日本時間の明日、6月13日にWBAバンタム級王者アントニオ・バルガスが初防衛戦のリングに上がる。
バルガスはアマチュア時代、フライ級=52kgで活躍。トロントで開催されたパン・アメリカン大会で金メダル、米国代表として出場したリオデジャネイロ五輪は惜しくもベスト8で敗退したが、エリートアマと分類しても差し支えのないボクサーだ。
しかし、米国では五輪のボクシングを地上波生中継する時代は20世紀で終わり、プロボクシングはもっと悲惨な状況でマイナースポーツの谷を転がり続けている。ただでさえマイナーなボクシングの中で、さらにマイナーな軽量級のバルガスは、母国ですら少しばかりの関心も払われる存在ではない。
ボクシングファンでも興味が薄い軽量級にも、ちょっとした格付けはある。明日、バルガスが挑戦を受けるジェシー〝バム〟ロドリゲスは軽量級では至高の評価を集める実力者だ。
トップランクと契約してプロデビューしたバルガスだったが、米国では全く注目されない軽量級、不遇の時代が続いた。しかし、2023年からバンタム級に主戦場を移し、翌年にはWBA暫定タイトルを獲得、潮目が大きく変わり、二つの波に乗った。
最初の波は昨年6月。好条件を提示されてマッチルーム・スポーツUSAに迎え入れられたのだ。完全落ち目のトップランクとは違う、サウジアラビア系のズッファ・ボクシングを例外にすると世界最高のプロモーターからの招待だった。
そして、軽量級がリスペクトされる唯一の富裕国、日本では主要4団体のバンタム級タイトルマッチで〝博覧会〟が繰り広げられていた。この二つ目の波にも乗ってWBA王者に昇格したバルガスは昨年、日本で比嘉大吾と防衛戦を行いキャリアハイの報酬を手にした。
しかし、好事魔多し。昨年11月に最愛の母、アネッタが子宮がんで亡くなってしまう。人生で、ボクシングで挫けそうになったとき、いつも励まし寄り添ってくれたのがアネッタだった。
妹の2人は父親姓のエステベスを名乗っていたが、彼は母親のバルガス姓を選んだ。
最後の週、バルガスの父親ホセ・エステベスは、歩くのもままならず意識も混濁して話すこともできなくなったアネッタに「闘病を続けるか」と静かに問うた。激しい痛みと薬の副作用に苦しみながら、アネッタはしっかりと目を開き、何度も頷いてみせた。
アネッタが「もう、闘病は終わりにしたい」と、ホセの問いかけに首を振るのではないかと激しく動揺していたバルガスは、母親の強さに感動の涙を流した。「あんな光景はいままで見たことがなかった。苦しんでいるのに、まだ戦い続けようとする母親の強くて厳かな意思に、私は神様に感謝した。この母親の強さは私にも受け継がれていると」。
母親が天国に旅立ち、失意に沈むバルガスにボクサー人生最大のチャンスが舞い込んでくる…PFPファイター、バムへの挑戦だ。マッチルームがバルガスに近寄ったのは、この試合をスムースに組むため。はっきりいってしまえば、バルガスはバムが3階級制覇する生贄、踏み台だ。
バムは「バルガスはアマチュア実績も確かな強敵。この試合に集中する」と明言しているが、バルガスに勝ったあと、団体統一戦を挟むかどうかは未定ながら、来年1月にジュニアフェザー級のUndisputed champion 井上尚弥とのビッグファイトが日本開催で内定している。
ウィリアム・ヒルはバムの勝利に1/20(1.05倍)、バルガスに9/1(10倍)と見立てている。
王者がこれほど侮辱されたオッズは滅多に拝めないが、ヒルの数字はまだマシな方でスター☆スポーツなど複数のブッカーは1/40(1.025倍)、11/1(12倍)と、マイク・タイソンvsバスター・ダグラス(1/42)のレベルで「バルガスに勝ち目はない」と切り捨てている。
「最愛の母親を失って迎える最初の試合が、一世一代の大勝負」という点で、ダグラスとバルガスが共通していることに、ボクシングファンはすぐに気が付くだろう。
そして、このレベルの大番狂せが、まず起こりえないことも、ボクシングファンはよく知っている。
「1−40」がひっくり返されるのか?それとも、バルガスはやはり、踏み台に載せられた生贄の羊なのか?
バルガスはアマチュア時代、フライ級=52kgで活躍。トロントで開催されたパン・アメリカン大会で金メダル、米国代表として出場したリオデジャネイロ五輪は惜しくもベスト8で敗退したが、エリートアマと分類しても差し支えのないボクサーだ。
しかし、米国では五輪のボクシングを地上波生中継する時代は20世紀で終わり、プロボクシングはもっと悲惨な状況でマイナースポーツの谷を転がり続けている。ただでさえマイナーなボクシングの中で、さらにマイナーな軽量級のバルガスは、母国ですら少しばかりの関心も払われる存在ではない。
ボクシングファンでも興味が薄い軽量級にも、ちょっとした格付けはある。明日、バルガスが挑戦を受けるジェシー〝バム〟ロドリゲスは軽量級では至高の評価を集める実力者だ。
トップランクと契約してプロデビューしたバルガスだったが、米国では全く注目されない軽量級、不遇の時代が続いた。しかし、2023年からバンタム級に主戦場を移し、翌年にはWBA暫定タイトルを獲得、潮目が大きく変わり、二つの波に乗った。
最初の波は昨年6月。好条件を提示されてマッチルーム・スポーツUSAに迎え入れられたのだ。完全落ち目のトップランクとは違う、サウジアラビア系のズッファ・ボクシングを例外にすると世界最高のプロモーターからの招待だった。
そして、軽量級がリスペクトされる唯一の富裕国、日本では主要4団体のバンタム級タイトルマッチで〝博覧会〟が繰り広げられていた。この二つ目の波にも乗ってWBA王者に昇格したバルガスは昨年、日本で比嘉大吾と防衛戦を行いキャリアハイの報酬を手にした。
しかし、好事魔多し。昨年11月に最愛の母、アネッタが子宮がんで亡くなってしまう。人生で、ボクシングで挫けそうになったとき、いつも励まし寄り添ってくれたのがアネッタだった。
妹の2人は父親姓のエステベスを名乗っていたが、彼は母親のバルガス姓を選んだ。
最後の週、バルガスの父親ホセ・エステベスは、歩くのもままならず意識も混濁して話すこともできなくなったアネッタに「闘病を続けるか」と静かに問うた。激しい痛みと薬の副作用に苦しみながら、アネッタはしっかりと目を開き、何度も頷いてみせた。
アネッタが「もう、闘病は終わりにしたい」と、ホセの問いかけに首を振るのではないかと激しく動揺していたバルガスは、母親の強さに感動の涙を流した。「あんな光景はいままで見たことがなかった。苦しんでいるのに、まだ戦い続けようとする母親の強くて厳かな意思に、私は神様に感謝した。この母親の強さは私にも受け継がれていると」。
母親が天国に旅立ち、失意に沈むバルガスにボクサー人生最大のチャンスが舞い込んでくる…PFPファイター、バムへの挑戦だ。マッチルームがバルガスに近寄ったのは、この試合をスムースに組むため。はっきりいってしまえば、バルガスはバムが3階級制覇する生贄、踏み台だ。
バムは「バルガスはアマチュア実績も確かな強敵。この試合に集中する」と明言しているが、バルガスに勝ったあと、団体統一戦を挟むかどうかは未定ながら、来年1月にジュニアフェザー級のUndisputed champion 井上尚弥とのビッグファイトが日本開催で内定している。
ウィリアム・ヒルはバムの勝利に1/20(1.05倍)、バルガスに9/1(10倍)と見立てている。
王者がこれほど侮辱されたオッズは滅多に拝めないが、ヒルの数字はまだマシな方でスター☆スポーツなど複数のブッカーは1/40(1.025倍)、11/1(12倍)と、マイク・タイソンvsバスター・ダグラス(1/42)のレベルで「バルガスに勝ち目はない」と切り捨てている。
「最愛の母親を失って迎える最初の試合が、一世一代の大勝負」という点で、ダグラスとバルガスが共通していることに、ボクシングファンはすぐに気が付くだろう。
そして、このレベルの大番狂せが、まず起こりえないことも、ボクシングファンはよく知っている。
「1−40」がひっくり返されるのか?それとも、バルガスはやはり、踏み台に載せられた生贄の羊なのか?
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