男の生き方が無限にあるように、女の生き方も無限にあります。

いや、同じ無限でも男よりも女の方が遥かに深奥があるように思えてしまうのは、私だけでしょうか?

女が見せる日本刀のように鋭い思い切りの良さと、忖度無縁の外連味の無さ。女の振る舞いにはときとして、男が晒す逡巡や怯懦がほんのひとカケラも認められないことがあります。

青木恵子もまた、そんな切れ味抜群の日本刀のように生きてきました。青木恵子。旧姓、中野恵子といってもピンとくる人は少数でしょう。

実は青木恵子には、中野恵子の他に三つ目の名前があります。

おそらく、そちらの名前なら誰もが聞いたことがあるはずです。


ブル中野。


世界の女子プロレス史にその名を刻む、威風堂々のレジェンドです。


彼女が引退を決めたのは米国での試合中に左膝の靱帯を断裂、大技に欠かせないコーナーポストに登る動作がわずかに遅れてしまうようになったからでした。

ほんのわずかでしたが「その一拍のせいで、よく見ているお客さんは沸かない」と、稀代のヒールは失意のまま引退試合も行わず、1997年に三本ロープのリングをひっそりと去りました。

彼女のプロ魂を見て、ハッとしたことがあったのは、これは男では出来ないと、男の私が観念したからかもしれません。

「一晩で焼酎の瓶を3本は空けた」「アナボリックステロイドを使用して身体を大きくした」…プロレスラーの鏡です。もちろん、重度の肝硬変に悶え、副作用に苦しむ姿など微塵も見せずに狂気の悪役を演じ切りました。

異論が多いかもしれませんが、私はプロレスラーは大酒を飲み、筋肉増強剤を、使うべきだと考えます。常人が驚くほど酒をあおり、不自然なまでに肉体を膨らませなければならないのです。

彼女は、プロレスラーとしてやるべきことを全て完遂して見せたのです。

ブル中野がHall of Famerになるのは必然でした。

極悪ヒールの顔面ペイントを洗い流したとき、彼女は一人の美しい女性に戻ります。これほどの必然も、またありえません。



ノーベル賞にアカデミー賞、グラミー賞…授賞式と名の付くものは世の中に掃いて捨てるほど溢れています。

そして、そこでのスピーチはどれも通り一辺倒で、えてしてつまらないものになりがちです。

さて。日本時間の4月6日、ペンシルバニア州フィラデルフィアのウェルズファーゴセンターで開催されたWWEの殿堂入り式典。

顔面ペイントを施した青木恵子、いやさブル中野が壇上に上がると浴びせられたのは、現役時代のブーイングではなく喝采でした。

稀代の悪役、ブル中野が一度も下を向くことなく英語でのスピーチを終えたとき、喝采は最高潮に達しました。

ヒールの仮面を脱いでブル中野は青木恵子に戻りました。

現役さながらに威嚇のペイントで顔面を彩って見せても、もう誰も怖がりません。それどころか、会場はその可憐さに息をのんでいました。


「お久しぶりです。この賞を受け取れることを本当に嬉しく思います。ずっとずっと待っていました。ここWWEで1994年、最高の経験をしました。30年前です。私は26歳でした。

WWEでの生活は本当に大変で、プロレス以外何も知らなかった私は辛い経験をしました。1カ月で28試合、本当にタフな期間を過ごしました。

何よりも大変だったのは、会場への移動です。なぜなら、私は英語が喋れませんでした。レンタカーをして、そして飛行機を乗り継ぎ会場に行く、ホテルも自分で探して携帯もない時代です。

携帯電話なんてありません。私たちは公衆電話を探しました。とてもとても大変な日々でしたが、たくさんの友人に助けられました。みなさんの手助けもあり、遠征を続けることができました。

とても楽しかったのは日々の試合、プロレスは世界共通です。英語が喋れなくとも、同じ空間で試合をしてリングに入って過ごす、そこで私は生きていると感じました。

それは夢のようでした。私の魂を込めて、心をかけて闘いました。ここで感謝したいと思います…もちろんメドューサに。

一緒に闘ってくださったこと、心の底から感謝しています。本当にどうもありがとう。

そして、ルナ・バション、が私をサポートしてくれました。今もたくさんのスーパースターと試合ができたことを感謝しています。WWE、この素晴らしい機会を与えてくださってありがとうございました。そのチャンスを無駄にしないよう努力しました。

何よりもWWEユニバースのみなさんありがとう。ブル中野を受け入れてくれて、私の心を貫きました。

私たちは永遠にプロレスを通してつながっています。もし何か生まれ変わるようなことがあれば、またブル中野として生まれ変わりたいです。そして、WWEのリングに戻ってきます。みなさんとまた、お目にかかれるのを楽しみにしています。この賞は私の宝物です。どうもありがとうございます」


ジョークも交えた柔らかいニュアンスが日本語にしてしまうとしんみりしてなかなか伝わりませんが、実際のスピーチを聞いてみて下さい。⬇︎⬇︎⬇︎


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https://www.youtube.com/watch?v=I31PiIzQpg8&t=51s



"If there is such a thing as being reborn, I want to be professional wrestler Bull Nakano again,"

WWE名誉の殿堂入り、おめでとうございます。


https://www.espn.com/wwe/story/_/id/39662389/bull-nakano-inducted-wwe-hall-fame