ジンクスやタブー。

そのほとんどは、ただの迷信です。

野球でよくいう「代わった守備にボールは飛ぶ」。そんなの全くの偶然です。

ジンクスやタブーはあらゆるスポーツで囁かれてきました。

しかし、ボクシングほどそれらに溢れたスポーツは他にありません。

「世界王者には返り咲けない」「サウスポーは世界王者になれない」…その多くはヘビー級にまつわるものですが、非ヘビー級にも近寄り難い結界はあります。

「一度上げた階級から再び体重を落とすと別人になる」「フェザー級以下での10ポンドを超える階級制覇には赤信号が灯る」…そんならリミット体重が存在する非ヘビー級ならではの代表的なジンクスもあります。

シュガー・レイ・レナードとロイ・ジョーンズJr.の衝撃的な破綻によってボクシングファンの誰もが迷信とは考えていない「ポロロッカ(階級の逆戻りの先に待っているのは地獄)のタブー」。

ノニト・ドネアとローマン・ゴンザレス、軽量級ながらPFP3位と1位に輝いた2人でも苦悶した「10ポンドの壁」。

ドネアは112ポンド(フライ級)から118(バンタム)では無双しましたが、122(ジュニアフェザー)では鮮やかなKOは影を潜め、ギレルモ・リゴンドーとの最強決戦では完敗。

126(フェザー)では穴王者からアルファベットタイトルを奪うのが精一杯で、キャリア初のKO負けまで喫してしまいました。

PFP1位のロマゴンも105(ストロー)から112(フライ)で魅せた完璧なボクシングは、115(ジュニアバンタム)では軽さだけが目立ち、凡戦と惨敗を重ねてしまいます。

21世紀の軽量級を牽引したドネアとロマゴンですら、10ポンドの壁に跳ね返されたのです。

この絶対タブーの10ポンドの壁を易々と飛び越えたのが、日本の誇るモンスター井上尚弥です。

複数階級制覇を意識したのでしょうが、やや無理矢理な108(ジュニアフライ)からスタート、ちょうど10ポンド上のバンタムでも圧倒的なパワーボクシングを披露しているのです。

パワーボクシングと書くと誤解を招きかねませんが、ファン・カルロス・パヤノの意識のコンセントを引っこ抜いた戦慄のジャブクロス。

苦手と見られていたクロスレンジで、インファイトに長けたエマヌエル・ロドリゲスを斬ったコンパクトな左カウンター。

パヤノは井上を警戒し過ぎて固かった。ロドリゲスはパニックになったのか、クロスレンジで大振りだった。

後付けではなんでも言えます(私のことです)。

誰にとってもやりにくいドミニカンが緊張していたのも、素材の良さは誰もが認めるプエルトリカンが力みかえって打ち合ったのも、過去の2人の試合では見られないものでした。

それは、全てモンスターが引き出したものです。あの試合でファンは、見えないはずの魔法のガウンが見えたはずです。

それはパヤノとロドリゲスにはもっと鮮やかな恐怖の極彩色で視界に飛び込んで来たはずです。

見えないはずの魔法のガウンはパヤノとロドリゲスという触媒のおかげで、私たちにも視覚出来たのです。

11月7日、その月で37歳の誕生日を迎えるドネアは若くて速くて、卓越した技術を駆使する井上とアウエーで対峙しなければならなりません。

自身が阻まれた10ポンドの壁を簡単にプチ破った26歳のモンスターと。

しかし、タブーを易々と乗り越えたのはドネアも同じです。

もし、井上が今から5ポンド軽い2階級下のフライで戦うとしたら?敬虔な井上信者でも希望的な観測はできないでしょう。もちろん、そんな必要はありませんが。

フィリピンの閃光は126から118へ、8ポンドも下げてきたのです。

ドネアの「再びのバンタム」を、タブーを覆したと評価するのは早計かもしれません。

神の配剤としか思えないライアン・バーネットとステフォン・ヤングとの2試合の結果だけでは何もわからないーーそれも一つの事実です。

しかし、ここで語りたいのは上っ面の事実ではありません。

色眼鏡を外して、事実のオブラートを剥ぎ取って、その奥にある真実を覗くことです。

ジュニアフェザー級でデビューしたドネアにとって、ポロロッカの逆鱗はとっくに馴化したさざ波なのかもしれません。

そして、ドネアは強くなるためには世間の目を気にせずドーピング・グルまでチームに迎える唯物主義者です。

ボクシングのグローブを利用して、地位と名誉とカネを浅ましいまでに追究したパッキャオと、純真にボクサーとしての強さを求めるドネア。

ドネアがパッキャオを「尊敬していないわけがない」と言いながら、長らく同一興行はもちろん練習も共にしなかったのは、ボクシングに対する姿勢が相容れないものだったのも理由の一つかもしれません。

パッキャオも「ドネアの力になりたいが、それは私からアプローチすることではない」と、ドネアか距離を置きたがっているのをわかっています。

しかし、ドーピング問題同様にパックマンは悪い意味でも天真爛漫です。

「私はいつかどこかでドネアの気に触ることでも言ってしまったか?」。

そんなわけありません。

同性愛者には悪魔になるパッキャオでも、同胞には無私の愛を捧げてきました。

今や巷に溢れるネクスト・パッキャオの走りだったドネアは、パッキャオの近くに立つと自分がどう見られるかを痛いほど知っていました。

パッキャオのメガイベントの前座に出場したら、世界中に名前が売れる、報酬も跳ね上がるーーそんなこと、わかりきってます。




ムムムムム……。

酔っ払って電車の中で、思いつくまま書き綴ってると本筋とズレてきてることに気がつきました…、

ジンクスを打ち砕いた井上vsドネアのお話、本筋に行きつ戻りつ、まだまだ続きます。

素晴らしい試合を期待してます!きっとそうなる!