「完全Bサイドから大番狂せでAサイドを何度も撃破したからマニー・パッキャオは偉大」「カネロ・アルバレスは一度もBサイドで戦ったことがない」「まともなスポーツではスターは生まれるものだが、ボクシングでは育てられる、もっと分かりやすく言うと作られる」…。

Aサイド、Bサイド、スターシステム…現在のプロボクシングでは当たり前に目にする言葉が、当たり前に飛び交うようになったのは1987年以降の話です。

1987年4月6日に行われた1試合がAサイドとBサイド、スターシステムという言葉の意味を、一つの要素ももらすことなく、誰にでも分かりやすく説明したのでした。


Monday, 6 April 1987
Caesars Palace, Outdoor Arena
Las Vegas, Nevada, USA

promoter:Bob Arum (Top Rank)
inspector:Harold Buck
doctor:Flip Homansky

referee:Richard Steele

⬇︎⬇︎⬇︎judge⬇︎⬇︎⬇︎
Lou Filippo
Jose Juan Guerra
Dave Moretti

◾️WBCミドル級12回戦◾️

©︎マービン・ハグラー
vs
シュガー・レイ・レナード

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トミー・ハーンズとのTHE FIGHT、レナードとのTHE SUPER FIGHT。世界のボクシングの中心に屹立していたのはマーベラスでした。



昨年、4年ぶりにリング復帰を果たしたマニー・パッキャオがいきなりWBCウエルター級王者マリオ・バリオスに挑戦した暴挙に驚いたボクシングファンがどれだけいたでしょうか?

今のファンはボクシングなんて何でもありだと達観しています。そんなことには慣れっこです。

しかし、1987年当時は5年あまりのブランクから電撃復帰、ミドル級のUndisputed champion マービン・ハグラーに挑戦したシュガー・レイ・レナードへの風当たりは強烈でした。

ランキングに入っていないレナードの挑戦は、まさしくスーパースターの特権でした。

それでも、当時世界で最も稼ぐボクサーだったハグラーを向こうに回して「ファイトマネーはレナードが上になる」と言われたのも、Aサイドだから当たり前。

ところが、レナードは報酬面で大きく譲歩するのです。もちろん、「王者の方が取り分が多いのは当たり前」という分別など、レナードにあるはずがありません。

レナードがカネと引き換えに手に入れたのは…もっと分かりやすく言うとレナードが買ったものは、①12ラウンド制、②大きなリング、③固いカンバス、④緩いロープでした。

スーパースターにはどんな特権が与えられているのか?Aサイドとは何なのか?…百科事典にも載っていないことが、わかりやすく説明された試合でした。

それは、ボクシングにおいては非スポーツ的な理不尽が当たり前に罷り通るということでした。

「1対1のリンチになる」とまで予想された試合は意外なクロスゲームにもつれ込みます。決定的なラウンドはハグラーの9ラウンドだけでした。

12ラウンドの戦いが終わり、レナードが力尽きてバドワイザーのロゴがプリントされたリングにひざまづいたとき、多くのファンはレナードの勇気を讃える拍手を送りました。

それは「(負けだけど)よく頑張った」という思いが込められた拍手でしたが、オフィシャルの採点が「スプリット・デジション」とアナウンスされると騒めきに変わり、「アンド・ニュー!」のコールで勝者がレナードだと知らされるとブーイングも沸き起こります。

あれから49年。毎年4月6日には歴史の残る議論を呼ぶ判定を回想する特集記事が発表されていますが「ハグラーは判定を盗まれた」という主旨から、時代が深まるにつれ「あの判定もあり」「レナードの3−0もあり」というものに変わってきています。

もちろん、118−110としたホセ・ファン・グエラの採点は受け入れ難い者でしたが、115−113はどちらに転ぶにせよ、十分納得できるスコアでした。

来年で50周年を迎えるあの試合では、見る者に「無敵の絶対王者ハグラー」と「Aサイドの特権を利用した狡猾なレナード」という二つのバイアスが重くのしかかっていたのです。


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さて、井上尚弥vsバム・ロドリゲス。

井上はAサイドですが、レナードほどのスターパワーは持ち合わせていません。また、バムはハグラーと同じ完全Bサイドですが、ハグラーと違い母国を離れて敵地に乗り込みます。

バムがバンタム級でもう1試合挟むのかどうかはわかりません。

しかし、ハグラーvsレナードを持ち出すまでもなく、調整試合無しでいきなり一つ上の階級に乗り込んで大勝負というのは歴史的にも珍しいことではなく、さらに「過酷な減量」というボクシングに付き物の言葉からかけ離れたバムの曲芸的キャリアを見ると大きな問題には思えません。

どんな試合、どんな結果になるのか、誰にも分かりません。

確かなことは二つだけです。

バムがキャリア初のアンダードッグとなること。

そして、井上のキャリアでも最もオッズが接近した大勝負になること。