試合前まで「(中谷潤人との)再戦は考えていない」と話していた井上尚弥でしたが「ファンが望むならそれもあるかも」と含みを持たせるようになりました。

しかし、それは中谷がジュニアフェザー級でタイトルを獲るなど、なにかしらの看板を掲げるのが大前提。さらに、左眼窩底骨折が判明、短いスパンでの再戦はありえません。

となると、井上の次戦はフェザー級に上げるか、「来年1月日本開催」を基本ラインに交渉が進められているバム・ロドリゲス戦になりますが、普通に後者でしょう。

「ゆっくり休みたい」井上にとっては7ヶ月後。バムが6月13日にWBAバンタム級王者アントニオ・バルガスから大方の予想通りに(ほぼ無傷で)ストラップを奪えば、大きな障壁は何もないように思えます。

一方で、日本のメディアやファンの間には「体格と階級の差から実現しても勝負にならない」という意見もあります。

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Is Inoue too Big for Bam?


下の階級から上の階級へ大きくジャンプするとき、よく言われる理屈ですが昨日の「ヒルベルト・ラミレスvsデビッド・べナビデス」は〝階級飛ばし〟ではないものの、ライトヘビー級(175ポンド)のべナビデスがクルーザー級(200ポンド)に挑戦する25ポンド超えの戦いでした。

まともな思考回路で考えると「階級は人間が勝手に作ったもの」「そもそも軽量級の細切れ増殖がおかしい。水増し階級や時代の流れに沿わないフライ級を廃止して8階級にする」というズッファボクシングの主張はド正論で「〝ミリ単位〟で分けられた軽量級を統廃合して、どうしても階級を増やすなら現代ではライトヘビー級とクルーザー級やクルーザー級とヘビー級の間に新設階級を作る方が理にかなっている」。

べナビデスが25ポンド差を乗り越えることについて、村田諒太は「複数階級制覇って言い方は好きじゃない。何ポンド越えたのか、そこを見ないと、25ポンドなんて軽量級を全部飲み込むくらいの幅」という意見も正論です。

8階級制覇のマニー・パッキャオや4階級制覇の井岡一翔、井上尚弥、田中恒成と、3階級制覇のべナビデス、2階級制覇のオレクサンデル・ウシクは同列に考えるべきではありません。

そんな常識の尺度から考えると、115ポンド(ジュニアバンタム級)を主戦場にするバムがこのまま井上に挑戦するとして、7ポンド差。118ポンド(バンタム級)に上げてからなら4ポンド差。

認定団体が認定料を稼ぎたいがためだけに水増しされた階級を無視すると、そもそもバンタム(118ポンド)の上は、ジュニアフェザー級(122ポンド)なんてありませんから、8ポンド先のフェザー級(126ポンド)でした。

バムのステップはファイティング原田やパッキャオら超エリートボクサーしか成功したことがないとはいえ、オリジナル8の時代の複数階級制覇なら当たり前すぎる体重幅に過ぎないのです。

両者の体格を比較しても、井上(身長165㎝/リーチ171㎝)、バム(163㎝/170㎝)とほとんど差はなく、何よりもバムがこれまで階級間を跳梁跋扈してきたキャリアを振り返ると、この挑戦に大きな驚きはありません。

バムの最初のタイトルは、2022年2月にジュニアフライ級(108ポンド)の地域タイトルマッチ出場予定が、メインイベントのWBCジュニアバンタム級戦「カルロス・クアドラスvsシーサケット・ソールンビサイ」でシーサケットが新型コロナ感染のため渡米できず、急遽代役に抜擢されたもの。

このとき108ポンドで出場予定だったバムは115ポンド、7ポンド重い階級で世界基準の相手に完勝したのでした。そして、115ポンドでタイトル戦を2試合こなした2023年4月にフライ級(112ポンド)に落としてWBOタイトルをピックアップ、同年12月にIBFフライ級王者サニー・エドワーズを倒すと、115ポンドに舞い戻ってファン・フランシスコ・エストラーダ、プメレレ・カフ、フェルナンド・マルチネスをKOで片付けています。

バムのジュニアフェザー級アタックへの問題は、ウエイトではありません。問題は「井上尚弥が相手」だという1点だけに絞り込まれます。

クアドラス、シーサケット、エストラーダ…バムがマッチルームにプロテクトされた「元PFPファイターの完全劣化版に勝っただけロートル・ハンター」と揶揄するファンはもはや一人もいません。

ほぼ全盛期にあったエドワーズ、カフ、マルチネスを予想を超える実力差を見せつけて圧倒、バルガスに完勝すると、今年はまだ1試合ですが、Fighter Of The Yearにもノミネートされるでしょう。

“Of course [I would fight Rodriguez], but it is all about the timing” 

中谷戦のあと、完全Aサイドの井上はリング誌のインタビューに応じて「もちろん、ロドリゲスとやりたいが、全ては(条件交渉などを踏まえた)タイミング」と答えています。


“I think me against Inoue would definitely be one of the biggest fights in the lower weight divisions … I love going to Japan anyways, so if I were to fight out there for the first time, that would be great.”

バムは「軽量級が提供できる最も大きな試合の一つになるのは間違いない。日本に行くのは大好きなんだ。もし、日本で初めての試合ができるとしたら、これはもう最高だね」。



33歳の井上にとって、このキャリア最大の大魚を逃すのは損失です。そして、自身だけでなくバムの26歳という年齢まで考えると、その時期は早い方が良いに決まっています。