ボクシング界でいうシュガー・レイ・ロビンソンのような存在が、陸上競技界にも存在します。
ジェシー・オーエンス。
1935年5月25日、わずか45分の間に5つの世界記録と1つの世界タイ記録を樹立し、世界にその名を轟かせました。
このうち、走幅跳で記録した8m13の記録はその後25年間も世界記録のまま。
昨年の東京2020の走り幅跳び優勝記録が8m41㎝、6位入賞の橋岡優輝が8m10㎝でしたから、約90年もの歳月を経た現代でもオーエンスは世界のトップジャンパーとして通用していたことは疑う余地がありません。
そして、オーエンスの時代が粗末なスパイクに、反発が弱いアンツーカーや土のサーフェイスだったことを考えると、オーエンスが現代のスパイクを履いて、全天候のサーフェイスで跳躍すると一体何が起きていたのか、想像するとワクワクしてきます。
あらゆる記録競技がそうでからように、従来の世界記録を意識するアスリートにはバイアスがかかります。
ヘルシンキ1952で史上唯一の長距離三冠(5000・10000・マラソン)で金メダルを獲得したエミール・ザトペックのマラソンのベスト記録は2時間23分4秒。
〝公務員ランナー〟川内優輝(2時間7分27秒)とは勝負にならないのはもちろん、女子日本記録の野口みずき(2時間19分12秒)にさえ、1㎞以上差をつけられるほど遅いタイムです。
これは「時代」が最大の理由ではありません。
ザトペックの5000mと10000mのベストは、13分57秒と28分54秒。川内は13分58秒、29分02秒。野口は15分30秒、31分21秒。
トラックでは、スパイクもサーフェイスも遥かに粗末なザトペックが一番速いのです。
どう考えてもザトペックは2時間10分前後で走る実力があったはずです。
しかし、チェコスロバキアの走神はもちろん、当時の世界でも、トラックと比べて開拓の遅れていたマラソンにサブテンなんて概念など影も形もありませんでした。
過去のグレートと現代のトップ選手を比較する場合、時代の傑出度だけでなく、ギアやサーフェイスなどの物理的な環境改善と、心理的限界の事情を勘案しなければなりません。

ギアについては、このブログでもカーボンプレートを2枚内臓した厚底シューズをはじめ、水泳のレーザーレーサー(現在は禁止)やスラップスケートなど、従来と比べて明らかに有利となるギアを取り上げてきました。
厚底、レーザーレーサー、スラップスケートは、ほぼ全ての選手が新ギアに切り替え、それによって従来のメカニクス、フォームも特殊なギアに適応したものになりました。
彼らは特別なギアのメカニクス、フォームに落とし込められたのです。
オーエンスと同じ環境、粗末なスパイクにアンツーカーで10秒前半の記録を持つランナーを走らせたところ、何度トライさせても11秒以上かかったという実験結果があります。
グラスファイバーのポールに馴化したジャンバーは、竹ポールの扱いに苦労し、竹に慣れたかつてのジャンパーはグラスファイバーにより簡単に適応するというのもこの競技の過渡期の状況と、その後の実験からほぼ実証されています。
現代の恵まれた環境で硬直したアスリートが、過去の過酷な環境に放り込まれると順応するのに時間と労力がかかる一方で、過去のグレートが現代のギアを使いこなすのは容易いと考えられます。
これは、現代のアスリートの方が、その競技に精力を注ぐ度合いが大きく、過去の選手の方が心身共に余裕がある、潜在力が高いということもあるでしょう。
もちろん、トレーニングや指導方法、スポーツ医学は進歩しています。
理屈上は、机の上では過去のアスリートは現代のアスリートに勝てるわけがありません。
ならば、オーエンスの跳躍はどう説明すれば良いのでしょうか?
あるいはロビンソンの動画を見て「今のウェルター級やミドル級では通用しない」と思う人がどれだけいるでしょうか?
トレーナーも苦笑するジョンリール・カシメロやマルコス・マイダナ、アントニオ・マルガリートのような原始的なスタイルのボクサーが、今でも通用しているのはどうしてなのか?
この議論はオーエンスやザトペック、ロビンソンという極端なサンプルを引っ張り出して、一般論にこじつけているだけかもしれません。

しかし…。
「今の選手?我々の頃では誰も通用しません」(落合博満)は大袈裟にしても、アスリートは本当に進化しているのでしょうか?
最も進化しているのは特殊なギアで、アスリートの肉体はそこまで進化していないのかもしれません。
まだまだ続きます。
ジェシー・オーエンス。
1935年5月25日、わずか45分の間に5つの世界記録と1つの世界タイ記録を樹立し、世界にその名を轟かせました。
このうち、走幅跳で記録した8m13の記録はその後25年間も世界記録のまま。
昨年の東京2020の走り幅跳び優勝記録が8m41㎝、6位入賞の橋岡優輝が8m10㎝でしたから、約90年もの歳月を経た現代でもオーエンスは世界のトップジャンパーとして通用していたことは疑う余地がありません。
そして、オーエンスの時代が粗末なスパイクに、反発が弱いアンツーカーや土のサーフェイスだったことを考えると、オーエンスが現代のスパイクを履いて、全天候のサーフェイスで跳躍すると一体何が起きていたのか、想像するとワクワクしてきます。
あらゆる記録競技がそうでからように、従来の世界記録を意識するアスリートにはバイアスがかかります。
ヘルシンキ1952で史上唯一の長距離三冠(5000・10000・マラソン)で金メダルを獲得したエミール・ザトペックのマラソンのベスト記録は2時間23分4秒。
〝公務員ランナー〟川内優輝(2時間7分27秒)とは勝負にならないのはもちろん、女子日本記録の野口みずき(2時間19分12秒)にさえ、1㎞以上差をつけられるほど遅いタイムです。
これは「時代」が最大の理由ではありません。
ザトペックの5000mと10000mのベストは、13分57秒と28分54秒。川内は13分58秒、29分02秒。野口は15分30秒、31分21秒。
トラックでは、スパイクもサーフェイスも遥かに粗末なザトペックが一番速いのです。
どう考えてもザトペックは2時間10分前後で走る実力があったはずです。
しかし、チェコスロバキアの走神はもちろん、当時の世界でも、トラックと比べて開拓の遅れていたマラソンにサブテンなんて概念など影も形もありませんでした。
過去のグレートと現代のトップ選手を比較する場合、時代の傑出度だけでなく、ギアやサーフェイスなどの物理的な環境改善と、心理的限界の事情を勘案しなければなりません。

ギアについては、このブログでもカーボンプレートを2枚内臓した厚底シューズをはじめ、水泳のレーザーレーサー(現在は禁止)やスラップスケートなど、従来と比べて明らかに有利となるギアを取り上げてきました。
厚底、レーザーレーサー、スラップスケートは、ほぼ全ての選手が新ギアに切り替え、それによって従来のメカニクス、フォームも特殊なギアに適応したものになりました。
彼らは特別なギアのメカニクス、フォームに落とし込められたのです。
オーエンスと同じ環境、粗末なスパイクにアンツーカーで10秒前半の記録を持つランナーを走らせたところ、何度トライさせても11秒以上かかったという実験結果があります。
グラスファイバーのポールに馴化したジャンバーは、竹ポールの扱いに苦労し、竹に慣れたかつてのジャンパーはグラスファイバーにより簡単に適応するというのもこの競技の過渡期の状況と、その後の実験からほぼ実証されています。
現代の恵まれた環境で硬直したアスリートが、過去の過酷な環境に放り込まれると順応するのに時間と労力がかかる一方で、過去のグレートが現代のギアを使いこなすのは容易いと考えられます。
これは、現代のアスリートの方が、その競技に精力を注ぐ度合いが大きく、過去の選手の方が心身共に余裕がある、潜在力が高いということもあるでしょう。
もちろん、トレーニングや指導方法、スポーツ医学は進歩しています。
理屈上は、机の上では過去のアスリートは現代のアスリートに勝てるわけがありません。
ならば、オーエンスの跳躍はどう説明すれば良いのでしょうか?
あるいはロビンソンの動画を見て「今のウェルター級やミドル級では通用しない」と思う人がどれだけいるでしょうか?
トレーナーも苦笑するジョンリール・カシメロやマルコス・マイダナ、アントニオ・マルガリートのような原始的なスタイルのボクサーが、今でも通用しているのはどうしてなのか?
この議論はオーエンスやザトペック、ロビンソンという極端なサンプルを引っ張り出して、一般論にこじつけているだけかもしれません。

しかし…。
「今の選手?我々の頃では誰も通用しません」(落合博満)は大袈裟にしても、アスリートは本当に進化しているのでしょうか?
最も進化しているのは特殊なギアで、アスリートの肉体はそこまで進化していないのかもしれません。
まだまだ続きます。
コメント
コメント一覧 (2)
それを使いこなす選手も凄いですけど。
Dジョンソンはパーシモで350y飛ばせるのか
ニクラウスは最新のギアならメジャーを
どれだけ勝てたのかは想像するだけで
面白いですよね。
フシ穴の眼
が
しました