MLBで打球の速度や角度、飛距離などの詳細なデータが瞬時に視聴者に届けられているように、メジャースポーツではデータ会社が精密なデータを提供することが当たり前になっています。

ボクシングでは、1985年に行われたWBA世界タイトルマッチ(リビングストン・ブランブルvsレイ・マンシーニ)を放送したHBOがBoxRec(当時はFightStat)を導入したのが始まりです。

あれから約40年、残念ながら米国ボクシング市場は衰退と縮小を余儀なくされ、データシステムもほとんど進化していません。

このブログでもCompuBoxのデータを紹介するときは「必ずしも試合の実態を反映しない」という文言とセットになってしまっています。

もちろん、野球ではフェアゾーンに大飛球を放てばホームランですが、ボクシングの場合は意外なほど小さなパンチが衝撃的なKO劇を生み出すことがあります。

井上尚弥がファン・カルロス・パヤノを背中からカンバスに落下させた、これ以上ない角度とタイミングのジャブクロスはその典型です。

さて、そのジャブのお話。

井上は、ノニト・ドネアとの第2戦で見せたように、ジャブはタイミングを取るだけで実際には打たずに右強打を炸裂させる、〝いきなりの右〟に見えるワンツーも使いこなしますが、井上のジャブの主な役割は、右の強打への導火線です。

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井上のジャブの的中率27%と、1ラウンド平均ヒット数9発は世界トップレベル。

同じ強打者のゲンナジー・ゴロフキンが的中率30%、1ラウンド平均のヒット数9.9発で1位で、数字的には酷似していますが、GGGとモンスターは同じ属性のパンチャーではありません。

GGGはリードパンチを距離を測ったり、相手の侵入を阻む触覚として使うこともあるジャバーの一面もありますが、井上はジャバーではありません。

ジャバーのジャブは距離を測り、保ち、相手のリズムを分断する触覚としての役割をもち、必ずしもヒットしたり、後ろ手の強打に繋げる目的ではなく、意味のある捨てパンチも絶妙にブレンドされているのです。

その意味で、生粋のジャバーと呼べるのが寺地拳四朗です。

矢吹正道戦でまさかの敗北を喫したことをきっかけに、ファイターとしての性格を色濃くしているベビーフェイス・アサシンですが、基本スタイルがジャバーであることは微塵も変わっていません。

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寺地は1ラウンド平均で40発近いジャブを放って1位ですが、ヒット数はわずか6.7発。的中率はわずか、16.9%に過ぎません。

しかし、これをもって「寺地はリードの精度が低い」と考えるのが大間違いなのは誰にでもわかるでしょう。

これほど低い精度にも関わらず、メディアもファンも「世界最高のジャバー」と認めていることこそが、寺地拳四朗の真髄です。

主題からズレますが、ゴロフキンや井上の強烈な左も「前の手」のパンチ、ジャブとしてカウントしているCompuBoxの数字を鵜呑みにするのは禁物で、「もうちょっと精度を上げてくれ〜!」と叫びたくなります。

まあ、考えてみるとジャブの定義も難しい。

一般的には手首を返さずに打てばジャブ、返せばストレートなんですが…手首を返してからさらに捻るようにして打ち下ろす山中慎介の〝神の左〟のようなパンチも新たにカテゴライズして欲しくなります。

井上のジャブクロス、あのフィニッシュの右もきっちり手首を返していないようにも見えますから、あれは左ジャブ→右ジャブのワンツーだったのかもしれません。