先駆けて開幕していたプロ野球に続いて、Jリーグも再開。

スポーツがようやく動き始めました。

ボクシングも先月からトップランクが無観客でイベントを始めています。

この数カ月、メディアも過去の試合を振り返ることに大きな時間を割いてきました。


この泥酔・気まぐれ・発作的なブログで、定期的にお届けすることを匂わせた【月刊レジェンド】、無事に第二回とあいなりました。

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2007年7月7日、舞台は米国コネティカット州ブリッジポートのハーバーヤードアリーナ。日本時間は8日ですからちょうど明日がその13周年になります。


恐るべきパワーでフライ級に君臨していたレイジング・ブル、ビック・ダルタニアンのIBF王座に全く無名のフィリピン人が挑みました。

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「元フライ級王者がバンタムで2階級制覇を狙う」。そうです、世界的には正規の王者がいるにもかかわらず設定された暫定王者は認められません。


ノニト・ドネアです。


9ヶ月前にダルチニアンに屠られた兄グレンと同じ運命を辿ると、誰もが確信していました。


ダルチニアンを傘下に収めていたのは、20世紀を代表する怪人プロモーター。


世紀を跨ぐと、米国ヘビー級の没落を道連れにするように落ちぶれていったとはいえ、頭髪を逆立てた老怪の存在感は際立っていました。


「ダルチニアンはマニー・パッキャオを引き継ぐ者、ネクスト・パッキャオだ!」。

軽量級でありながら、ヒスパニックのファンを中心に圧倒的な人気を博していたフェノメノン(そういえば英語には日本語に訳しにくいもの、あるいは訳すべきでないものがあります。ボクシングでよく出てくるフェノメノンも典型です)の名前を出し「ダルチニアンもフライからフェザーを制する」とブチまけました。


パッキャオはたった1年後にジュニアライトとライトの王座を奪い、ウェルターの超ビッグネームまで狩り「軽量級としては」破格のスーパースターから「軽量級としては」という枕詞を、そんなことが現実に出来るものなのか?と拍子抜けするほど、あっさりと破り捨てます。


そして、ドネアは、このときもこの後も巷に溢れ続ける「ネクスト・パッキャオ」の旗印になりました。

トップランクと契約したときから、ドネアはその呪縛に苛立ち続けます。

「フィリピン」「ミンダナオ島」「ゼネラルサントス市」「フライ級で世界王者」「アメリカンドリーム」…多くの共通項を「ルーツ」とこじつけ売り込まれることにドネアは「パッキャオは最も尊敬するボクサーだが、私はネクスト・パッキャオでもパッキャオ2世でもない」と、同一興行に出ることすら拒否し続けます。


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当時のリング誌電子版はYahoo!sport と業務提携、蜜月関係でしたが…。その後、リング誌は大資本から見放されてしまいます。

「パッキャオを彷彿させる2ラウンドKO」…それにしても、ドネアの報道にはパッキャオが亡霊のようにいつも憑きまといました…。

米国で全く人気のない軽量級の外国人に目を引かせるには、人気のあるスーパースターの名前を引っ張り出すのが手っ取り早いのはわかりますが…。



パッキャオが一度もやったことのない「予告KO」をフェルナンド・モンティエル戦で「2ラウンド」と宣言、その通りにやってのけましたが、リング誌電子版の見出しは「パッキャオ(vsハットン)を彷彿させる2ラウンドKO」でした。

会心のパフォーマンスを演じると、その賞賛は「まるでパッキャオのようだ」。負けると「パッキャオが輝き始めたジュニアフェザーとフェザー級でドネアは早くも挫折、彼はパッキャオではない」。

メディア対応に温厚なドネアでもパッキャオの質問が続くと「私はパッキャオじゃないし彼とは連絡を取り合う中でもない!」と激高したこともありました。

メディアは「パッキャオとドネアは仲が悪い」と書きます。

パッキャオは「連絡を取り合うことは少ないけど、ドネアは私のサポートなんて要らない偉大なファイター。仲が悪いわけがない。私が仲が悪いのはフロイドだけ」と笑わせました。

契約満了を待たずにトップランクから屈辱的な形で放出されたドネアは、ジャニーズを退所したアイドルのようにBサイドのドサ回りを強いられます。 

2016年11月5日、パッキャオに請われる形でドネアは同じイベントに立ちますが、そこでもパッキャオは若きジェシー・バルガスからタイトルをもぎ取り、ドネアはやはり若いジェシー・マグダレノに敗れてタイトルを失います。

そして、井上尚弥との大勝負。


敗れはしましたが、米国では一度も経験できなかった本物の大会場でメインを張り、今まで見たこともない超大観衆から尊敬の声援を受け、多くの予想を覆す大健闘を演じました。

米国での注目度は、同じタイミングで打たれたYouTuber対決に遙かに及びませんでしたが、イベントの規模はYouTuberを遙かに上回りました。

リング誌が2019年の「年間最高イベント賞」に選んだのはサウジアラビアで行われた「砂漠の決闘」(アンディ・ルイスJr.vsアンソニー・ジョシュア)でしたが、次点は「たまアリ」。「米国の常識では想像もできないバンタム級メインで2万2000人のメガイベントが東京郊外で本当に開催された」と絶賛されます。

とにかく、茶番劇のYouTuber対決が騒がれたのは米国と英国だけ、日本では小さな嘲笑ニュースでした。

そして、何よりもどのメディアも「Paquiao-like」なんて下衆な表現は使いませんでした。

もちろん、それはとっくの昔にネクスト・パッキャオの器ではないことを曝け出してしまったことが原因かもしれません。

あるいは、井上戦と同じ昨年行われた「世代の対決」でパッキャオがキース・サーマンに快勝していたことも、もはやドネアにパッキャオと並べて語る言葉はないということなのかもしれません。

それでも「誰もが序盤でKO負けと予想したけど、KOチャンスは私にあった。たくさんミスを犯してしまったけど、井上を追い詰めることが出来た」と胸を張った36歳のドネア。

軽量級ゆえに不当な扱いを受けた米国を離れて、大好きな日本で人生初の本物の大会場でのメインを張って戦った12ラウンド。

さいたまスーパーアリーナの夜は、幸運な日本のボクシングファンだけでなく、ドネアにとっても途轍もなく充実した時間だったに違いありません。

米国ではついに一度も体験できなかった華やかな舞台。ドネアにはもう一度体験してほしい。

井上との再戦だけがオプションじゃありません。

ジュニアフェザー級にも日本の強豪、ビッグネームは控えています。

去年の「たまアリ」。仕事で行けなかったのを今でも後悔しています。

もう1度、日本のリングにその勇姿を見せて下さい!