賭けてたりしてましたが、関係者が賭けてもいいんですよね、米国って。しかし、何でもありですな。】
今回の大サーカスを巨大な成功に導いたのは、メイウェザーとマクレガーという稀代のキャラクターが噛み合ったが故ですが、二番煎じを試みる暗愚なボクサー、格闘家が現れないとは限りません。
サーカスはあの一夜限りにしていただいて、ボクシングもMMAも、競技としてよりレベルの高い試合をどんどん提供して、発展していってもらいたいものです。
コメント
コメント一覧 (2)
カネロがミドル級かという疑問もありますが再戦というのも想像しにくいです…
メイウェザーが復帰するのであれば大人しくケルブルック辺りとやってなんとなく勝つぐらいがちょうど良さそうな気がします
天性のボクシングスタイルは、全く錆びついていなかった
マクレガーも、無敗の王者によく耐えたよ
メイウェザーはまたやるだろうな
それだけ金の儲け方とプロデュースに秀でたボクサーであり、チャンピオンということ
亀海VSコットと同じく
みんなが幸せになる試合に引き込んだメイウェザーの勝ちだ