2012年、ドネアが最も輝いた年。

セルヒオ・マルチネスやファンマ・ロペス、マルコス・マイダナ、マルコ・フック…7年前にリングの上で極彩色のパンチを振り回していた、懐かしいGUNSLINGERSたちは「ドネア世代」です。

前回までドネアとその同窓生たち10人を紹介してきましたが、7年後の今も世界王者の看板を持っているのはドネアだけになってしまいました。

この特集が掲載された2012年4月号のリング誌のPFPとGUNSLINGERS10傑を並べてみました。

こうしてみるとGUNSLINGERSたちの方が魅惑的に見えるのは私だけでしょうか?

「どっちのグループの試合が見たいか?」と問われたら?

ドネアやセルヒオらどちらのグループにも名前を連ねるグレートも目に付きますが、PFPにはメイウェザーやウォード、ブラッドリーといった退屈すぎて試合中に携帯をいじっちゃいそうな塩ボクサーが振りかけられてしまっています。

こうして見直すと「PFPに入っていないGUNSLINGERSこそが純粋に面白いファイター」、マイダナやファンマ、ジョニゴン、ビュテ、カークランド…奴らこそが真のエンターテイナーではないか?とまで思えてきます。
GUNSLINGERSPFP
1ノニト・ドネア1マニー・パッキャオ
2マルコス・マイダナ2フロイド・メイウェザー
3ファンマ・ロペス3セルヒオ・マルチネス
4ジョニー・ゴンザレス4ノニト・ドネア
5ウラジミル・クリチコ5アンドレ・ウォード
6セルヒオ・マルチネス6ファン・マルケス・マルケス
7ルシアン・ビュテ7ウラジミル・クリチコ
8ローマン・ゴンザレス8ポンサクレック・ウォンジョンカム
9ゲンナディ・ゴロフキン9ティモシー・ブラッドリー
10ジェームス・カークランド10ビタリ・クリチコ
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こんな話をしていたら、どんどん脇道に迷い込んで「ドネアよりカークランドの方が面白い」とか闇な沼にはまり込んでしまうので、正しい世界に引き戻します。

今回のテーマはドネアと井上です。

さて、この7年間でローマン・ゴンザレスが史上初の軽量級でPFPキングに輝き、カネロ・アルバレスがスターダムの頂点を極め、スポーツ史上最大のイベント「メイパック」がついに挙行されました。

7年とはそういう時間です。

GUNSLINGERSの1人に数えられた GGGの2012〜2019年を見ると、不遇のカザフスタン人が稀代のKOアーティストに成長しキャリアハイを迎え、長らく対戦を回避していたカネロと2試合を戦い、緩やかに衰えの下り坂を降りた歳月です。

… GGGクラスの物語の始まりから終章までをすっぽり飲み込むーー7年とはそういう歳月です。

そして、ドネア。

ドネアの咆哮を世界が初めて耳にしたのは2007年のビック・ダルタニアン戦でしたから、そこから数えると何と12年。

強打の軽量級としては信じられない息の長さです。それも細く長くではありません。

太く長く。そのキャリアは何度も断ち切られそうになる危機を乗り越えながら、井上尚弥との一戦に辿り着いたのです。

もし、勝負の世界に人間力などが作用するとしたら、井上尚弥に勝ち目はありません。

しかし、リングの中ではそんなチンケなものは1ミリの足しにもなりません。

そこで働く力学は、単純な強さと速さ、巧妙さだけです。人生の修羅場をいくつ超えていようが、そんなものは回り道でしかありません。

そんな無駄な経験を積む時間があるなら、1メートルでも長く走る、一発でも多くのパンチをサンドバッグに叩き込む方がリングの中では遥かに役に立ちます。

リングの中では人間力などクソの役にも立ちません。

それでも、運はどうでしょうか。

リングの中で作用する力学は実力だけだといっておきながらまだ数行しか書いてないのに、こんなことを書くのは人格が破綻しているからかもしれません。

リングの中では、運も大きな力学として勝敗に影響します。

それはあらゆるスポーツで同じことだという反論があるかもしれませんが、それは大間違いです。

現代のプロボクサーほど運命の力学に翻弄されているアスリートはどこにもいません。

ドネアです。

今回のWBSSトーナメントでドネアの周りに何が起きたかを、今更ここで書き連ねる必要はないでしょう。

2007年に遡ります。どの階級が自分のベストなのか、そんなレベルの迷路に迷い込んでいた無名のドネアに世界挑戦の話が舞い込みます。

しかも相手は〝レイジング・ブル〟を名乗りながら誰も非難しない圧倒的な実力で王座に君臨していたビック・ダルチニアン。

アルメニアをルーツに持つ当時31歳はフライ級、軽量級という枠には収まらずPFPファイターにも数えられていました。

ドネアは世界初挑戦でいきなり金鉱を掘り当てたのです。

翻って井上尚弥はどうでしょう。18戦のキャリアで13試合も世界戦のリングに上がり、3階級制覇を果たした25歳はPFP4位にまで登り詰めましたが、いまだに金鉱にヒットしたことはありません。

「伝説の名王者オマール・ナルバエスや10年無敗の絶対王者ジェイミー・マクドネルを粉砕したじゃないか!」。

そんな怒りに拳を固めた方は、ここで読むのをやめてこれからもレベルの高い黄金のバンタムで戦う井上がラスベガスのPPVイベントでメインを張って何十億円もの報酬を稼ぐ日を夢見続けて下さい。

兎にも角にも。井上が渇望しながら一度も巡り会えていない正真正銘の強豪王者に、ドネアは世界初挑戦であっけなくグローブを合わせたのです。

そして、今また圧倒的不利予想のリングに上がります。

バンタム級団体統一戦。WBSS決勝。そういう但し書きは付くものの、この試合は井上にとってハイリスク・ローリターンです。

勝って当たり前。勝っても井上の評価が上がるわけではありません。負けたらPFP追放もありえますし、勝っても苦戦なら評価は暴落です。

一方のドネアはどんな形であれ、勝てば偉大な物語にもう一つのクライマックスが付け加えられます。

まだ、物語が始まってもいない井上にとってこれほど割に合わない戦いはありません。

しかし、井上はどこまでも冷静でしょう。

彼のファン(信者)と彼の言葉のギャップにはいつも驚かされます。

ロマゴンとに試合を問われて「米国にこだわる必要はないと思う。喜んでくれるファンが一番多いのが日本なら日本でやりたい」。

先月放送された番組内でも「MGMグランドガーデンアリーナで戦うのが夢」と語りながら「メインを張るには最低でもフェザー級でないと難しいですね」と現実をわきまえていました。

「試合が終わった翌日の近所のコンビニでカップヌードルを買って店の前ですするのが幸せ」。

井上の強さの一端が垣間見えたような気がしました。

ああ、今夜も「井上と現代のGUNSLINGERS」に突入することは叶わず!

明日は早いので、もう寝ます、おやすみなさいませ!