この2週間足らずの短い期間で、日本で行われた世界タイトルマッチで注目された2試合「村田」と「井上」、そして海外から届いた「亀海」のビッグニュース。

共通するキーワードは「本物の世界」です。

まず、最初に、「日本で開催される世界戦が、本物の世界ではない」なんて言うつもりは毛頭ありません。日本のボクシングが世界の頂点に最もチャージした、あるいはそこに並んだ(超えた)のは、1965年に愛知県体育館で行われたファイティング原田のあの一戦以外には、悲しいかな、無いことは、当時を知らない私でも認めざるをえませんから。

しかし、村田諒太は「ミドル級は世界的に注目度が高く美味しい階級」と言い放ち、井上尚弥は「世界で認められる選手になりたい」と渇望、亀海喜寛vsミゲール・コットも日本のメディアは「世界のビッグネームとの対戦」と報道しました。

ミドル級が、日本ではマイナー階級ですが、世界の評価はスピードとパワーが高次元で結晶するスペクタクルな階級で、最も層が厚いウェルター級にも近接、メガファイトが期待出来る、というのは誰でも知っています。

一方で、「軽量級でもラスベガスで報酬100万ドルを超えるビッグマッチが出来る」という大きな勘違いもした記事も散見されます。

「井上はラスベガスでも成功して1試合で20億円(2000万ドル)稼ぐ可能性もある」とか…確かに、軽量級でも100万ドルを手にするファイターは片手で十分ですが、いることは、います。現時点ではレオ・サンタクルス、アブナル・マレス、カール・フランプトンの3人くらいでしょうか。しかし、この3人も然るべき相手と戦ったときだけ、やっと100万ドル近い報酬を手に出来るだけであって、それはレアケースです。

歴史上でも、1試合200万ドルを稼いだバンタム級以下のボクサーもいないでしょう。

そして、サンタクルスらレアな軽量級のスター選手の共通点はメキシカンか、今が花の英国圏のボクサーだということです。

夢をぶち壊すことを言ってしまうと、山中慎介や井上尚弥がまともにラスベガスで興行を打って、日本で戦ってるような無名の選手を相手にしていては、100万ドル級の報酬を手にすることは、まずありません(山中の場合はビック・ダルチニアンというかつてPFP上位に君臨した相手もいますが、この時のダルチニアンはジュニアバンタム級時代に夢想していた強豪ではありません)。

かつて、西岡利晃がラスベガスでラファエル・マルケス(ラファエルは殿堂入りも十分ありうるグレートですが、西岡と戦ったときは劣化が痛々しく、そのピークは遥か彼方に去っていました)を相手に戦った防衛戦で、ファイトマネーが100万ドルだったと報じられましたが、あんな恥ずかしいことは、もう二度と繰り返してはいけません。

ボクシングは魑魅魍魎の世界で、なんでもあり、です。それでも例外があります。あんなことは、さすがに、、もうやらないとは思いますが、二度としてはいけません。

米国で軽量級がまともにやったら、PFP1位のローマン・ゴンザレスですら50万ドルですら超えたのは、皮肉にもタイトルを失った試合がやっとなんです。50万ドルは日本の世界王者でも高額の部類に入りますが、PFP1位でもそこなんです、山中や井上、井岡一翔からしたらビジネスとしては全く旨味がありません、というかロマゴンより彼らの方が、生涯報酬ははるかに上でしょうし、これからはさらに開いていくでしょう。

軽量級選手がハイリスク・ローリターンの米国に無理やり進出する必要はありません。もちろん、名前のある相手なら報酬はローでも、ハイリターンが期待できるのですから、それはファンのためとしては行くべきですが、プロ、ビジネスとしては行くべきではありません。

誤解されるようなことを書き並べましたが、私は軽量級ボクシングの偏愛者です。

かつて、長谷川穂積は「ラスベガス進出で一攫千金」と勇んでいましたが、バンタムとかフェザーでそれはありえません、日本で戦う方が報酬高いですから。みんなパッキャオに触発されるだけで、あのフィリピン人の化け物が何をやらかしたか、それと同じことが自分にも出来る、その道をトレースしてやる、というなら話は別ですが、軽量級でも同じ扱いが期待出来ると勘違いしてしまっているのです。

メイウェザーのジュニアライト級、パッキャオのジュニアフェザー級時代の報酬は確かに、その階級にしては破格でしたが、100万ドルを超えることは特別な相手に恵まれたときだけです。

ジュニアライト級以上で鬼神の活躍を見せて、最も層が厚く、最もスポットライトが当たるウェルター級まで征服して、初めてラスベガスに降る黄金のシャワーを思う存分、浴びることが出来るのです。

タイやアルゼンチンの防衛記録以外に何一つ自慢できることのない軽量級王者に圧勝するパフォーマンスを、もしラスベガスでやったとしても、次はビッグファイトのメインが用意されるなんて、そんなお花畑な話は、ありません。彼らは、いたずらに防衛記録だけ伸ばしましたが、PFP10位に入ることもなく、世界評価は低迷したまま王座を明け渡しました。


【6月初旬は、ニューヨーク郊外カナストータで、国際ボクシング殿堂の式典が行われます。2011年には「品性の問題」と「強い相手には全部負けている」と殿堂入りに批判的な意見もあったマイク・タイソンもめでたく一発(引退5年の資格発生で即)殿堂入りを果たしました。タイソンは感極まって、何度も同じ興行でリングに上がったチャベス父(文句無しの一発殿堂)の胸で泣きむせびました。】

もちろん、このPFPという「世界評価」も、かなり怪しいものです。特にリング誌は、つい最近まで長谷川や西岡を頑なに拒んでいたのに、日本人に対して急に間口を広げました。

リング誌のPFPは「編集部が専門家パネラーの意見をまとめる」という、非常に独善的なものです。

PFPという概念自体が独善的なのですが、だからこそ大手メディアでは「専門家の名前を明らかにしたポイント投票制」にして欲しいものです。以前は、米国ヤフースポーツがこのスタイルでPFPを発表していましたが、ボクシング人気の凋落のせいか今は無くなってしまいました。現在、ポイント投票制でPFPを発表している大手メディア(大手となるとリング誌とESPN、米国ヤフースポーツしかないのですが)はESPNですが、ここも日本や英国に忖度するのは時間の問題かもしれません。

では、軽量級ボクサーにはベガスの夢も見れないし、本物の世界的評価も期待できないのか?

そんなことはありません!

まず、中量級の本場、ベガスにおもねる必要なんてありません。そんなの無駄です。

しかし、本物の世界評価は、厳しい道ですが、強い相手にさえ勝てば、得られます。でも、それは「13度防衛」とか「60連勝(でしたっけ?70でも80でもどうでもいいのですが)の相手に勝つ」とかではありません。

かつて、世間から厳しい批判を浴びた亀田興毅は「5階級制覇したら文句ないやろ!」と開き直りましたが、中身がなければ何階級制覇しても全く意味はありません、評価もされません。

原田は13度防衛もしていませんし、60連勝の相手とも戦っていません。もちろん、時代に恵まれていたという点はあると思います。現代に原田が生まれていたら、やはり13度防衛を目指したり、60連勝の相手と戦っていたかもしれません。

タイやアルゼンチンの王者と同様に、軽量級で唯一の5階級制覇したベネズエレラ人もPFPにはカスリもせんでした。この3人だけでなく、数字だけのボクサーの世界評価は、数字だけを追いかける日本国内の評価と違って、非常に厳しいものです…。

誰に勝ったのか。

それが全てです。それ以外には、世界が評価してくれる基準は残念ながらありません。