井上尚弥はマニー・パッキャオになれない。

それは能力的な問題ではなく、地政学的な問題です。

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ボクシングの神様は2人の前に奇しくも同じジュニアフェザー級の〝虎穴〟に入る切符を用意しました。

エマヌエル・ナバレッテから井上陣営に正式オファーがあったのかどうかは定かではありません。

しかし、何度も対戦を呼びかけるナバレッテに「縁がなかった」と自ら口にしたモンスターを見れば、正式オファーがあり、断ったのは井上の方だったと考えるのが自然です。

パッキャオに舞い込んだオファーは、遥かに性急で遥かに危険な相手からでした。10日後のラスベガスMGMグランドガーデンアリーナ。IBFジュニアフェザー級王者リーロ・レジャバへの挑戦。

井上は神様が渡そうといた切符を受け取らず、パッキャオは神様の話が終わる前に切符をその手から奪い取りました。

切符に刻印されていた行き先は、米国のスターダムの麓まで連れて行ってくれる切符でした。

井上は自分のキャリアの中で「(評価の高い)メキシカンはやっぱり欲しいですね」と口にしますが、彼にとって1階級上のナバレッテは「縁のない相手」にしか見えなかったのです。

引っ込み思案では、評価の高いメキシカンとは永遠に出会うことなく、キャリアを閉じるだけです。

井上とは対照的にパッキャオは、オスカー・デラホーヤのセミファイナル、MGMグランドガーデンアリーナと聞くと、ファイトマネーも確認せずに二つ返事で引き受けました。

もちろん、井上が情けないチキンで、パッキャオが勇気ある英雄の卵だったと考えるのは間違いです。

井上は不人気階級で行儀良くコソコソしている、パッキャオは人気階級に土足で上がり込んで派手に活躍している、というのは表面的なことです。

全ては地政学の問題なのですから。

井上がパッキャオと同じ立場ならナバレッテのオファーを快諾していたのは間違いありません。

パッキャオが井上と同じように、米国よりも自国の方が比較するのが馬鹿らしいほど大きな報酬と注目を浴びることが出来るなら、10日前に階級最強王者から舞い込んだオファーに飛びつく必要などありませんでした。

井上が怯懦のチキンだとか、パッキャオが勇気凛々の英雄だとか、そんな話ではないのです。

全ては地政学の問題なのですから。

そう。地政学の問題ですから、マニー・パッキャオはある日突然現れたわけではありません。

パッキャオは、大谷翔平のような突然変異でもユニコーンでもないのです。


その予兆、予震は何度も世界を揺るがして来たのです。

最初のオーメンはパンチョ・ビラでした。

パックマンはパッキャオだけではありません。

フィリピンのファイターは間断なくパックマンをアメリカに送り続けてきたのです。


パンチョ・ビラからマニー・パッキャオまで。

米国に上陸したフィリピン・タイフーンの系譜を紐解き、不人気階級に敷かれた石橋鉄板ロードしか歩めない井上尚弥の不幸を呪う新章の始まりです。