よど号ハイジャック事件犯が「我々はあしたのジョーである」と宣言したのは、衝撃的な史実でした。

共産主義者が、架空の物語とはいえ、プロボクサーの生き様に自分を重ねて愉悦していたのですから。



日本経済新聞の名物コーナーに「私の履歴書」があります。65年も続くロングランの妄想バージョンです。 
middle_1298911548
矢吹丈(ハヤシヤ通販ドットコムCOO/元WBC世界バンタム級プラチナ王者)⬛︎

物語では詳しく触れられてませんが、私は戦争孤児だったんです。

力石徹やウルフ金串もそう。みんな貧しかったし、何より身寄りがなかった。

ホセ・メンドーサの世界バンタム級タイトルに挑戦、判定で敗れはしましたが、自分で言うのもあれですが、私の人気はすごかったんです。

白木財閥が本格的にスポンサーに名乗りを挙げて、大手広告代理店が積極的にプロモートにも参加してくれました。

世界挑戦に失敗しても日本列島を沸騰させるほど人気がありました。

まあ、最近の「鬼滅の刃」どころの騒ぎじゃなかったです。

当時は、WBAとWBCに団体が分裂した直後で、両団体から「ジュニアフェザー級を新設するから矢吹ジョーに初代王者決定戦に出場してほしい」というオファーも届いてました。

学もない、身寄りもない、戦争孤児の私が社会で認められるにはボクシングしかなかったから、乗り気でした。

減量苦から解放されるジュニアフェザーも魅力でしたが、私との試合でホセが引退、なぜか負けた私をWBCはバンタム級の最上位王者、プラチナチャンピオンに認定してくれました。この王座の防衛戦にも興味はありましたよ。

やっぱり、ずっと戦ってきたクラスで思い入れがありますからね。

ただ、ホセとの試合後に工業地帯の裏道で林屋の紀ちゃんから「ボクシングなんてやめて」と言われちゃうんです。2回目ですね、試合前にも同じ場所で諭されましたから。

1回目は、私に愛を伝えてくれた紀ちゃんを「男には女が、女には男がお互い掃いて捨てるほどいるってこった。でもな、ホセ・メンドーサは世界に1人しかいねえんだ」と拒んじゃいましたが、2回目はそうはいきませんでした。



◉紀ちゃん「矢吹くんの嘘つき!世界チャンピオンは世界に1人しかいないとか、全部嘘じやないの!WBAにもWBCにもチャンピオンがいるし、階級も覚えられないくらいあるわ!」

▶︎ジョー「い、いや…WBAとWBCにはそれぞれ1人しかいないし、階級だって10くらいだから覚えようと思ったら覚えられるし…」

◉紀ちゃん「そんな屁理屈通ると思ってるの?そのうちもっと世界チャンピオンは増える気がするわ。きっと団体も階級もまだまだ増えて、それこそ世界チャンピオンが掃いて捨てるほどいる時代が来るわよ!負けた矢吹くんがプラチナ王者なんておかしいでしょ!WBCは人気のある矢吹くんから承認料を取りたいだけの腐敗団体よ!何ヶ月も続けてリング誌が矢吹くんを単独カバーしてるのも、日本で飛ぶように売れるからよ!」

▶︎ジョー「確かに、負けた俺がプラチナ王者とか素直に喜べないけど、今度はホセみたいな階級最強王者と戦わなくても、王者になれそうだし。WBCのジュニアフェザー級王者決定戦はカーロス・リベラと組んでくれることが内定してるんだ」
 
◉紀ちゃん「あきれた…WBCはカーロスに引退勧告を出してたのに。階級最強王者って、そんな日本語もおかしいと思わないの?王者が最強なのは当たり前じゃないの!最強じゃない王者ってどういうこと?矢吹くん、頭打たれすぎて日本語も理解出来なくなったの?」

▶︎ジョー「いや、俺だってなんとなくわかってるよ。でも、俺にはボクシングしかできないから」

◉紀ちゃん「そんなことないわ!矢吹くんの人気は不滅よ!不滅の矢吹なのよ!もういい加減に気づいて! 」

▶︎ジョー「いや、その人気だってボクシングをやっての人気だから」

◉紀ちゃん「やっぱり頭の打たれすぎね…。いい?矢吹丈はブランドなのよ!『あしたのジョー』にはWBAとWBCをまとめて買収できるくらいのブランド価値が有るの。あなたの肖像権はモハメド・アリ並みの価値が有るのよ!」

▶︎ジョー「よく分かんねえよ、ブランドとか肖像権とかって」 

◉紀ちゃん「林屋ブランド、矢吹丈ブランドの缶詰や乾物を付加価値だと言って高額で売るのよ。飛ぶように売れるわ」

▶︎ジョー「 暴利貪る缶詰なんてドヤ街の誰が買うんだ?そんなの1個も売れねえよ」

◉紀ちゃん「あんな貧乏人、誰が相手にするものですか!東京中、日本中で商売するのよ。ゆくゆくは世界を相手にするわ。世界中から『あしたのジョー鯖缶』『マンモス西のカップうどん』のオファーが殺到するのよ」

▶︎ジョー「世界で鯖缶?紀ちゃんの方こそボクシングもやってねえのにパンチドランカーになっちまったんじゃねえのか?」

◉紀ちゃん「通信販売なら日本、世界中に売れるわ。 今にインターネットの時代も来るわ!ドヤ街の店と駐車場は売り払って、丸の内か銀座に本社ビルを建てるの」

▶︎ジョー「はあ?インターネットって何の網だよ?それにあんな場末の土地、誰が買うってんだい?」

◉紀ちゃん「矢吹くんは本当に馬鹿ね。三菱地所や住友不動産の偉いさんが連日、林屋詣出してるの知ってるでしょ。ここを再開発するには林屋と駐車場は絶対外せないのよ。今に見てご覧なさい、ここに日本一高いタワーが建つのよ」

▶︎ジョー「東京タワーより高いタワーがこんな場所に建つわけないじゃないか!ドブ川も流れてるし。段平のおっちゃんはどこで寝起きするんだよ?」

◉紀ちゃん「あんな汚い川は埋め立てられて、泪橋も名前だけ残って大きな幹線道路が走ることになるわ。段平のおっちゃんはイメージが悪いから施設に入れるの。」

▶︎ジョー「紀ちゃん、やっぱり頭おかしいぜ」

◉紀ちゃん「矢吹くん、これ見て。昨日、三菱と住友が白紙の小切手を置いていったの」

▶︎ジョー「本物……?紀ちゃん…!。いや、紀子さま、頭おかしいなんて言って、本当に申し訳ありませんでした。これからは何でも言うこと聞きます」
IMG_0805
そんなやり取りがありました。

いや、早くにボクシングを辞めて正解でしたね。

命を賭けて戦ったあのホセ・メンドーサも今じゃネットで「BOXRECを見ると大した相手に勝っていない」「団体分裂時代の過大評価王者の典型」「殿堂入りできないのも当然」ですからね。

ありがたいことに、フォーブス誌の世界長者ランキングで1位に数えてもらってますが、このチャンピオンは世界に1人だけですから気持ちがいいものです。

去年は総資産2000億ドル、約20兆円でしたかな。

ボクシングのファイトマネーなんパッキャオやカネロでも1000万ドル、10億円単位の世界ですからね、とっとと辞めて正解でしたよ。

あのまま続けてたら、重度のパンチドランカーになって、今頃場末の施設で廃人生活だったかもしれません。

今でも紀子CEOには頭が上がりません。あの原動力は、恋敵の白木葉子さんを出し抜こうという思いからだったのかもしれません。

白木財閥を吸収合併したときは何度もガッツポーズしてましたから。