彼らがそこにしがみつく理由が、忘れ物を取り戻すためだというのなら、まったく腑に落ちません。




日本サッカー史上最高選手の1人、カズはW杯に出られませんでした。

本番直前で代表メンバーから外された彼は「納得できない」と声を絞り出したあとに「納得しちゃいけない」と言い直しました。

あの言葉が「(アスリートとして)納得しちゃいけない」という意味であるならば、「(アスリートでなければ、自分を切ってチームを再構築するのは)納得できる」と言い換えることができます。

あれから27年も経ちました。

その忘れ物が大金が詰め込まれた財布であったとしても、見つかるかもしれません。

しかし、カズが取り戻そうとしているのは、そんなつまらないものではありません。




「父親との約束」にこだわった辰吉丈一郎が、その父親に渡すべきベルトを失ってから、もう26年も経ちます。

カズの27年よりは1年もマシです。

しかし。55歳の彼にJBCのライセンスが交付されるわけもなく、2009年にタイのリングに上がってから26年も公式戦から離れているのです。

もちろん、プロボクシングは無茶苦茶な世界ですから、還暦を迎えた辰吉にWBCあたりがグランドファーザー・名誉ベルトを贈呈するかもしれません…しかし、辰吉はそんな不名誉なベルトを父親に捧げるなんて無粋はしないでしょう。

辰吉丈一郎もまた、永遠に成仏できない亡霊です。




葛西紀明の忘れ物もまた、自分自身です。

1998年の長野、どこまでも熱く燃え上がった雪山の丘で、そこにいるはずの葛西はいませんでした。

あれから28年、葛西は53歳になりました。

ミラノ・コルティナダンペッツォ オリンピックで金メダルをつかみ獲ることができたなら、葛西はゲレンデから降りるのか?

それとも、彼の忘れ物は金メダルとはまた別の、もっと厄介なものなのか?

競技レベルの進化と、加齢による劣化。どちらも止めることのできない非情な時計です。




山本美優はまだ51歳。カズよりも辰吉よりも葛西よりも若い…とはいえ…。

1991年、史上最年少の17歳で世界選手権を制したが、女子レスリングは五輪の正式種目ではありませんでした。

2004年アテネ五輪で正式種目として採用されたが、国内予選で敗れてしまいます。カナダ国籍を取得、2016年のリオデジャネイロ五輪を目指すも、市民権の問題などから挑戦も叶いませんでした。

山本は現役復帰と結婚と離婚を繰り返し、総合格闘技の世界へ。

女子レスリングが五輪の正式種目になるのが、あと10年早ければ…。その舞台でメダルを掲げていたなら、彼女はスッキリ引退していたのでしょうか?

あるいは、愛する弟がそばにいてくれたなら。

いや、そもそも彼女に誰かの代わりに戦うとか、忘れ物を取りに戻るなんて考えは一切ないのかもしれません。


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それにしても、どこまでも往生際の悪い人たちというのは、どこにでもいるものです。彼らがかつての輝きを取り戻す瞬間なんて、絶対に訪れることはありません。絶対に、です。

だというのに、彼らは一体何を探しているのでしょうか?

彼らには、もっと楽な生き方がいくらでもあるはずです。それなのに、どうして、わざわざ…。