当初は3月か4月に予定されていたジョンリール・カシメロとギレルモ・リゴンドー の一戦が8月14日に確定しました。

バンタム級の完全統一=Undisputed Champion を目指すIBF/WBA王者・井上尚弥にとってWBOのピースを持つフィリピン人は、いつか倒さなければならないターゲットです。

また、完全統一には不要のセカンド王者とはいえ、WBAのベルトを巻くキューバのジャッカルは未だにトップ戦線で戦う技術をキープしていると見られ、カシメロを倒して〝勝ち上がってくる〟なら難敵になりそうです。

カシメロもリゴンドー も井上をプロモートするトップランク&ESPNと敵対するプレミア・ボクシング・チャンピオンズ(PBC)&ショータイムですが、米国で人気のないバンタム級におけるプロモーターの壁は高くはありません。

言い方は悪いですが、バンタムは添え物階級、捨て駒階級です。
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とはいえ、トップランクの井上は、日本限定とはいえ軽量級ではあり得ない破格のビッグファイトを成立させるcash cow(カネのなる木)。

米国開催で〝憧れ料〟という名の放映権料をせしめ、日本のビッグファイトで甘い汁を啜り続ける腹づもりのトップランク側としては「危険な橋を渡るのはまだ先」と考えているかもしれません。

さらに、ボブ・アラムと犬猿の仲のアル・ヘイモンが「捨て駒階級」とはいえをアラムへの当て擦りで、有力選手を出し惜しみする可能性もあります。

「井上はトップランクで飼い殺し」と報道されるのは、ヘイモンにとってさぞかし気持ち良いでしょう。

ただ、井上の場合はトップランクはあくまで共同プロモートですからガチガチの契約とは考えられません。

生き馬の目を抜く世界で、その目を抜かれ始めたトップランクに長居する必要はありません。ベストはPBCかマッチルームへの移籍ですが…。

これはテレンス・クロフォードも全く同じ構図です。アラムは乾坤一擲の「ドバイでパッキャオ戦」をぶち上げていますが、これを実現出来ないとなるとクロフォードの不信感はもう誰にも抑えられないでしょう。

この3年ほどで、アラムはすでにパッキャオを失い、テオフィモ・ロペスごときがあからさまに不信感を示しています。

ボクシングのプロモーターと、サッカーのトップリーグや強豪国の監督には大きな共通点があります。

「スター選手をコントロール出来なければ、そこで終わり」です。「スター選手に舐められたらおしまい」の世界。

そこで、パッキャオはまだしもテオフィモにまで舐められたのは、語弊を恐れずに言うと〝ヤクザの世界〟に生きるプロモーターとしては致命的です。

もちろん、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズの方が事態は深刻で、ESPNという後ろ盾があるトップランクはまだ沈みきってはいませんが、その時代は間違いなく日没の時間を迎えています。

今年で90歳になるアラムはあと何年も指揮は執れませんから、トップランクの没落にブレーキはかからないでしょう。
 
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「ほんの一瞬だけ油断してしまった」。ゾラニ・テテは番狂わせを起こされた理由を問われ、アムナット・ルエンロンと全く同じ言い訳を口にしました。

さて、カシメロvsリゴンドー です。

40歳のキューバ人は現代リングで最も確実性の高いボクサーの1人です。どちらの意味でも番狂わせが起きない、機械的な冷血ボクサーです。

一方のカシメロは32歳。「誰に勝っても不思議ではないが、誰に負けても不思議ではない」という世界で最も不確実なファイター、その血液はいつも沸騰しています。

非常に面白いマッチメイクです。

どちらが勝ち上がっても、井上にとってキャリア最強の敵になります。

リゴンドー はもちろん、カシメロも何者であるのかが世界レベルでほぼ証明されたファイター。

リゴンドーは、井上が粉砕してきたオマール・ナルバエスやジェイミー・マクドネル、ファン・カルロス・パヤノ、ノニト・ドネアといった世界レベルでの現在位置が定まった選手たちと、同じ。そこが見えたボクサーです。

しかし、ドネアの全盛期にピリオドを打ち、ワシル・ロマチェンコとの〝階級差マッチ〟以外は負けていません。

もし、リゴンドー を失神KOするスペクタクルを見せつければ、世界中のボクシングマニアを刮目させる勝利になります。
 

そして、カシメロです。

世界戦6勝5KO2敗、3階級制覇してなお、破格のバンチャーであり続けるQuadro Alasは、32歳にして永遠の原石。

飛び級3階級制覇しながらバンチャーの性格をより強烈に印象づけているという井上との共通点を持ちながら、モンスターは教科書通りのPFPファイター、フィリピンの野獣はセオリー無視の喧嘩ファイターと全く対照的。

常識的に考えるなら、カシメロに勝ち目はありません。しかし、常識が通用しないのがカシメロです。

経験値も技術もボクシングIQも後天的な戦力は圧倒的に井上が上回っています。スピードとパワーといった先天的な要素が強い部分はほぼ互角。

そして…一瞬の閃きはカシメロです。

井上がパヤノに放ったジャブ・クロスは本人が「降りてきた」という美しいワンツーでしたが、あれは普段の練習から何度も反復してきた技でした。そして、パヤノの倒れ方から誰の目にもが試合が終わったとわかりました。

対して、カシメロがゾラニ・テテを一撃で奈落の底に落とした〝奇妙な角度とタイミングで放たれた〟右パンチ。観客もテレビを見ていた視聴者も、変なパンチが当たったのはわかっても、決定的な一撃には見えなかったでしょう。

しゃがみこんだ南アフリカ人が「スリップだ」と不満を見せてスッと立ち上がっても、おかしくない、そんなパンチでした。

フィリピン人に限らず〝ネクスト・パッキャオ〟の誇大広告を背負わされたボクサーは数え切れません。当たり前ですが、そのどれもが全てが偽物でした。

前人未到の8階級制覇は置いておくにしても、敵地をサーキットしながら番狂わせを演じるなんて普通ではありません。

ただ、後者の意味合いで、カシメロは最もパッキャオに近い空気をまとうファイターでしょう。

フィリピン人のロードウォリアーにもかかわらず、Quadro Alasが〝ネクスト・パッキャオ〟と呼ばれたことはほとんどありませんが、彼こそ最もパッキャオ的なファイターです。 

超軽量級は、世界的には注目度が低いため オッズや専門家予想はまだ見付けることができません。しかし、この試合、そろそろ「カシメロ有利」の見立てになるかもしれません。

直近の試合相手、デューク・マイカーは経験不足の未知の強豪でしたが、けして弱いバンタム級ではありません。あの相手を屠ったカシメロからは、今までにない冷静さ、貫禄も感じました。

冷静さ、貫禄を身につけたらカシメロの魅力は半減する…。そうかもしれませんが、そうではないかもしれません。

13年前にライト級のデビッド・ディアスを冷徹に切り刻んでいった、マニー・パッキャオも全く同じことを言われていましたが、パッキャオの物語は次の試合で歴史的な大番狂わせを起こすことで、新章に突入しました。

カシメロvsリゴンドー。

私には、カシメロのKO勝ち以外の予想は出来ません。