パリ五輪アジア最終予選。

北朝鮮が大勝負に臨むとき、正攻法から外れた戦略を選択するのは珍しいことではありません。

今回も北朝鮮が奇策を使ってくるという予想は十分ありました。

それは、事実上のホームで先勝するために、より攻撃的にゴールを狙ってくるというのが最も可能性が高いものと思われました。

しかし、試合前のウォームングアップでDF5人を並べて、後ろに引いて守る戦略をとってくることが明らかになります。

長谷川唯は「5人で来ることもありうると試合前に話していたが、対応しきれなかった」と、前へ前へとプレスをかけてくる北朝鮮がガチガチに守りから入ってくるとは。


すぐ思い出すのはアトランタ1996、女子柔道48kg級決勝。

圧倒的有利と見られていた当時20歳の田村亮子が、ワイルドカードから勝ち上がって来たケー・スンヒにまさかの判定負け。

16歳の少女は左前の〝逆襟〟で畳に上がり、絶対女王を戸惑わせることに成功したのです。

試合後の記者会見、そこでの田村亮子は鮮烈でした。衝撃の敗北に一番ショックを受けているはずなのに、目を潤ませることもなく淡々と話す清々しさに、超一流の柔道家の矜持を見た思いでした。

「相手が強かった。私の実力不足」。会見場は屋内のはずですが、ヤワラちゃんの前髪はなぜか風に揺れていました。



さて、なでしこがパリ五輪出場をかけた勝負は、明後日。水曜日の国立です。

そんな大勝負の直前、INAC神戸が「アスコホールディングス」から「大栄環境株式会社」に株式譲渡されると発表されました。

名門INAC神戸が身売り。

女子サッカーの置かれている現実を突きつけられるようなニュースでした。




過去を振り返っても、彼女たちは非常に厳しい冷たい風に晒されてきました。

日本女子代表は、シドニー2000への出場を逃したことで、国内リーグから企業チームが次々に撤退。多くの選手が夢を追いかけるピッチを失ってしまいました。

女子サッカーはアテネ2004に向かって走ります。

あのときも、北朝鮮でした。

04年4月24日、10年以上も勝てないアジアの壁に、日本代表は敢然と立ち向かいます。

FWの荒川恵理子は「この試合に負けたら女子サッカーは終わる」と、悲壮な決意でゴールを目指し、3−0で快勝、見事に五輪切符を摘んだのです。

日本協会の公募によって愛称が「なでしこジャパン」に決まったのも、この試合がきっかけでした。

あれから20年。またしても北朝鮮です。

女子サッカーの歴史を知る長谷川は「女子サッカーのために、五輪は必ず出場しなければならない大会」と決意を強くしています。

世界ランキングは、なでしこが8位、北朝鮮が9位。

50−50の大勝負です。

がんばれ、なでしこ!