カネロ・アルバレスvsジョン・ライダーのメガファイト、そのアンダーカードに元五輪銅メダリストで元WBCライトヘビー級王者のウクライナ人がリングに上がります。

Oleksandr Gvozdykです。

Oleksandr Gvozdykは英語。

ウクライナ語では「Олександр Гвоздик」で、もはや、ほとんどの日本人には読めません。もちろん、私も。そもそもロシア語系は難解すぎます。

日本では「オレクサンダー・グボジーク」と表記されることもありますが、ボクシングマガジンでは「オレクサンダー・グボジアク」、ボクシング・ビートでは「オレクサンドル・ゴズディク」。

「オレクサンドル」か「オレクサンダー」かも揺れているのです。

これはリング誌でもグボジアクやウシクらの「Олександр」について、ロシア語の「Александр」の英語表記「Aleksandr」と、ウクライナ語の「Олександр」の英語表記「Oleksandr」のどちらを採用するか、混乱していましたが、ロシアのウクライナ侵攻以降は「Олександр=Oleksandr」に統一されています。

ロシア国籍の Александр  Поветкин は Alexander Povetkin(アレキサンダー・ポベトキン)、ウクライナの Олександр Гвоздик は Oleksandr Gvozdyk(オレキサンダー・ギボジアクかオレキサンデル・ゴズディク)。やはりウクライナの Олександр  Усик もOleksandr Usyk(オレキサンダー・ウシク)となります。

そもそも、私の最初のアレキサンダー体験、すなわち「アレキサンダー大王」ですら、現在ではギリシア語の「アレクサンドロス」が主流と混迷を極めています。

Олександр Гвоздикの日本語のケースでは「アレキサンダー問題」と「グボジアク(ゴズディク)問題」が同時の勃発しており、表記にとっては全く別人にしか見えなくなっているのです。

習近平は中国読みではシー・チンピン、英語でXi Jinping、日本語漢字読みでシュウ・キンペイ、外国語を日本語にするのはとにかく面倒でややこしいものです。

600万を超える宇宙言語に精通した通訳ドロイドC-3POなら、どんなふうに処理してくれるのでしょうか?


ーーー前置きが長くなりました。


問題のОлександр Гвоздик の日本語表記をどうするのか?迷いましたが、ここはDAZNに従って「オレクサンドル・グヴォズディク」(おお!なんかうまいことボクマガとビートの折衷案みたいにまとめてるじゃありませんか!)とします。

そのオレクサンドル・グヴォズディクと拳を交えるのが、ラトビアのRicards Bolotniksです。

Ricards Bolotniks…まず「リチャード」か「リカルド」か?

とりあえず、ラトビア語では、Ričards Bolotņiksなので…

もうキリがないので、やはり〝DAZN表記〟でリチャード・ボロトニックで通します。




ラトビアでボクシングが人気スポーツというのを知ったのは、あの選手に大不評だった〝詐欺トーナメント〟WBSSのクルーザー級トーナメントが黒字興行だったということからでした。

ボロトニック、いい面構えのガッツあるファイター、まだ33歳ですが防御面での欠点は致命的、一発強打もありません。 

試合の興味は勝敗ではなく、掛け率で1/10(1.1倍)のグヴォズディクが 、6/1(7倍)のボロトニックを「どう料理して見せるのか」に絞られています。

その グヴォズディクは、ロンドン五輪81㎏級で銅メダルを獲得、2014年4月12日に「マニー・パッキャオvsティモシー・ブラッドリー第2戦」のアンダーカードでプロデビュー。

北米の地域タイトルをコレクション、WBC暫定王座までピックアップすると、2018年12月1日、本丸のWBCタイトルにアタックします。

王者アドニス・スティーブンソンは9連続防衛中で内7つをKOで片付けている、スーパーマンの渾名を持つ41歳。2013年にはリング誌のFighter of the yearにも選ばれている文句なしの強豪王者です。※最も格が高いBWAAのFighter of the yearはフロイド・メイウェザー。

そんな王者に敵地で挑戦するというのにオッズも専門家予想もグヴォズディクが明白に有利とみられていました。31歳のウクライナ人の評価はそれほど高かったのです。

試合は王者が予想外の見当を見せ、10ラウンドまでのスコアは98−92/96-94/95−95でグヴォズディクがリードを許していました。

しかし、内容的にはウクライナ人が試合をコントロール。10回終了間際に右をまとめてスティーブンソンにダメージを与えていました。11ラウンド開始前、コーナーのテディ・アトラスは「そろそろ終わりにしようか」とGOサインを出します。フィニッシュブローは「どこから来るのか見えなかった」(スティーブンソン)という、やはり右でした。


試合終了後にステベンソンは病院へ救急搬送。重度の外傷性脳損傷と診断され、緊急手術を受けましたが、数週間後に昏睡状態から意識を回復しました。
 
2020年4月11日、元妻がステベンソンの個人口座から89万1,000ドル(約1億円)を無断で引き出すなど、悲しいニュースも伝えれれています。

さて、タイトルを獲ったばかりのグヴォズディクでしたが、WBA王者ドミトリー・ビボルやIBF王者アルツール・ベテルビエフ、 WBO王者セルゲイ・コバレフら対立王者を出し抜いて「階級最強」と見られます。

そして迎えた大一番、2019年10月18日。IBF王者ベテルビエフとの無敗王者同士の激突。 




試合結果を知っている、そしてベテルビエフの「その後」も知っている私たちは忘れてしまいがちですが、この試合も32歳のグヴォズディクのテクニックが、34歳のベテルビエフのパワーを封じ込めるとみられていました。

9ラウンドまでの採点はグヴォズディクから見て87−84/86−85/83−87の2−1。ウクライナ人のペースにも思えますが「有効打」を「綺麗なクリーンヒット」と「相手に与えたダメージ」のどちらに解釈するのか、という試合でした。

規格外のパワーパンチを何とか堰き止め、耐え続けたグヴォズディクのダムは10ラウンドでついに決壊してしまいます。3度のダウンを奪われたグヴォズディクを救ったのは主審のゲイリー・ロサトでした。

プロ18戦目で初黒星。しかし、心身を破壊されたダメージは深くグヴォズディクはリングを去って、グローブを吊るします。

これまでに稼いだファイトマネーを元手に母国ウクライナでカジノをオープン。

「3人の子供がいて、妻は私がプロボクサーであることをいつも心配していた。そして、あの敗北。引退するには、いいタイミングだった」。

“I started a business. It was kind of successful but then the war in Ukraine started.”

「カジノのビジネスは順調だった。でも、人生ってやつは、何が降りかかってくるか誰にもわからない。ロシアの侵略が始まってしまったんだ」。

商売を一旦たたんだグヴォズディクが、家族を養うために選ぶ仕事は一つしかなかった。

36歳になった元五輪メダリスト 、元世界王者は今年2月11日にリングに戻ってきました。

ジョスイ・オバンドーとの6回戦。

「カネロ・アルバレスやヒルベルト・ラミレスとのスパーリングで、十分な手応えを感じていた。 オバンドーは良い選手だが、私が戦う相手ではなかったからKOしようとは思わなかった」。

試合はフルマークの完封勝利。

現在、エディ・レイノソに迎えられ、トレーナーにはマルコス・コントレラスが付いてロスアンゼルスでトレーニングを積んでいます。 

陣営は「今すぐにでも世界チャンピオンに返り咲ける」と、グヴォズディクがすでにそのレベルまで戻っていると自信を見せていますが、本人は「今はボロトニックのことだけに集中している。ダメージを最小限に抑えて、印象的な勝利を収めること」と、目の前を見つめています。

ロシアの侵略戦争によって人生を狂わせられた Oleksandr Gvozdyk。

「誰だって。戦争によって、人生設計が変わったことは仕方がない。戦争は嫌だし、良いことなんて一つもないが、カムバックして良かったと喜べる未来を作ることは出来る。誰がチャンピオンなのか、つまりターゲットが誰なのかも、よくわかっている」。

「引退したのも良いタイミングだったが、カムバックするのも良いタイミングだと思わないかい?私がランキングを上げて、世界挑戦する頃には、ちょうど4つのベルトが まとまってるかもしれないんだから」。