1980年10月20日。我らがキャッツキルのカス・ダマト軍団は、チケットを握って夕陽の中をドライブしていた。
といっても、それは現実に試合が行われるラスベガスのシーザースパレスじゃない。いくらなんでも、ニューヨークからベガスは遠すぎる!
私たちが目指していたのは、ニューヨーク郊外の映画館。そこで大きな試合がクローズド・サーキットで全米生中継されるのさ。
Thursday 2, October 1980

小さなバスの中は、私の他は大人ばっかりだったのに、みんな遠足旅行のようにはしゃいでいたよ。
みんなワクワクしてた。もちろん、私もワクワクしてた。
小さい頃の、飛び切り一番楽しかった思い出だ。
「残念だけどアリに勝ち目はない」とテディ・アトラスが吐き捨てると、ケビン・ルーニーは顔を真っ赤にして「アリだぞ?テディはリストン戦でもフォアマン戦でもアリに勝ち目はないと冷めて見てたんだろうな」と反論するのを、カスは微笑みながら聞いていた。
テディがダマトに、ケビンが私に、同じ質問を同時に投げかけてきた。
「カスはどう思う?アリがホームズに勝てると思うか?」。
「マイク、お前はどう思うんだい?」。
カスは「アリはこの試合で引退する。だからお前たちを連れて行くんだ」と、その質問に答えなかった。
私も「アリを応援する」と、やっぱり質問に答えなかった。
しかし、試合は誰の予想も裏切る、あまりにも一方的なものだった。見てしまったことを、後悔してしまうほどだった。
ランブル・イン・ザ・ジャングル(邦題:キンシャサの奇跡)も一方的に見えたけど、あの試合はアリが何かをやりそうな、そんな香りがビデオからでもそんな匂いを嗅ぐことができた。
でも…ホームズとの試合は、違った。
第11ラウンドの開始ゴングに、アリはストゥールから立てなかった。
信じられないんじゃない。それは、絶対に信じたくない光景だった。
アリの勝利を信じていたケビンはもちろん、勝ち目はないと言ってたくせにテディまで泣いているように見えた。
カスが私の肩を抱いてきた。そして、静かに囁いた。
「よく見ておけ」。
よく見てたよ、10ラウンドまで目を凝らして見続けてたよ。それに、「よく見ておけ」なんて言葉は試合が始まる前に行ってくれ…。
でも、カスが何を言いたいのかは、実はよくわかってたんだ。
まだ、カスのところに来て1年も経ってなかった。
お世話になることになった、その日にカスは「お前は世界ヘビー級チャンピオンになるんだ」と、未来の話をしてくれた。
それまで、生まれてこの方12年間、私に未来の話をしてくれる人なんて誰もいなかった。誰一人として。
家族ですら、だ。
いや、未来の話はいつも嫌になる程、聞いていた。
聞き飽きるほど、聞かされていた。
「誰かに殺されるか、誰かを殺して刑務所にぶち込まれるか、そのどちらかしかない」。
とにかく、殺すか殺されるか、終身刑か、そんなんじゃない「お前は何かになれる」なんて未来の話をしてくれたのは、カスが初めてだったんだ。
殺すか、殺されるか、終身刑になるか、そんなの、どう転んでも生まれてこなけりゃ良かったって話じゃないか。
そんな私にカスは。そうじゃない未来があると言ってくれたんだ。
それが何を意味しているのか、私みたいな環境で生まれて育った人間じゃないと、絶対にわからないだろう。
だから、あの映画館でカスが何を言いたかったのか、私でもよくわかったのさ。
1年前に初めて会ったカスは「世界ヘビー級チャンピオンになれ」と言った。
そして、1年後のこの日、大きなスクリーンの前で、世界ヘビー級チャンピオンが誰なのかを、はっきり教えてくれたんだ。
これで、どんなバカでもわかるだろう?
カスは「ラリー・ホームズを倒せ」と、13歳の私に言ったのさ。
といっても、それは現実に試合が行われるラスベガスのシーザースパレスじゃない。いくらなんでも、ニューヨークからベガスは遠すぎる!
私たちが目指していたのは、ニューヨーク郊外の映画館。そこで大きな試合がクローズド・サーキットで全米生中継されるのさ。

Caesars Palace, Las Vegas, Nevada, USA
Heavy Contest, 15 Rounds
World Boxing Council World Heavy Title
referee:Richard Green
Larry Holmes vs Muhammad Ali

みんなワクワクしてた。もちろん、私もワクワクしてた。
小さい頃の、飛び切り一番楽しかった思い出だ。
「残念だけどアリに勝ち目はない」とテディ・アトラスが吐き捨てると、ケビン・ルーニーは顔を真っ赤にして「アリだぞ?テディはリストン戦でもフォアマン戦でもアリに勝ち目はないと冷めて見てたんだろうな」と反論するのを、カスは微笑みながら聞いていた。
テディがダマトに、ケビンが私に、同じ質問を同時に投げかけてきた。
「カスはどう思う?アリがホームズに勝てると思うか?」。
「マイク、お前はどう思うんだい?」。
カスは「アリはこの試合で引退する。だからお前たちを連れて行くんだ」と、その質問に答えなかった。
私も「アリを応援する」と、やっぱり質問に答えなかった。
しかし、試合は誰の予想も裏切る、あまりにも一方的なものだった。見てしまったことを、後悔してしまうほどだった。
ランブル・イン・ザ・ジャングル(邦題:キンシャサの奇跡)も一方的に見えたけど、あの試合はアリが何かをやりそうな、そんな香りがビデオからでもそんな匂いを嗅ぐことができた。
でも…ホームズとの試合は、違った。
第11ラウンドの開始ゴングに、アリはストゥールから立てなかった。
信じられないんじゃない。それは、絶対に信じたくない光景だった。
アリの勝利を信じていたケビンはもちろん、勝ち目はないと言ってたくせにテディまで泣いているように見えた。
カスが私の肩を抱いてきた。そして、静かに囁いた。
「よく見ておけ」。
よく見てたよ、10ラウンドまで目を凝らして見続けてたよ。それに、「よく見ておけ」なんて言葉は試合が始まる前に行ってくれ…。
でも、カスが何を言いたいのかは、実はよくわかってたんだ。
まだ、カスのところに来て1年も経ってなかった。
お世話になることになった、その日にカスは「お前は世界ヘビー級チャンピオンになるんだ」と、未来の話をしてくれた。
それまで、生まれてこの方12年間、私に未来の話をしてくれる人なんて誰もいなかった。誰一人として。
家族ですら、だ。
いや、未来の話はいつも嫌になる程、聞いていた。
聞き飽きるほど、聞かされていた。
「誰かに殺されるか、誰かを殺して刑務所にぶち込まれるか、そのどちらかしかない」。
とにかく、殺すか殺されるか、終身刑か、そんなんじゃない「お前は何かになれる」なんて未来の話をしてくれたのは、カスが初めてだったんだ。
殺すか、殺されるか、終身刑になるか、そんなの、どう転んでも生まれてこなけりゃ良かったって話じゃないか。
そんな私にカスは。そうじゃない未来があると言ってくれたんだ。
それが何を意味しているのか、私みたいな環境で生まれて育った人間じゃないと、絶対にわからないだろう。
だから、あの映画館でカスが何を言いたかったのか、私でもよくわかったのさ。
1年前に初めて会ったカスは「世界ヘビー級チャンピオンになれ」と言った。
そして、1年後のこの日、大きなスクリーンの前で、世界ヘビー級チャンピオンが誰なのかを、はっきり教えてくれたんだ。
これで、どんなバカでもわかるだろう?
カスは「ラリー・ホームズを倒せ」と、13歳の私に言ったのさ。


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