世界のアスリート長者番付は、100年に渡ってヘビー級を中心とした米国ボクサーが席捲してきました。

100年帝国が揺らいだのが1992年。

90、91年とトップを占めてきたボクサーに代わってマイケル・ジョーダンがNBA選手として史上初めて首位に立ったのです。

金額的には3590万ドル、前年トップのイベンダー・ホリフィールド(6050万ドル)から大きく数字を落としましたが、ジョーダンの報酬にはボクサーでは考えられないカラクリが隠されていました。
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当時29歳のジョーダンが所属するシカゴ・ブルズから受け取った選手報酬は〝わずか〟390万ドル、総収入のわずか1割余りに過ぎませんでした。

収入の約9割がウィルソンやゼネラルミルズ、マクドナルドなどからのendorsement(スポンサー収入)だったのです。

〝ジョーダン以前〟も人気アスリートが100万ドル単位のスポンサー収入を得ることはけして珍しいことではありませんでしたが、ジョーダンが画期的だったのはある企業から毎年2000万ドルを提供される従来の常識では考えられない超巨額のスポンサー契約にサインしたからです。

ナイキです。

ナイキは人気アスリートを単なる広告塔ではなく、カジュアル製品に還元できるより直接的な〝商品〟としてその経済価値を評価したのです。

ウエアやスニーカーまどカジュアル・イメージから遠いボクサーの場合、ジョーダンとは逆に選手報酬が総収入の9割を大きく超えていました。

クローズドサーキットやPPVによるマニアの囲い込みによって、ボクサーの一般的な知名度が劇的に低下を続けていることも、ボクシングからカジュアル・イメージを削ぎ落とし、スポンサー企業から見た経済的価値・魅力は消失してしまいます。

これまでも、メガファイトに恵まれなかった年は、ボクシングが長者番付1位を他のスポーツに奪われたことはありましたが、4年連続でその座を明け渡すなんてことは前代未聞の異常事態でした。 
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100年帝国を築いた「ボクサーの時代」は終焉を迎え「endorsementの時代」が幕を開けます。

「endorsement(スポンサー収入)>>> salary(選手報酬)」という不等式が「長者の公式」として確立されたのです。

endorsement はスポンサー収入という言葉以外で翻訳するとしたら「一般認知度」「好感度」と表現しても間違いではありません。

それが世界的であればなお良し、それが富裕国であればなお良し、です。

ジョーダンやスキャンダルを起こす前のタイガー・ウッズ、2020年の長者No.1ロジャー・フェデラーはendorsement の権化です。

一方で、スーパースターがPPVという要塞に引き籠るボクシングは「一般認知度」を高める方向とは真逆のブラックホールに吸い込まれてしまいます。認知度が低いのですから「好感度」以前の問題です。

「認知度」と「好感度」を柱としたendorsementの時代でボクサーが首位に浮かび上がることは不可能に見えました。

しかし、行き過ぎたマニアの囲い込みは確かに「認知度」を低下させるだけでしたが、絞り込まれたコアなマニアは単価100ドル近いPPVでも文句を言いながらも購入しました。

そして、認知度が大前提のはずの「好感度」も「〝ある種の方向〟ではマニアの中では大きな反響を呼んでPPVの購入意欲を刺激する」とフォーブス誌は分析してみせました。

エスタブリッシュメントが編集するフォーブス誌の分析は大概の場合後出しです。この分析も、そうでした。

「好感度」のある種の方向とは、激しく嫌悪されることです。「人気」の本質を「関心の高さ」と見れば「好かれる」よりも「嫌われる」エネルギーの方がはるかに巨大で長くこびりつく感情であることは明らかです。

それを、マイク・タイソンは無意識のうちに「狂気の犯罪者」として「好感度(嫌感度と呼ぶ方が正しいかもしれません)」を膨れ上がらせ、フロイド・メイウェザーは意図して「下劣な守銭奴」を演じて見せました。

ナイキやアメックスなどのスポンサーはメイウェザーとの契約を解消しますが、いずれもジョーダンらとは違う100万ドルにも満たない小口契約でした。

マニアから激しく嫌悪されることで、メイウェザーは失った小口スポンサーの何百倍もの大金を吸引するマネーに昇華するのです。

もちろん、彼ら以前に〝ジョーダン〟と〝タイソンやメイウェザー〟を一貫した人格の中で見せつけたモハメド・アリの特異さも忘れてはなりません。

そして、endorsementの時代 ではボクシング市場全体が地下深くに沈降してゆくことは避けられません。

元々が「2%のボクサーが全体の98%の収入を独占する」という、ボクシング界のスーパースター偏重の構図はますます濃厚になっていくのでした…。