PFPの主な評価基準は、①誰に勝ったのか?②その階級・時代の支配度・傑出度はどうだったか?③一時的な勢い・フロックではないか(一定期間強さを維持できたか)?

現役最高選手と見られている井上尚弥をサンプルに取り出します。



【リング誌2017年5月号「PFP10傑に井上尚弥参上!」】

4月21日に無名のメキシカン、リカルド・ロドリゲス(メキシコ)を相手にWBOスーパーフライ級王座5度目の防衛戦を行う井上の戦績は12戦全勝10KO。短いキャリアですが2014年4月に WBCライトフライのタイトルを獲得してから丸3年、文句のつけようのない内容で世界戦7連勝中です。

対立王者への勝利がないために「当該階級の支配度」は絶対的ではありませんが、「推定絶対的」と言って良いでしょう。ただ、強い相手に勝つまでは、この忌々しい「推定」を外すことは出来ません。

今の井上はかつての長谷川と近似しています。もちろんその新鮮なキャリアは違いますが。長期政権を続けていた王者からベルトを奪い、圧倒的な力量差を見せつけて世界戦を勝ち続ける姿は、きれいにシンクロします。

そして、バンタム級推定最強と世界に評価されるようになった長谷川は3−1のオッズと、圧倒的有利の予想を背負ってフェルナンド・モンティエル戦のリングに上がりました。

モンティエルはWBO王者にもかかわらず、リング誌バンタム級で9位にランキングされるなど〝最弱王者〟と見られていました。そんな相手でも長谷川が語っているように「過去最強の相手」だったのです。

陣営もリングに上がったモンティエルの姿に「オーラがあった。こいつは強い、とすぐにわかった」と雰囲気に飲まれてしまいます。

モンティエルはボクシング大国のメキシコ人でしたが、その割には人気はありませんでした。その不人気も低評価に繋がっていたのでしょうが、過小評価されていたのは間違いありません。

しかし、その一方で長谷川が過大評価だったこと、世界戦を11度も戦いながらモンティエルが飛び抜けて最強だった長谷川のキャリア、対戦相手にも大きなクエスチョンマークが付いてしまいます。

井上の話に戻ります。そのキャリアで最強の相手はオマール・ナルバエスです。日本では「絶対王者」「井上でも今回は危ない」と煽られました。確かに当時の戦績は43勝23KO1敗2分で、負けたのはバンタム級に上げて戦った当時全盛期のノニト・ドネアだけ。

しかし、このナルバエスもドネア以外は強い相手とは一度も拳を交えていないハリボテの世界王者でした。

実際にリング誌を始め世界評価は辛辣で、同じアルゼンチンでも強い相手と戦うセルヒオ・マルチネスやルーカス・マティセ、マルコス・マイダナらが同国でもリオネル・メッシらサッカー選手に次ぐ人気を集めていたのに対して、完全日陰の存在でした。

不人気階級、地味すぎる戦いぶりが仇になったことも否めませんが、その実力評価も低く世界戦で29勝も挙げているにもかかわらず、PFP10傑の議論に上がったこともありません。

井上戦前のオッズは約1−7で圧倒的不利、リング誌の予想も「直前の防衛戦ではフェリペ・オルクタにグラつかせられた39歳の王者には崩落寸前の兆しがある」と指摘。8ラウンド KOで井上、ユナニマスで井上、スプリットでナルバエスと、日本の報道とは大きく温度差のある井上圧倒的有利の予想を立てました。


【マイケル・ローゼンタール編集長、ダグ・フィッシャー記者も井上勝利を予想】

井上はこれまでのキャリアで一点の瑕疵も見せていません。

現役最高と目される23歳が「顎を叩かれたことが無いときのトーマス・ハーンズ」や「後退したことが無いときのマイク・タイソン」なのか。それとも「鋼鉄の顎を持っていたモハメド・アリ」「戦術の引き出しをいくつも隠していたマニー・パッキャオ」なのか、その答えはまだ誰にもわかりません。

もちろん、後者であることを信じています。どんな選手にも、必ず大ピンチが訪れます。絶命の瀬戸際での戦いを余儀なくされるときが必ず訪れます。そのとき、戦術を切り替えられるか、勇気を振り絞って立ち向かえるか。それがそのボクサーの真価です。

自分の思い通りにならない展開でもシュガー・レイ・レナードのようにじっと我慢して一瞬のチャンスを待てるか?倒されても闘志を失わずにイベンダー・ホリフィールドのように逆襲に転じる勝負根性があるか?

異論噴出でしょうが、現時点で井上尚弥を日本歴代PFPトップの議論に乗せることは、個人的には時期尚早と判断します。彼はまだ誰にも勝っていません。試されていない部分が多過ぎるのです。

では、誰が強い相手に勝ったというのか?誰が十分に試されたと言えるのか?