目の前の試合を飛び越えて、先の話をする。

日本では「目の前の試合に集中しなと足元をすくわれる」と、言われることが多い行為ですが 、契約社会が成熟した米国では普通に取り沙汰されています。

日本でも定着した「複数年契約」も、日本的な考えに反する性格を帯びています。

いずれにしても、アスリート本人は「先の試合のことは全く考えていない」「この1年が勝負」 という覚悟で取り組まなければなりません。

もちろん、そのスポーツを代表する世界的なスターとなると周囲が放っておいてくれないのが常ですが「(今オフに確実視されている超大型契約について聞かれて)何も決まっていないし、何もお知らせすることはない。エンゼルスの一員としてポストシーズン進出に全力を尽くすだけ」(大谷翔平)という姿勢こそが、日本的美徳です

20210225

さて、カネロ・アルバレスです。

今回の対戦相手ジョン・ライダーは「世界王者になった経験がない」という点ではアブニ・イブディリム(2021年)以来、「5敗も喫している」という点ではシェーン・モズリー(2012年)以来。しかも、5敗のうち4人までがカネロの拳によって惨敗している相手。

スポーツに三段論法は通用しませんが、そのサンプルを4つも並べられると〝状況証拠〟を超えた説得力を帯びてきます。

その一方で、今回はいつも以上に「先の話」が噴出。もちろん、その相手がプロキャリアで何も出来ずに完敗したドミトリー・ビボルですから〝いつも以上〟になるのも致し方ないのですが…。

さらに、ビボルとの再戦がライトヘビー級になるのか、それともスーパーミドル級になるのかも注目されています。

ビボル陣営がスーパーミドル級でのUndisputed Championshipを要求している一方で、カネロは初戦と同じライトヘビー級にこだわっているのです。

これは、両者とも「言い訳の効かない決着」を望んでいるということです。

ビボルにとってはカネロが無敵を誇るスーパーミドル級で勝つことは、全てのベルトを手に入れること以上の価値があります。

逆に、カネロにとっては雪辱を果たしても「ビボルをスーパーミドルに落とさせて弱らせたから」と非難されるのは目に見えています。

とはいえ、今までキャッチウェイトやら、当日リバウンド制限を散々突きつけてきたご当人が、何を今更という話です。今回もAサイドなんだから、いつも通りに好きなように舞台を整えれば良いのに。

さらに、昨日の会見でビボル戦の敗北を「左拳を負傷していたから」と言い訳、ライダーに対して「もし負けたら私はボクサーとして終わってるということ、引退する」という言葉も、特に日本のボクシングファンを幻滅させます。


それでも、世界王者になる前からメガファイトのAサイドに祭り上げられながら、体重超過や試合を途中で投げ出すなど自分への甘さを一切見せていない32歳のメキシカンは、立派だと思います。

チャベスJr.みたいになるのが当たり前とは言いませんが、技術的に未熟な時代からあれほどチヤホヤされながら、自分を見失わずにボクシングに向き合っている姿勢は十分評価すべきでしょう。

ドーピング問題は許されませんが、不可解な判定はもちろん、キャッチウェイトやリバウンド制限などのAサイドの特権を振り回したこともカネロを勝たせたい周囲の思惑が強かったからで、カネロがジャッジを買収したり、対戦相手との交渉を主導したわけではありません。

特に、判定については日本では亀田興毅のケースが典型ですが、怒りや非難の矛先を間違った方向、つまり選手に突きつけるのは明らかに間違いです。

THE KING is COMING HOME。ボクシング史上屈指の凱旋試合のゴングが鳴るまで、あと5時間。

カネロの勝利が1/20(1.05倍)、ライダー8/1(9倍)まで開いたオッズの通りの試合になるのでしょうか?

それとも、ちょっとしたさざ波くらいは起きるのでしょうか?

あるいは…?