リング誌電子版7月号から「THE LEGACY OF DEONTAY WILDER(デオンティ・ワイルダーとは何者だったのか?)」をご紹介。


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米国最後の世界ヘビー級チャンピオンになってしまったデオンティ・ワイルダー。

2005年、アラバマ州タスカルーサの自宅を改造したジムでワイルダーがグローブをはめたのは20歳になったとき。

ワイルダーがWBC世界ヘビー級タイトルを獲得すると、トレーナーのジェイ・ディースはオレンジ色のボードを掲げました。

ヘビー級の短命王者と、長寿王者の名前を書いたものでした。

「短命」はレオン・スピンクス、トレバー・バービック、ピンクロン・トーマス、トニータッブス、フランク・ブルーノ、バーメイン・スティバーン…。

ヘビー級の短命王者トップ6のうち4人までがマイク・タイソンが勝った相手。タイソンの時代が史上最もヘビー級のレベルが低かった、後世のタイソン評価が厳しい事実を物語るリストです。

弱い相手にどんなに鮮やかに勝っても、後世からは評価されません。

せめて、クロスゲームだったイベンダー・ホリフィールドとの初戦に勝っていたなら…。

まだ王者になったばかりというのに、ディースはWILDERの名前を長寿王者のコーナーに大きく印字しました。

その願いが通じたのでしょう。

2015年から2020年までの61ヶ月間もワイルダーはタイトルを守り続けるのです。

これは、ジョー・フレイジャー、レノックス・ルイス、ロッキー・マルシアノをも凌ぐ数字です。この3人がいずれもUndisputed championだったこと、強豪を倒して一発殿堂に輝いたように、ワイルダーも後世から評価されるかどうかは別にして、ボクシングを始めた時期があまりにも遅過ぎたように見えた彼は間違いなく長寿王者でした。

ワイルダーの世界戦はWBCという小さな〝世界〟で、タイソン同様に「誰に勝ったのか?」と聞かれると目を逸らして薄笑いを浮かべるしかないような相手ばかり。

そして、WBCの世界戦ですらワイルダーの代名詞であるKOパワーも減退していました。

ヂャン・ヂレイに無惨に破壊されたとき、ワイルダーの抱える問題が全て曝け出されてしまいました。

中国人のショートカウンターに枯葉のように舞い、360度も回転させられてしまいます。

ライト級の選手がミドル級の選手に吹っ飛ばされたように。現実にはそれ以上の体重差がありました。ワイルダーはヘビー級巨人時代に、何十ポンドも軽い痩身で自分よりも遥かに重い相手に、蟷螂の斧で立ち向かったのです。

いいえ、彼は頭抜けて軽いヘビー級であっても、左右の拳には巨人を一撃で倒すパワーを秘めていました。

ルイス・オルティスとの2試合はいずれもパンチャーズ・チャンスをものにした大逆転劇。タイソン・フューリーとの3連戦は詳しく見るといずれも完敗でしたが、それは「ダウンを奪ったラウンドを除くと」という注意書きが必要です。

ワイルダーとタイソンを「弱い相手にしか勝てなかった」と括るなら、その人に聞きたい。タイソンは一度でも逆転勝ちをしたことがあったでしょうか?

あるいは、タイソンはワイルダーのように自分よりも重くて強い相手にむき出しの勇気だけで立ち向かったことがあったでしょうか?

たったの一度もありません。

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ワイルダーは名誉の殿堂入りをするかもしれません。

もちろん、ヘビー級のレベルが高かった時代、いや決して高いとまでは言えないクリチコ時代と重なっていたら、ワイルダーはWBCのストラップすら獲れなかったでしょう。

殿堂の投票者でもあるパトリック・コナーは「ワイルダーの殿堂入りはありうる」と明言します。

「ロン・ライル、ジェリー・クーニー、レイ・マーサー、アンドリュー・ゴロタ、レーザー・ラドック、デビッド・ツアはワイルダーと同じくらいか、それ以上の対戦相手と戦ってきましたが殿堂入りはならなかった。ただ、殿堂にはスリリングなファイターを高く評価する傾向がある。アーツロ・ガッティはその代表格だ。ガッティは勇気があったが、誰に勝ったというのか?」。

「ベーブ・ルースが人々に興奮を与えたのは、本塁打の魅力を教えてくれたからだ。そして、その興奮は当たってたら本塁打という、三振を見ても沸き起こった。ワイルダーの人気はまさにそこにある。ただ、バンビーノは卓越したテクニシャンでもあったが、ワイルダーは史上最も下手くそな世界王者だ」。


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“Like a howitzer mounted on a baby carriage.”〜カノン砲を搭載した乳母車

「なんという、ワイルダーを見事に言い当てた表現だろうか!1発にさえ気をつけていたら、ワイルダーには簡単に勝てる…1発にさえ。しかし、その1発が火を噴くとゲームオーバー。過去15年間、ボクシングの試合を取材続けてきたが、ワイルダーの右は全く特別なもので、あんな凄まじい火力のある武器は見たことがない」。

「そして、ワイルダーのスパーリングも何度も見てきた。その〝練習試合〟のほとんどでワイルダーは負けていたのだ。タイソン・フューリーとの初戦に臨む前に、トレーナーのマーク・ブリーランドに聞いたことがある。『8歳でボクシングを初め他あなただが、ワイルダーの技術をどう見ているのか』と。五輪金メダリストは真剣な表情で『11歳の頃の私の方が技術的には上』。それなのに『勝つチャンスは十分ある』と言い切るんだ」。

「それも納得だ。ワイルダーは乳母車かもしれないが、カノン砲を積んでいるのだから」。




当時のボクシングシーンは、ワイルダーとアンソニー・ジョシュア、フューリーが無敗の王者として割拠していました。

今や、3人ともあの頃の輝きを失ってしまいました。

多くの専門家から史上最強の呼び声が高かったフューリーでしたが、その錯覚はどこからきたのか?

あの錯覚の源泉は、デオンティ・ワイルダーに3連勝したからです。

現在、最強と見られているのはオレクサンデル・ウシク。

しかし、引退を拒否している稚拙な乳母車がウシクへの挑戦権を手に入れて、あの機動力抜群の戦車をひっくり返したら?

「ワイルダーがウシクに勝てるわけがない」と否定するボクシングファンは、おそらく少数派でしょう。

乳母車に搭載されたカノン砲がクルーザー級上がりのウシクのチンやテンプルに炸裂したら?誰もが、それにワクワクするはずです。

米国ヘビー級というプライドを守るために保護されてきたワイルダーの評価は、確かに蜃気楼でした。それが事実です。

そして、彼の拳が飛び抜けた破壊力を秘めていることも、またもう一つの事実なのです。





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