大阪に行く前の3月末にオンラインでご挨拶したとき、ラジオ体操の歌の替え歌で「あーたーらしーボスが来る…」と合唱してくれました。先週の酒席で「あれ、面白くなかったですか?」「なんかあんまりちゃんと笑ってくれてなかったように見えて」と聞かれました。

確かによく考えてくれて面白い替え歌に仕上げてくれたはずですが、「ちゃんと笑ってなかった」ことには心当たりがあります。ちゃんと耳に入ってこなかったのは、私はこのラジオ体操の歌をまともに聴けない体になってしまったからです。

もっとはるかに強烈な替え歌を、聞かされたことがあったからです。その歌詞がトラウマになって、もうこのメロディを聞くと、その歌詞が、全く笑えないその歌詞が、耳にこだまする体にされてしまったのです。

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高校時代の悪友、35年くらい前にその晴田さやかに武庫川渓谷崖っぷち廃線ウォーク(当時は立ち入り禁止だったはずだが、あんな不整備の崖っぷち誰も近づかないから「立ち入り禁止」「落石注意」なんて看板もなかったはず…)に誘い込まれました。

高校時代の彼女はちょっと反抗的な雰囲気があって、肝の据わった感じも醸し出していましたが、そのときは専門学校生、私たちは18か19。初めて見る私服姿の晴田の可愛さに女子との交際経験がマーベラスなまでに乏しい私は見惚れてしまいました。

360度、人工物は足元の配線跡だけ。街の雑踏も全く聞こえない世界。切り立った屏風岩が豪快な景観の武庫川渓谷の清流に降りて水割りを作って、スルメイカやエイヒレやらを焼いて、ちょっと贅沢なひとときになるはずだったのですが…。

そこで彼女の身の上話から、あのラジオ体操の替え歌を聞かされてしまったのです。もはやこの曲をCMで聞いても、先日の歓迎会でみんなが「あーたーらしいボスが来た、希望のボスだ」と歌ってくれても、もうまともに耳に入らないのです。

彼女は私を好きになってくれた理由を「学校に行かなくても、勉強できなくても、先生からボロカス言われてもいいんだって行動だけで見せてくれた。すごくかっこよかった。〝こっち側〟の人やって確信した。ずっと男の人が大嫌いやったけど、こんな人もいるんだって嬉しかった」と、前段の「勉強できない」「先生からボロカス」「こっち側」がひっかかったものの、そんな嬉しいことを言ってくれましたが…。

そして、中学生の頃に母親が離婚して貧乏になったけど、新しい父親が来て、そのことを弟は「父親とか要らない」と拒否したけど、彼女は「来てくれた方がええねん。お母さんが選んだ人やから間違いない」って励まして、替え歌を作って励ましたそうです。

🎵あーたーらしーいパパが来た 希望のパパだ!

…「新しい父親」と聞いたときに、私には嫌な予感しかしなかったと思います。阪神あるある、です。

あ、あくまで個人の感想です。阪神にも阪急沿線をはじめ倫理観と民度の高いエリアはいっぱいあります。


しかし。ーーー晴田の新しいパパは母親を働かせて、自分はギャンブルに出かけて働かない。生活はますます困窮する。

それどころか、新しいパパは母親や弟にひどい暴力を振るうようになったそうです。

しかし、晴田への暴力は少なく、その代わりに「さやか、可愛いなあ。学校でもてるやろ?でも、ボーイフレンドとか作ったらあかんぞ」と、いやらしい下品な目で見られたり、体を触ろうとされたり、風呂場を覗かれることもあって、身の危険を感じて怖くて仕方がなくなります。

本能的に母親か弟と一緒にいるようにしていましたが、いつかこの危険が決壊してしまう、そのときは自分でどうにかしなければならないと考えた晴田は替え歌の続きを考え、レジスタンスの闘士のように、強い気持ちで弟と囁き歌いながら、そのときに備えます。

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🎵あたらしいパパが来た 希望のパパだ

 それなのに毎日が地獄 パパが暴力振るう

 子どもだけれど 戦うしかない 
      
 我慢の限界 ナメるなよ

 それ いち、に、さん!


ある夜、母親が出かけて、新しいパパが弟を蹴って3時間くらい外にいろと家を追い出しました。

新しいパパが「さやか、ちょっとこっち来い」と、まだ中学3年生の晴田は布団の上に引きずり込まれて「おまえだけ殴ったりせえへんかったん、お前が可愛いいからや。これからも殴られたくないやろ?な?」とすごまれ、「こっち来い、言う通りにゆっくり舐めてみろ。噛んだりしたら顔面変形するくらい殴るからな」と、髪の毛をつかまれ、見たくもない汚いモノを目の前に見せられたそうです。

「ゆうすけーーッ!」。晴田は大声で弟の名前を叫びましたが、新しいパパは「弟は蹴り出しておらんやろが。戻って来ても、あいつにお前を助けられるか!」と、髪の毛を掴まれたまま顔を上げられビンタされました。

晴田は必死に頭を振り回して、髪の毛をつかまれた手をふりほどき、玄関に走りますが、新しいパパは「せっかく可愛がってやろうゆうのに、もうお前に優しくせぇへんからな!逃げれる思うなよ、このガキ!」と、余裕かましてゆっくり追いかけて来ます。

家を出たフリをしていた弟から「お姉ちゃん!」と木刀を受け取ると、晴田は振り向いて「出て行け。この家から出て行け」と木刀の切先を新しいパパに向けました。

晴田は「剣道してたとか一切関係なくって、もう自分がどうやって木刀振ってるのかわからんくらい無茶苦茶に振り回して、振り落としたってん」と、号泣しながら新しいパパを血だるまにしたそうです。

新しいパパが「わかったからやめてくれ!出ていくから、立てない、骨が折れてる、死ぬ!」と呻いても、「這って出て行け!2度と来るな!もし来たら今度は木刀ちゃうからな!」と泣き叫んで叩き出したそうです。

晴田は廃線跡では切断されていたレールとはいえ、自分の身長くらいの鉄を持ち上げて振ろうとしたほど、見かけとは全く違う力持ち。あんな怪力女に木刀でメッタ打ちにされたらたまったもんじゃありません。

スルメイカをしゃぶりながら、サントリーローヤルをクッと飲んで「この歌、2番もあるけど」と笑う晴田は可愛くて、そんな凶暴な正義を貫く女性には見えませんでしたが、私は「2番はもういいです」と言うしかありませんでした…。

まあ、本当は「2番も歌ってみ。一緒に3番も作ったるから」と答えて、晴田の美声…と言いたいところですが、彼女は音痴でした…を聞いたのでした。

なんか暗い話になって申し訳ありませんが、私は晴田の勇気と「こっち側」や「ラジオ体操の替え歌」、その他でも会話の端々で繰り出す言葉のセンスに「すげーなコイツ」とあらためて感動していました。


何重にもオブラートに包みまくったつもりでも、けっこう重いな…。






結局、晴田がぜーーんぶ、悪いねん。俺の「ラジオ体操の歌」を返せ!