「プロレスラーは本当は強いんです!」。

桜庭和志が雄叫びを上げたのは、1997年12月21日、横浜アリーナのリング上でした。

「プロレスラーは本当は強いんです」。本当に強かったら、こんな言葉を叫びません。

そして、多くの人が「プロレスラーは本当は弱い」と思い始めていたから、彼は叫んだのです。

翌1998年10月11日、東京ドームでアレクサンダー大塚が総合格闘技デビュー戦にもかかわらず、マルコ・ファスをハーフガードポジション上からのパウンドで激しく殴打、流血させて戦意喪失に追い込み、TKOで勝利します。

桜庭が雄叫びを上げた1997年から4年、2001年12月31日のさいたまスーパーアリーナ。

安田忠夫はK1のトップファイター、ジェロム・レバンナに惨敗するはずでした。

ギャンブル好きで、自堕落な借金王。人生いつも土俵際。

そのせいで家族は崩壊同然。

それでも、娘さんはリングサイドに駆けつけ、父親が奇跡を起こすんじゃないかと、日本中の誰も思っていないことを願っていました。



もっと残酷な展開になると予想されていましたが、安田の突貫にバンナが戸惑い、グラウンドでの膠着が長い試合になります。

2ラウンド2分10秒。グラウンドでもつれる中で、安田は右腕をバンナの喉にのめり込ませます。

ギロチンチョーク。一瞬でした。バンナはたまらずタップ。

勝利に沸くリング上で、安田は娘を肩車して場内を一周。ダメ親父が見せた乾坤一擲のギロチンチョークと肩車。感動的なシーンでした。

〝戦う人生劇場〟の真骨頂。

安田忠夫が2月8日、死んだそうです。62歳だったそうです。

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あのさいたまスーパーアリーナから25年。

安田と家族は穏やかなときを過ごせたのかどうか、私は知りません。

しかし、安田忠夫というプロレスラーがあの日、リアルファイトで閃光の輝きを放ったことを格闘技ファンは死ぬまで忘れないでしょう。