カス・ダマトはトレーナーなのか?

この問いは「そもそも、トレーナーとは何なのか?」と置換することが出来ます。

ダマトはマネージャーか?この問いはイエス。ダマトは、数多くのボクサーのマネジメントをこなしてきました。

そして、ダマトはモチベーターか?この問いもイエス。やはり、ダマトは優れたモチベーターとしての才覚を発揮してきました。

ダマトはボクサーをマネジメントし、ボクサーを鼓舞し、さらにはトレーナーまで育てました。

彼が育てた三人のボクサー(フロイド・パターソン/ホセ・トーレス/マイク・タイソン)と、一人のトレーナー(テディ・アトラス)は、いずれも殿堂入りのグレートです。

ここで、最初の問いに戻ります。

カス・ダマトはトレーナーか?

「マネージャーやモチベーターは誰でもなることが出来るが、トレーナーを育てることはトレーナーにしか出来ない」というスポーツ世界の絶対真理に従えば、殿堂クラスのトレーナーを育てたダマトがトレーナーであることは明白です。

しかし、この偏屈で複雑で頑迷で天邪鬼の伝説は、一筋縄では語れるわけがありません。

ダマトは、ボクサーをトータルで技術指導することは珍しく、その意味ではエマニュエル・スチュワードや、フレディ・ローチのような純度の高いトレーナーではありませんでした。

〝ダマトのシステム〟とは、その信念と哲学を学習したトレーナーが、実践的な指導を構築し、ダマトの手足となって多くのボクサーを育てるものだったのです。

ダマトはスポーツ教本は著していません。

その理由は、技術屋ではないが故に、著すことが出来なかったのかもしれません。
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今夜、紹介するのは出来立てのホヤホヤ、ダマト自身の著作ではありませんが、その哲学が技術に還元されるさまを綴ったものです。

ダマトの複雑怪奇な人格から浮かび上がってきたボクシングの技術体系をあぶり出したスポーツ教本です。

ボクシングについての技術を語っているので「スポーツ教本」とカテゴライズして差し支えないはずですが、この物語からは「伝記」の香りが強烈に立ち昇って来ます。


このテキストを読み終えても、その答えは出ません。

カス・ダマトはトレーナーなのか?

いいえ、それどころか、私はこの物語を手にしたばかりに、その答えをさらに深いボクシングの森の中に迷い込ませてしまったのかもしれません。




軽い気持ちで始めたシリーズでしたが、落合博満にカス・ダマト、単純に割り切れるわけもない化け物が棲む深海は、私のような凡人がどこまで潜ることか出来るのか…わかりません。

途中で溺死するやもしれませんが、なんとしても辿り着きます。

また長くなりますが、お付き合いください。