いやあ、WBCは期待を裏切りません。日本時間の日曜日に迫ったカネロ対チャベスJr.の勝者に「特別ベルト」を贈呈するというのです。

通常のベルトが40〜50万円ですが、今回は中身はともかく、興行規模だけなら間違いなくメガファイト、ダイアモンドベルトと同じ約500万円くらいで売りつけるつもりでしょうか。

メキシコの高級なお土産でも有名なウイチョール族のカラフルなビーズをふんだんに使ったメキシコ風情溢れる、シンコデマヨ(メキシコ独立祭)仕様の美しいベルトですが、カネロは「WBCとは一切関わりたくない」と勝ってもそんなベルトは要らない(買わない)と表明しました。


【色鮮やかなビーズをちりばめた非常に美しいベルトなのですが…】
「私がミゲール・コットから血と汗を引き換えに命がけで勝ち取った(WBC世界ミドル級の)ベルトを返上したのは、WBCが勝手な期限を設けてゴロフキンとの試合を強要しようとしたから。いきなり目の前にタイマーを突きつけるような行為が許せなかったんだ。しかも、そのベルトを汗一滴も流していないゲンナディ・ゴロフキンに渡したのもWBCだ。ベルトは戦って勝ち取るものなのに、WBCは試合どころか、キャンプもしていない男に贈ったんだ。そんな団体は誰も信じることはできない」。

ロスアンゼルスタイムズ紙に激白するカネロの怒りは収まりません。

ジュニアがWBCの寵愛を一身に受けて来たことに対する嫉妬、怨念も、その背景に感じられます。WBCミドル級王者時代のジュニアは「意図的に見えるエルボーやヘッドバットを主審が黙認」「試合前後のドーピング検査が行われなかった」(2度目の防衛戦:対アントニオ・マルコ・ルビオ)、「リングのサイズが規定の下限よりも小さかった」「前日計量から20ポンド増の180ポンドでリングイン(前日計量の秤は正しかったのか?)」「試合前後の薬物検査無し」(3度目の防衛戦:対アンディ・リー)など、各州のコミッションも抱き込んだ不正疑惑(今風に言うなら伝説の息子にWBCやコミッションが〝忖度〟した?)が囁かれています。

カネロはPFP10傑にも名前を連ねるハイレベルなボクサーですが、この試合には普段より10ポンド近い164.5ポンドに膨張してリングに上がります。凡庸なファイターに堕落した(元々が凡庸なファイター?)ジュニアも164.5ポンド以下で秤から降りたのは2012年のセルヒオ・マルチネス戦まで遡りますから、もう5年も経ちます。

両者ともベストウェイトとは大きくかけ離れた体重で戦うのですから、これほど不条理で奇天烈な試合は滅多にありません。「お金を儲けることが最優先」という興行側と、「面白ければ何でもいい」というファンの思惑が一致したメガファイトは、大いに結構なのですが、この試合を行うことでミドル級トップ戦線のシナリオが崩される心配があります。

ゴロフキンをマネジメントするK2プロモーションのトム・ラフラーは「カリフォルニアに自宅を構えるゴロフキンだが、土曜日に観戦に行く予定は今の所ない。予定にあるのは9月に試合を行うということだけだ。もしジュニアが大番狂わせを起こせば?我々はビッグファイトを望んでいる。もしジュニアが勝って、彼が現実にゴロフキンとの対戦に合意するなら可能性はある」とジュニア戦も視野に入れていますが、この試合に勝ってもジュニアがミドル級の世界ランクに入る道理は無く、もしゴロフキン対ジュニアが実現してもノンタイトル戦になりますね。

もちろん、非常識こそが常識のWBCを筆頭にアルファベット団体は、何の根拠が無くてもジュニアをランキングに入れるのは疑いようがありませんが。

約5倍のオッズ通りにカネロが勝っても、ジュニアが大番狂わせを起こしても、その勝者が9月にゴロフキン戦を行うと期待するのは早計です。すでに下交渉が進んでいるカネロの場合は、万一敗退してもゴロフキンと戦う可能性があるとも言われていますが、負けたらありえないでしょう。

【ゴロフキン対カネロ、待望の一戦は9月に見られる?】
まず、このいびつな体重で行われる遺恨対決の敗者が精神的にはもちろん、肉体的にも深刻なダメージを負うのは必定です。ゴロフキンと対峙するのに4ヶ月という時間は短すぎます。さらに勝者も4ヶ月後にミドル級最強王者と拳を交えるのに十分なほどフレッシュな状態でリングを降りることができるとは考えられません。そうなると、勝者が9月にゴロフキンと戦うというのも現実的ではありません。ましてや、カネロが負けた場合、商品価値の回復を図るために、再戦条項を使ってジュニアとのリマッチを模索するはずです。これなら「時計の針を進めれば進めるほど有利になる」ゴロフキン戦を先延ばしにする大義名分にもなります。

この異様なメガファイトで一番割りを食うのは、ゴロフキンかもしれません。今回の試合がどうなるか、何がベストかは立場によって変わるでしょうが、プライムタイムの砂時計の砂が全部落ちてしまう前にビッグファイトのリングに上がりたいカザフスタン人にとっては、カネロが早いラウンドでジュニアをノックアウト、無傷でリングを降りることでしょう。

エキサイティングな試合を常に期待するファンも、今回に限ってはカネロがあっさりKO勝ちしてくれることを望んでいる人が多いのではないでしょうか。

【カネロが勝つと、この美しいベルトは誰の腰に巻かれることなく寂しくリングを後にするのでしょうか。】

今月は20日に村田諒太の大一番も控えています。ハッサン・エンダム対村田の試合で、明白にわかっていることは「エンダムが正真正銘の実力を持った世界ランカー」ということだけで、その他はすべてがベールに包まれているといっても過言ではありません。ミドル級という世界注目の階級で世界戦が行われるというのに、どこのブッカーも正式のオッズを公表できない背景には不透明な部分が多過ぎるからです。特に、①村田の実力、②日本が全力でバックアップしている試合の判定がどう転ぶのか、この二点への不信感がブッカーを戸惑わせています。

もしこの試合が有明でなく、エンダムの地元パリやラスベガスで開催されたなら、普通にエンダム有利でしょう。しかし、電通とフジテレビが全力を挙げてこのタイトルマッチを日本に引っ張り込みました。日本開催にこだわらないなら、頓挫したビリー・ジョー・サンダース戦を含めてもっと簡単に成立していたでしょう。これまで大金かけて大切に育ててきた村田が、不運な判定に泣くことだけはしたくないとの一心です。

これはフライ級やバンタム級ではありません。この試合に勝って、人気スターとの対戦となるともはや日本開催なんて寝言は言ってられません。これは、日本が村田に贈る最後のプレゼントになるでしょう。

ビッグイフですが、カネロ対ジュニアの勝者がどちらであれ、双方にダメージが残って9月のゴロフキン戦が難しいとなった時、20日の試合で村田があのエンダムを序盤で一方的に粉砕したら?

カネロ対ジュニアは日本時間で日曜日の真昼の決闘、この試合の内容は村田にも小さくない意味を持ちます。日本人が史上初めて、ビッグファイトのメインを張る可能性が一気に膨らむのです。

2017年9月16日(土)ニューヨーク・マジソンスクエアガーデン
(やりようによっては東京ドームにも引っ張れる?):世界ミドル級王座統一戦
WBAスーパー/WBC/IBF王者=ゲンナディ・ゴロフキンvsWBA王者=村田諒太
…オファーがあっても「時期尚早」ということで断るでしょうねぇ。

2018年5月5日(土)ラスベガス・T-モバイルアリーナ
:世界ミドル級統一/リング誌ミドル級王座
WBA/WBC/IBF王者=村田諒太vsリング誌世界ミドル級王者=カネロ・アルバレス
…カネロの環境がどうなるかですが、あっても不思議じゃないです。その場合、T-モバイルのスタンドはカネロを熱狂的に応援するファンで埋め尽くされて、村田は超ヒールでしょうね。村田がエンダムを豪快に沈める映像がオーロラビジョンに映し出されると耳をつんざくブーングの嵐。

カメルーン人に勝てば、こんな夢も実現しえないとは言えませぬぞ!